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清少納言(生没年不詳)。

平安中期の女房にょうぼう。清原元輔のむすめ

 清少納言は、庭へ下りると、ゆっくりと池の方へ歩いていった。

 一点の雲もない星月夜。

 庭に敷かれた白砂が輝いている。

 秋の虫が今を盛りと鳴いているのを聞き、彼女は心が落ち着くのを感じた。

 当代随一の知識、教養、知性の持ち主として自他ともに認める清少納言である。

 だが、その心の奥に満たされぬ想いが収まっていることは、もちろん本人しか知らない。

 こうして一人でいるときだけ、心の奥を噛み締めることができる。

 ため息をつく。

 そのとき、背後に白砂を踏む足音が聞こえた。

「やぁ、これはこれは、ここにいられましたか」

 藤原行正ふじわらのゆきただの声であった。

 清少納言は、瞬時にして、藤原行正が誰と誰を丸め込んでこの庭に入ることに成功したのか、読むことができた。

 あれほど何度も断りの歌を送ったのに、まだ分からないのか、なんというしつこい男だ、と思う。

 だがしかし、顔ではにっこりと笑った。

「まぁ、行正さまではございませんか」

「今夜は、珍しいものをお持ちしました」

 藤原行正も馬鹿ではない。

 何度も断られて気落ちした。

 だが、それで諦めるような男ではない。

 清少納言を意に添わせるにはこれしかない、という方法を考えたのであった。

「これをご覧にいれようと思いまして……」

 藤原行正の手には、豆ほどの大きさの輝く石があった。

 銀のように白く透明な光芒を放っている。

「おお」

 清少納言は、思わず声を出した。

「これは、金剛石といいます。昔、遣唐使が持ち帰り、秘蔵していたものです」

 輝くものに対する女性の本能的なあこがれを、藤原行正は計算したのであった。

 さすがの清少納言も、このような輝きを見たことはなかった。

「これは……、なんという美しさ……」

「よろしければ差し上げましょう」

 清少納言は、金剛石を取り上げると、しみじみと眺めた。

 藤原行正が、続けて言おうとした。

「その代わり……」

 清少納言が遮った。

「しかし……、このような美しさは、地上に置いておくものではありませんね」

 藤原行正が止める間もなく、清少納言は金剛石を空に放り投げた。

 金剛石は輝きながら空を上っていった。

 そして、夜空にピタリとはめ込まれた。

「これでよい。あれは、天上にあるべき輝きです」

 夜空には、これまでにない輝きを持った星がひとつ増えた。

「あの星は、今後、昴と名付けましょう」

 

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