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懐かしい小道

誠の恋をするものは、みんなひと目で恋をする。

         (『お気に召すまま』シェイクスピア)

「いきなり見知らぬ男性に声をかけられて、驚かれたでしょう」

「ほんとうに驚きましたわ」

「すみません。決して怪しい者ではありません。路上で立ち話することではないので、コーヒー・ルームへ来て頂きました。ほんの三十分ほど、お時間を下さい。お願いします」

「話があるのですか?」

「ええ。私の話を聞いて頂きたいのです。こんな話、信じてもらえないでしょうが、ほんとうの話なんです」

「話を聞かなければ、信じていいのかどうか、分かりませんわ」

「私の夢の話なんです」

「夢?」

「そうです。高校生のころから、何度も同じ夢を見るんです」

「今でも見るのですか?」

「はい」

「どんな夢です?」

「夢の中で、高校生の私は道を歩いています。ずっと続く小道を歩いているんです」

「小道?」

「どこか懐かしい感じがする小道です」

「例えば、学校へ行くときに近道する小道みたいなものかしら?」

「そう、そう、そんな小道。そこに、向こうから女子高生が歩いて来るのです」

「同級生?」

「いいえ、知らない人です。すれ違うときに声をかけようとして、でも、声をかける勇気がなくて、通り過ぎて、それで目が覚めます」

「……」

「その女子高生が、あなたにそっくりなんです。黒い瞳、長い睫毛、かわいい唇、ふっくらとした頬、みんなそっくりだ。髪だけは、女子高生らしいショートカットですが」

「その話を信じろと言うの?」

「ええ。今、そこで出会ったとき、びっくりしました。あの夢は本当だったのだ、とね。夢では勇気が出なかったけれど、今度こそ声をかけなけりゃ、と思いました」

「勇気を出したのね」

「そうです。そして、今、もうひとつ勇気を出して言います」

「何かしら」

「僕と結婚して下さい」

「!」

「夢の中の女性と現実に出会えた。僕が結婚する相手は君しかいない」

「……」

「そりゃぁ、会って三十分も経っていないけれど、僕はさっき、見た瞬間に心を決めたのです。お願いです、僕と結婚して下さい」

「いいですわ」

「え?」

「イエス、です。私も小道を歩く夢を見ていました。その小道で、あなたそっくりの高校生とすれ違うの。声をかけてくれるのを、いつも、待っていたんですよ。いつも、いつも」




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