努力
愚公山を移す
(『列子』)
本日は、もう、本当にうれしいです。
この有名なヘアデザイナー新人賞を受賞出来るなんて、夢のようです。
正直、舞い上がっています。
最高!
え、ええと、それで……、受賞の挨拶なんですが、先ず、なにより、ヘアデザイン・スクールの先生方へのお礼を、言わなければなりません。
先生方のご指導で、ここまで来ることができたんです。
ありがとうございました。
副賞のパリ留学でも、先生方の教えを忘れず、さらにがんばります。
次に、ヘアデザイン・スクールの友達にもお礼を言います。
苦しいときに助けてくれました。
みんなで夢を語り、はげましてくれました。
友達っていいもんだな、とつくづく思います。
みんな、ありがとう。
夢を実現させるまで、がんばろうな。
それと、この場を借りまして、父にも感謝の言葉を捧げたいと思います。
突然死んでしまった父ですが、きっと草葉の陰から、この授賞式を見てくれていると思います。
お父さん、ありがとう。
父は職人でした。
床屋の仕事に誇りを持って、たゆまず努力を重ねていました。
そして、私にも、父の、職人の血が流れていることをつくづくと感じます。
私の原点は父の床屋です。
ヘアデザイナーとして世界に羽ばたくのが私の夢ですが、その原点は、日本の床屋の技術なんです。
父は、死ぬとき、苦しい息の下から、人形を燃やすように言いました。
父が練習に使っていた人形です。
人形を燃やせ、とは、父らしい、最後の指導方法だと思いました。
床屋の職人技術はもう古い、最新のヘアカットを学べ、ということなんです。
でも、人形を見て、私は父の息子であることを強く意識しました。
職人として、父のような、髪の毛を切る技術を身につけよう、と決心したんです。
ですから、人形は燃やしませんでした。
その人形で髪の毛を切る技術を練習したのです。
努力に努力を重ねました。
朝、起きると、先ず、人形の髪の毛を切る。
そしてヘアデザイン・スクールへ行く。
夜、帰ってくると、もう、人形の髪の毛が伸びている。
それを、また切る。
朝起きると、また、髪の毛が伸びている。
それを切る。
この繰り返しです。
すぐに人形の髪の毛が伸びるので、切るのは大変でした。
でも、この努力が、今日の新人賞受賞につながったのだと思います。
もちろん、今でも、人形の髪の毛を切る努力は続けています。
だから、父が、人形を残してくれたことに感謝します。
もう一度言います。
お父さん、ありがとう、これからも人形を大切にするからね。