15.人タラシ
絶滅した植物が4つ復活し、そのうち2つが芽吹き、害虫は3つの地域からいなくなり、害獣は1種が姿を見せなくなった。
私はサイモン様から、要約すると『いいぞ、もっとやれ』といったお褒めの言葉をいただき、ネスの町には恩賞として新しい馬車が、馬付きで3台支給された。
ネスの町では、私は適当な格好で家事をしていたので、“ティナ”の存在感はそれほどなかった。
だから酒場でキラキラを振りまいていた“ティム”の方が多少有名ではあっただろうが、それでも知るものは少ないだろう。
おそらく殆どの町人が『ティム?誰?まあ恩恵あるからいいか』と思っているに違いない。
ジョーイとクレマー夫妻だけはもしかすると、戦々恐々としている可能性はあった。
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「あーもう、ティムかわいいなー」
テラスでお茶を飲みながらサラが言った。
最近のサラはこれが口癖になっている。
何故だろう、私はすこぶる男らしいはずなのに。
「男にかわいいはないでしょ?」
少し頬を膨らませて見せると「それぇ!」とサラが悶えた。
「顔立ちは確かにカッコいい系だけど。敬語抜けたティムったらもう!
語尾とかさ、こうちょっとした仕草とかが可愛いわけよ!ね、ニオもわかるよね?」
急に話を振られたせいか、ニオはビクッと肩を震わせた。
「え?いや……、男同士だし」
「男同士でもさ、きっとトマとかもわかってくれると思うんだよねー」
頬杖をつきながらサラはうっとりと私を見る。
「へ?トマさん?なんで??」
「だってさ、前に誑かしてるの見たもん!この人タラシぃ!」
「誑かしてないけど。ちなみに、いつ?」
「花が初めて咲いた日」
ああ、アレね。と思い返す。
「褒めてくれたから、褒め返したら照れちゃっただけだよ!なに人タラシって。人聞きの悪い」
「私もタラされたもん。今度トマに会ったら聞いてみよっと」
その時ガタン、と音を立ててニオが立ち上がった。
「仕事やり残してたから行ってくる」
と言ったかと思うと、足早に去って行く。
何となく、以前と同じ不機嫌を感じ取り、
「あ、サラ!オレも行って来ていい?」
「うん。行ってらっしゃ〜い」
ひらひらと手を振るサラにお礼を言って、私はニオを追いかけた。
ちなみにこの時のお茶会でも、花が一輪咲いたという。