世話焼きな右腕とおバカなヤンキー
東雲有咲です。
さてさて、題名の通りのお話となっております!
世話焼きな右腕くんと、おバカなヤンキーのお話〜。
このおバカなヤンキーはもうちょっとおバカな予定だったんですけど、あんまり上手くかけず……w
その結果、そんなにバカじゃなくなっちゃったんすよねw
あと!名前がね、まだ皆
ないんですよね!!
後々決めようかなーってやってたら名前を明かさないまま話が終わってしまいました……w
名前なくてもなんか成り立っちゃってるしいっか!ってことでそのままですw
【*キャラ設定*】
世話焼きな右腕くん [攻め]
おバカヤンキーの右腕として、世話焼き係や喧嘩の援護を担当している。
割と真面目で、成績も優秀。いつも仏頂面。
ちょっとだけ、おバカヤンキーに憧れをもっている。
おバカなヤンキー [受け]
天然というか、おバカというか……。
右腕くんと一緒にいるようになってから、生活が一変した。
成績はいつも下から数えたほうが早い。けど、右腕くんに勉強を教えてもらうようになってからちょっとだけ成績があがった。
たまに右腕くんの世話焼き具合についていけない。でもうざいとは思ったことはない。
おバカなヤンキーの姉
心配性で、いつもおバカヤンキーのことを心配している。清楚系で真面目そうな見た目だが、元レディース総長。
元相棒(?)
おバカヤンキーの幼馴染み。おバカヤンキーをヤンキーの道に引きずり込んだ張本人。「相棒」と言っているが、おバカヤンキーをパシリなどに散々こき使った挙げ句捨てた。
おバカヤンキーはこれが若干トラウマになっていて、「相棒」とか言う言葉が嫌いになった。
あと、もう二人!大事な子らが出てきます!
やっと会えたな | 東雲有咲
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19872474
ここに出てくる二人がでてきます!
一応キャラ設定のせときまーす
清水瞬[攻め]
保険医。「清水のおかん」と呼ばれていたほど世話焼き。包容力がある。
織原 怜央[受け]
国語教師。生徒からは「織ちゃん」という名で親しまれている。元ヤンキー。瞬の前ではツンデレ。
キャラ設定だけでわりかし長くなったなぁーw
でもこれはね、書いててめっちゃ楽しかったから、また書こうかなー?とか思ってます!
pixivからの転載となっております。
展開早めです!
誤字、脱字がございましたら。こそっと教えていただけると幸いです!
では、良ければ最後までお付き合いお願いいたします!
閲覧、いいね!、ブックマーク、一つ増えるだけで発狂しております!!
本当にありがとうございますm(_ _)m
「俺をあなたの右腕にしてください」
あ?俺の右腕にしてくれだぁ?それはつまり……どーいうことだ。
俺はまじまじとそいつをてっぺんからつま先まで舐め回すように見た。
おそらく何もいじってないであろう綺麗なさらさらとした黒髪。柔らかく細められているその瞳。すっと通った鼻筋。笑みをたたえる口元。握手を求める少し骨ばっているしなやかな手。俺よりも十センチ以上高いであろう身長。
俺は少し前、喧嘩で左腕を負傷していた。一応医者に診てもらうと、ひびが入ってるとかいうことで、念の為ギプスをしていた。
俺の右腕の代わりをしようってんのは、ずいぶんおかしい話だ。
「……怪我したの左腕だっての。だから、右腕はいらねぇ」
意味がわからずぽかんとしているそいつのために、俺はもう一度説明してやった。
「だーかーら!俺ぁ怪我してんのは左腕なわけ!右腕の代わりすんなら、左腕の代わりをしろっての!」
右手で左腕にはめているギプスを指さしながらいう。
そいつは呆れたようにため息を一つつき、話し始めた。
「……いや、そういうことじゃなくてですね。俺はあなたの右腕……つまり、あなたの子分、または相棒にしてほしいとお願いをしに来たのです」
「そーいうことだったのかよ!なら、初めからそう言え!」
