■3.ガル商店のケレタ
中央大通の西の裏通りは、店の規模もひとまわり小さくなり、小売りよりは商用の店が増える。
その更に裏手、西の2丁目通りには、商家の裏口や、比較的裕福な市民の住宅が並ぶ。
北から数えて12番目の商家の裏口、門柱に架けられたシンプルな表札に、「ガル商店 お客様は表へお回り下さい」と、黒インクで書かれている。
門には、搬入口を兼ねた大きな両開きの扉が付いている。扉は木材と緑青色のオリハルコン製で、魔法文字が刻まれている。左側の扉に付いた小さな通用口の扉が、外開きにそろりそろりと開いた。
中から出て来たのは、ヒューマンの男だった。背は高く、少年といっても良い顔立ちで、顔色はやや青白い。
彼は通りを見回す。
何か探しているようでもあり、何となく首を動かしているようでもある。
「なんだいケレタ、もう起きたのかい」
背後から声がして、男――ケレタ・ノ・ガルはびくり、として振り向いた。
「あ、ディアーネお嬢様」
背後に立っていたのは、中年間近と思しき賢者族の女、店主の娘、ディアーネ・ガルだった。
「たまのお休みなんだから、ゆっくり寝てりゃ良かったのに」
「いえ、何となく」
「また、絵でも描きに行くのかい?」
「そんなところで」
「お前ね、そういうはっきりしない――」
女は言いかけてから、ケレタの顔を見る。
「やめとこ。休みに小言もないね。鍵はすぐ帳場に戻しときなよ、持って出たら間違いじゃ済まないからね」
「はい、もちろんです」