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■1.プロローグ:強制捜査

 魔法文字の刻まれた鍵が、重い音を立てて回った。

 鍵穴の文字や模様を辿るように魔法光が広がった後、小さいが分厚い扉がゆっくり開く。

 その隙間から、黄金色が輝く。

「――ほお、確かに本物の金庫室だ」

 白い仮面を付けた、大柄なヒューマンの男は、目を細める。

「……他には一切隠して、いません」

 痩せたハーフリングの男が、うなだれたまま、力なく応える。その両腕はへし折られ、関節と逆方向に曲がっていた。

「です、から、娘だけは」

「ああ、そうだったな」

 仮面の男は、手に提げていた幼い子供を持ち上げる。

「小さくて可愛い子だな、人形のようだ」

 言いながら、子供の顔を覗き込む。

「我らは目撃者をなくすために殺す。だが店主、自分を犠牲にしても助けたいって気持ちも分かる。我も人の親だ」

「あ、ありがとうございます」

 仮面の男は、子供の顔をじぃっと見つめる。

 子供の表情は引きつっている。助けのない、本当の危機に陥った時、子供は泣かない。

「綺麗な黒い目だな」

「は、い?」

「もう見えてるか?」

「ええ……ぁ、いや」

「じゃあ潰してやれ」

 子供を、ハーフリングの男に近づける。

 ハーフリングの男は、呆然とした顔のまま、言葉も出ない。

「……どうした『目撃者』なら、殺さにゃならんぞ」

 仮面の男は、楽しげに言いながら、子供の首に手をかける。

「ああ、残酷な事だ。お前のオヤジは、死ねとさ」

 当然――へし折られた腕が動く訳もない。動いたところで、我が子の目を潰す事など出来ない。

 仮面の男は、分かってやっている。

 何一つ意味はない。

 まんまと押し込みに成功し、圧倒的立場にいる愉悦。それを味わっているだけだった。

 仮面の男が子供の首にてをかけ、捻る。

「待っ――!!」

 その時。

 激しい破壊音と共に、壁が吹き飛んだ。

 煙も晴れぬ間に、革鎧に身を包んだ一団が、一気に雪崩れ込んで来る。

「火魔局だ! 全員動くな!」

 先頭の局員が怒鳴る。

「そっちこそ、このガキがどうなっても――」

 仮面の男は、抱えていた子供を盾にして突き出す。

 瞬間、先頭の局員の傍らから、1人が飛び出す。

 飛び出した局員は一気に距離を詰め、完成寸前の魔法を留めた掌底で、子供に――。

『よ』

 触れると同時に、呪文の最後の一文字を唱える。

「ぎゃっ!?」

 子供と仮面の男の身体を、電撃魔法の高圧電流が駆け抜ける。

『――いを払いたる炎の熱』

 局員は、攻撃完了動作を次の印の始めとし、完成しつつある炎魔法を留めた指先は、子供を掴んだ仮面の男の手首を掠める。

『なりし』

 ゼロ距離発動した炎魔法で、仮面の男の手首が炭化する。灼け落ちる手ごと、子供を別の局員が受け止める。

 受け止めた局員は、発動待ちにしていた蘇生魔法を込めた手で子供に触れる。電気ショックで停止していた子供の心臓は動き始め、電撃火傷は消え、外れていた頸椎が戻っていく。

 壁の破壊からここまで、僅か2秒半。

 子供は自分が死んでいた事も、理解出来ていない。

「手、手、手がっ」

 辛うじて心停止を免れた仮面の男は、ぎこちない動きで、打ち捨てられた手首を拾おうと、手のない腕を伸ばす。

「白夜の魔王ノクターン」

 局員の間から、小柄なオーガ族の男が進み出る。

「火竜・魔王捜査局局長、アイゼン・テイラーである。これ以上の抵抗は無意味と知れ」

 ここまで言われて、仮面の男はようやく、周囲を見渡す。

 背後を固めていた筈の手下達も、既に制圧、または殺害されていた。

「くっ……」

 ヒューマンの男――白夜の魔王ノクターンは、アイゼンを睨みつける。

「こ、子供もろとも無警告で攻撃魔法なんて、王都警察が知ったら、不当逮捕――」

 仮面の男の言葉が途切れた。

 少し遅れて首が落ち、血が噴き出す。

「こやつ、捕縛時抵抗のため、やむを得ずおれが処断した」

 アイゼンは反りのある片刃剣から血を拭い、鞘に戻す。

「記録してくれ、副局長」

「かしこまりました」

 後ろに控えた副局長レフタ・インスラが、メモに一筆書き加える。中年の、背の低いノーム族の男だった。種族的な特徴として鼻が大きく、身長は1mと少ししかない。

 強制捜査の場には、いささか不釣り合いな体格と風貌だった。

「局長」

 仮面の男――白夜の魔王と戦った局員は、手に残る炭を払う。

「現場処断なら、私が致しましたものを」

「割り込んで済まんな、フェルド。生かして捕らえるつもりだったが、突入した後に気が変わった」

 アイゼンは、床に視線を向ける。

 彼や、他の局員らの足跡が、くっきりと血色で残っていた。

「……8軒押し入り、全てで皆殺し、手に入れたのが金貨ひと掴み、ふた掴み。手下はほとんど使い捨て、横の繋がりもない、場当たりのファスト・クエストばかり。締め上げて何が出るでもない。道理もなければ合理もない。昨今魔王を名乗るのは、こんな輩ばかりだ」

 他の局員が呟く。

「……最近は、本格の魔王ってのは、すっかりいなくなっちまいましたね」


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