「言ってたじゃないですか。……あなた、ばかなんですか」
ぼそりとつぶやいたその言葉を、俺は聞き逃さなかった。
「あ?」
鋭く睨んでやると「いえ、何も」と言ってぷいとそっぽを向いた。
「っつーか、俺は相棒だとか子分だとかそーいうのはいらねぇの」
一人で十分だ。喧嘩も、この生活も、全部一人で……。
「そうですか。それは残念です。……俺を右腕にすれば、昼飯も買ってきますし、なんならデザートも作ります。それに、朝起こしにも行きます。勉強も教えます。お望みとあらば、晩飯も……」
「は!?お前、そこまですんのかよ!」
「はい。右腕ですので」
これじゃまるで執事じゃねぇか。ただの世話焼きなのか、それほどまでに俺を尊敬してるのか……。なんか、よくわかんねぇやつだな。
でも、俺はなんとなくこいつが気に入った。
「……っし!わーった、お前を俺の子分にしてやる」
「ありがとうございます」と一礼した。
えらく礼儀正しいやつだな。
──この日、俺は初めての「子分」ができた。相棒というやつはいたが、子分はいたことがなかった。
こいつは朝毎日、七時きっかりに俺の家に来て、インターホンを鳴らす。
お袋がそれに気づいてドアを開け、俺の部屋まで案内する。
俺の部屋に入るとまずカーテンを開け、布団をひっぺがし、「いつまで寝てるんですか!もう朝ですよー!」と言いながら俺を揺さぶる。
仕方なく俺が起きると、「おはようございます。飯、ちゃんと食べてくださいね」と真顔で言って俺の部屋を出ていく。
俺は「おうー」とかなんとか言って、着替えて下に降りてリビングで飯を食う。たまにあいつも一緒に飯を食う。お袋が「せっかく来てくれてるんだし!ね?」と言って押し切ったときとか時間がなかったときはうちで一緒に食う。
七時半過ぎ。飯も食い終わり、身支度も済ませたら一緒にうちを出て学校に向かう。
このとき、こいつは必ず俺の少し後ろを歩く。絶対に隣に並ぼうとはしない。いつの時代だよって感じだけど、もしかしたら、こいつはこいつなりに距離を取っているのかもしれない。
学校についたら、こいつは教室どころか、階が違ぇのに、俺を教室まで送り届けてから自分の教室に向かう。
こうして俺の一日が始まる。
前は学校に来たとしても遅刻寸前とか、遅刻どころじゃない時間に来て、屋上とか空き教室とかでサボって、授業は一時間でたらいいところだったのに、あいつが色々とうるさいせいで、最近は授業にもでてはいる。
基本寝てるか、窓の外を見て暇をつぶしてるかだけど、でねぇよりはましだって織ちゃんも言ってた。
織ちゃんってのは、俺が割と気に入ってるせんせーだ。ちょっと変わってはいるけど、俺のこともちゃんと理解してくれるし、無理に授業にでろとかも言わねぇし。ただ、寝るんだったら教室で寝ろっていうだけ。寝てても授業に出ないよりはましだ、と言っていつもどっかでサボってる俺を見つけ出しては授業にでさせる。最初はウザかったけど、こんな先公もいるんだって、俺なんかを見捨てないでくれる先公もいるんだって思ったらもうちょっとちゃんとしてみっかって思った。
昼休みにはあいつが購買で菓子パンとコーラを買ってくる。それと、手作りのクッキーやらケーキやらを持ってきて、綺麗にラッピングされたそれを渡して自分の教室に戻る。
別に俺が頼んだわけじゃねぇよ。あいつが勝手にやってるだけだ。
なんだかんだで暇をつぶしていたらいつの間にか放課後だ。
また俺のところにあいつが迎えに来るから、それを少し待って(あいつは俺が先に帰るとすごく怒る)、一緒に帰る。
その途中で喧嘩をふっかけられることもしばしばある。その時は、受けて立つ。あいつも、やれやれといった様子で援護に回る。ぼこぼこにしたあとには、付き合った礼だと言ってジュースやらお菓子やら、なんか奢ってやる。最初はそんなのはいらないと言っていたが、ほんの気持ちだ、受け取っとけと言うと何も言わず受け取るようになった。
