25.乙女木彩良の憂鬱
〜乙女木彩良〜
私の名前は乙女木彩良。
本当はオタク気質なのに顔が派手なせいでそうは見られず、本性を隠してなるべく周りに合わせ、明るく活発に見えるよう振る舞ってきた。
高校3年生になったばかりの春のこと。下校後、私は高校近くの公園のベンチに座り、バイトまでの空き時間にスマホでネット小説を読んでいた。
そうしたら急に地面に穴が開いて、真っ逆さまに落ちる感覚のあと、一面雲みたいな場所にいた。
え、脳の病気とかで死んだのかな?と思っていると、異世界の創世神を名乗る謎の黄色いモジャモジャに木の枝を一本手渡された。
『え、死んでない死んでない!君がちょうど良さげかなと思って。
これを花満開にしてくれたら帰ってもいいよ!お礼に願いも1つ叶えてあげるね!』
と、モジャモジャのくせにぶりっこポーズしながら、上から目線で言ってきた。
受取拒否するから地球に帰せと怒鳴ったけれど、
『もう選んじゃったから無理。キミは外見だけなら完璧に乙女な感じだし、苗字に“乙女”もついてるし、まあ運命だと思って諦めて。
救国の乙女特典で、音声検索機能はつけとくね!
“ヘイ、シーグル”って呼んだら答えてくれるからね。この天の声操ってる感じ、神秘的な雰囲気醸し出せそうじゃない?ふふっ』
と一方的に喋り散らかすから無視をしていたのに、いきなり何処かわからない荘厳な広間の中央に立たされていて真剣にムカついた。
バイトどうすんの!お金貯めて推し活しようと思ってたのに!!
小説めっちゃいいところだったのに!!
願い!?
勉強せずに大学合格とか!?
でも受かったあと苦労するだろうから、それは駄目だ。
とりあえずムカつく。どう考えてもムカつく。
すっごい無理難題吹っ掛けてやる!!
怒りに燃えているうち、気づけば“救国の乙女”とやらに仕立てられ、祀り上げられ、最高権力者とか言われながら権力の欠片もなく贅沢だけを許容され、検索を駆使して狸ジジイたちに言われるがまま働く生活に追い込まれた。
若い女子はチヤホヤしておけば喜ぶとでも思っているのか、頼んでもいないのに逆ハー作ろうとしてくるし、どこで使うのかわからない宝石ばかり買わせようとしてくるし、潤うどころか苛々が募っていた。
「花はどうやったら咲きますかねぇ?」
揉み手をしながら定期的に聞いてくる、上層部の大臣たちが本気で鬱陶しすぎて、「知るか!」と返していた。
そんな慣れない日々を根性で乗り切るのにも疲れてきた頃、すっごいイケメンと、落ち着いた黒髪黒目の程々イケメンがやって来た。
すっごいイケメンは眩しすぎてまともに見れなかったし、綺麗すぎて絶対にチャラいと思った。黒髪黒目は色彩が懐かしくて何となく傍に置いた。
年も同じだったから、ニオと友達になれないかな?と思ったけれど、何度頼んでも敬語を崩してはくれなかった。
でもこういう堅いタイプの方が信用できるはずだから、何とか私の味方にしたいと考えて話しかけまくっていたある日、遠目に金髪イケメンが見えた。
すっごいイケメンことティムは、ニオの幼馴染だと聞いていた。ティムのことを眺めながら、「やっぱり超綺麗だけどチャラそうなんだよねー」と私が言えば、
「そんなことないです。ティムはすごく優しくて人のこと考えられるヤツですよ」と語るニオが穏やかな顔をしていて、隠していたBLアンテナが少し反応した時だった。
ニオが一点を凝視し始めたので私もそちらを見ると、大人のお兄さん系トマと、美ティムが戯れていた。何かを言われたトマが照れて、ティムをワシワシ撫でている!去って行くトマを、ティムが慈愛の瞳で見つめている!!
あまりの美しい光景に花が咲いた。
私はティムを傍に置く事に決めた。
お読みいただきありがとうございます。
リアクションなど励みになっています☆
本日はあと1回、21時10分更新です。