26.尊い者達
〜乙女木彩良〜
傍に居ればもう、ティムの虜にならずにはいられなかった。
「でしょ?」という語尾が可愛い。
低すぎない少年ボイスが可愛い。
人の心の機微をすぐに見抜く癖に、ちょっと鈍感で的外れな勘違いをしたりするところが可愛い。
懐くと心を一瞬で許してくれるところが可愛い。
私を変に女として見ないところが最高。
ニオ大好きオーラが全身から溢れていて萌える。
地球で推していた2次元男子の面影は、一瞬で消え去った。
ティムの幸せについて考えることだけで、頭をいっぱいにした。
最初はトマとの組み合わせが美味しいかと思っていたけれど、ニオとティムのただの幼馴染というにはバグりすぎた距離感に、次第にハマっていった。
共に過ごしたほんの数日で、ティムの幸せにはニオが必須だと、私は確信していた。
そんな中、初夜回避の打診をニオから受けたときは本当に震えた。
当事者のティムではなく、ニオからの打診。
それはただのニオの独占欲なのか。
いや、もしかすると、何らかのトラウマや不利益からティムを守りたいという意志の表れなのではないだろうか。
騎士!?騎士なの!!??
騎士ニオ!!
姫ティム!!!(男)
花を満開にする代替策を二人に協力させるという約束をまんまと取り付けた私は、是非この騎士×姫(男)シチュエーションで、ニオとティムには絡んでいただこう!とほくそ笑んだ。
そして裏でコソコソとふたりに似合いそうなコスチュームを作らせたり、言ってほしいセリフ、取ってほしいポーズを考えるのに忙しい日々を送った。
✽
X-Day当日、私はウキウキが止まらなかった。
あんなシチュもこんなシチュも、はたまたそんなシチュまで準備万端だ。
どうお願いを切り出そうかな、なんて考えながら教会の控室に入室すると、妖精の国の王子(花婿ティム)が目に飛び込んできて、一時的に視力を喪失した。
そんな王子が私に対してホスト化するものだから、泡になって消える心地だった。
幸せだった。
幸せでしかなかった。
なのに、私の崇拝者を気取る馬鹿が、勝手にティムを撃った。
ふざけるな、知らないくせに。
どれだけティムがいて救われたか、なんにも知らないくせに!!
『サラ、オレと友達になろう』
『心から貴女が大好きだよ。ニオもオレも、ずっと傍にいるからね』
何度もティムの笑顔と言葉が頭の中でリフレインして、涙が零れた。
“救国の乙女が心潤うとき、奇跡が起こる”
潤え。潤え!!
私にとって、この国はティムそのものだ。
私の起こせる奇跡のすべてをティムに!
祈りながらニオを見る。
護衛隊がティムから引き剥がそうとするのを必死に拒否して、ティムを離すまいと藻掻いていた。
あんなに大きな声を出すニオは見たことがなかった。
思い返せば、普段からニオの感情はすべてティムに起因していた。楽しそうに笑うのも、嬉しそうに微笑むのも、怒るのも、全部ティムが絡むときだけ。
痛々しい笑みを浮かべた彼は、思い出の品なのだろうか。ポケットから万年筆を取り出した。
空虚な瞳から、静かに涙が滴った。
そして万年筆に一度くちびるを寄せると、掠れた声でティナを呼び、「愛してる」と囁いた。
もう魂のない相手を乞い願うキス。
その光景があまりにも尊くて。
花はすべて開き、奇跡は起こったのだった。
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サラ回、あと1話続きます(,,ᴗˬᴗ,,)⁾⁾⁾