今ではもう当たり前に俺の家に一緒に帰って、親が帰ってくるのが遅いらしく、それまで暇だからと言って俺の家に入り浸っている。たまに晩飯も食って帰る。
今ではそうなっているだけで、最初は遠慮するあいつを俺とお袋が引き止めていた。遅いのに家に一人だなんて、なんかあったらどうすんだって。俺とつるんでる以上、あいつに危害がないとはいえない。逆恨みしたやつとかが、びびって俺に喧嘩を売れずに先にあいつのほうに行く、ということも十分あり得る。
かと言ってあまり遅い時間に帰すのもかえって危険だろ。だから、遅くても八時には帰れと言ってある。
男だし、この通り腕っぷしも強いほうだからと言い張って聞かなかったが、俺の姉貴が「男の子でも適わない時は敵わないしねぇ……。あんまり甘く見ちゃだめよ?」と優しく言うと大人しく言うことを聞いた。
姉貴は外面だけは良いからな。見た目は清楚系の大人しそうな見た目だが、こう見えてこのシマ一帯を牛耳っていたレディース総長だ。俺も何度姉貴にぼこぼこにされたことか……。
あいつは姉貴の言うことをしっかりと守り、遅くても八時になる少し前にはもう帰る準備をして八時には絶対帰る。
姉貴に弱いだけなのか、姉貴の怖さを知ったからなのか、わかんねぇけどあいつはとにかく姉貴の言うことは真っ先に聞く。
今日もこいつは八時きっかりに帰った。
「──遅くまでお邪魔してすみません。では、おやすみなさい。また明日」
そう言って玄関で一礼して、帰っていった。
最後の「また明日」は俺に向けられたものだったんだろう。
こんな感じの生活が一ヶ月ほど続いたある日のこと。
俺はとても大事なことに気づいた。
俺、あいつの名前知らねぇや。呼ぶにも、「お前」とか「あいつ」とかで呼んでたし、あいつも「あなた」とか「あんた」とか呼んでた。だから、別に困りはしなかったけど。 っつーか、名前ぐらい先に教えとけっての。
そもそも、あいつのことを知らなさ過ぎる。
今のところ知っているのは、一年ってのと、好物は甘い卵焼き、嫌いなものは苦い野菜ってだけ。
学年は何で知ったかってぇと、スリッパ。うちの学校、スリッパの色が学年ごとに違ぇんだよ。だから、わかったってわけ。
それ以外は知らねぇ。
でも今になって、改めて聞くってのもなんか……。
しかも、あいつのことだから、「え、今まで俺の名前知らなかったんですか。あんたよくそれでここまできましたね」とかなんとか言ってくるだろうしな……。
あぁーあ、やめだ、やめ。
んな小言言われるぐらいなら、このままでいいか。別に困ってもねぇしな。
そう思って俺はあえて名前を聞かなかった。
その日の夜。あいつが帰ったあと。スマホに見慣れない名前の送り主のメールが一通届いた。
内容はこんな感じのやつ。
「明日、午後一時きっかりに体育館の倉庫裏に一人で来い。さもないと、お前の大事なやつがまた一人死ぬことになる」
スマホにメールを送るだなんて、えらく今どきだなと思ったが、考えてみれば、手紙だとあいつにバレる可能性があったからかもしれない。
明日の午後一時……。つまり、お昼休みだ。体育館倉庫裏に呼び出すってことは、おんなじ学校のやつら。そして、そこが穴場だって知ってるやつら……。三年のやつらの可能性がたけぇな。
あいつに心配はかけたくねぇ。でも、俺が行かなきゃ、あいつが……。
俺はもう、大事なやつを失いたくはない。
あいつに悪ぃがこの喧嘩、俺は買うぜ。
だって、そうしねぇとあいつに危害が及ぶかもしんねぇだろ。それはなんか、違ぇから。
あいつも心配だが、この負傷した左腕もなかなかに心配だ。一応治ってはいるが、医者にはあまり激しい運動は控えるようにと言われている。
まぁ、そのときになりゃ気合でなんとかなるだろ。
そうして迎えたお昼休み。
チャイムと同時に教室を飛び出し、体育館倉庫裏に走った。
そこには金属バット、フルーツナイフなどの様々な道具を持った輩が三、四人ほど待ち構えていた。
息を整えつつ、やつらを凝視する。案外人数が少ないんだな。もしかして、俺、舐められてんのか?
「はぁ、はぁ……。俺、ばかだからわかんねぇけどよ……。その格好がかなりだせぇってこととよ……。はぁ……。お前らが、そんなもん使わねぇと俺に勝てねぇっていうような弱ぇやつらだってぇのはわかるぜ」
俺の挑発にまんまと乗り、頭に血が上っているやつら。
……これぐらいのほうがやりがいがあるってもんだ。血気盛んなやつらにこの喧嘩特有の興奮を覚える。
「やっちまえー!」
リーダー格らしいやつの声を合図に、やつらが一斉に襲いかかってくる。
武器を振り回すだけのやつらの攻撃を余裕でかわし、殴ったり蹴ったりとこっちも攻撃する。
あっという間にほとんどのやつが伸びてしまった。
残るはあと一人。リーダー格のやつだけだ。
いつもの癖で、左手で殴ってしまったりもしたから、左腕がまたずきずきと痛み始める。その痛みに気づかないふりをして、真っ向から襲いかかる。
襲いかかろうとしたら、後ろからあいつが現れて、そのリーダー格の男にドロップキックをお見舞いした。
バランスを崩したリーダー格の男は、前によろめく。そこを狙い、とどめを刺すために、首の付け根辺りにチョップをいれる。
「ぐはっ……」と声にならない声をあげてやつはばったりと倒れた。
やったな!と言おうとしてあいつを見ると、怖い顔で俺をじっと見ていた。
ずんずんと俺に近づいてきたかと思うと、胸倉をつかみ、一気にまくしたてる。
「あんた何やってんですか!?いないと思ったらこんなところで!!またしょうもない喧嘩買って!ばかじゃないんですかほんと!!俺が……!俺がどんだけ心配したと思ってんですか!!ちょっとは心配するこっちの身にもなってくださいよ!!」
「わ、悪かったって……。でもなんで俺がいねぇってわかったんだよ」
「……いつもみたいに菓子パンと、コーラと、手作りのマフィンを持って行ったらあんた教室にいなかったからもしかしたらって……」
ちらりと後ろで動く影を目の端で捉えた。もしかしなくてもこれは……。
「ふっ、そうだったのかよ。……心配かけて悪かったな。でも!俺がまだ終わってねぇみてぇだ……ぜ!」
あいつを突き飛ばして、今すぐここから逃げるように言った。
あいつの後ろには金属バットを振り上げ、今にも襲いかかろうとするリーダー格の男の姿があった。男はチット舌打ちし、勢いよくバットを振り下ろす。
それをかわし、その男の腹にパンチを二発、三発と心ゆくまで入れた。
一度背中の方をバットでがむしゃらに叩かれたが、きっと打撲程度で済むだろ。
今度こそ本当に伸びてしまったリーダー格の男をそこに置き去りにし、その場をあとにした。
あいつは、もうここにはいなかった。きっと上手く逃げれたんだろ。
安心したら急になんか力抜けてきた……。だめだ、もっと遠くに逃げねぇと、なのに……。
ここで俺の意識は途切れた。
──目を開けると、真っ白な天井が目に入った。それから、真っ白なベッド。その上に力なく放り出された薄汚れた手。
まだぼんやりとした頭でここがどこなのかを考えていると、視界に泣きそうなあいつの顔ががフレームイン。
「あっ……!先生!先輩が……!」
先輩、だってよ。そんな呼び方一回もしたことねぇじゃねぇか。
「……目を覚ましたんだね。それは良かった」
カーテンから顔を覗かせたのは保健医の清水とかいうやつ。いっつもふわふわしてて、何考えてんのかわかんねぇ。
けど、そいつがここに居るってことは……。ここは保健室、か。
「背中の打ちみ、まだ痛む?応急処置はしたけど……」
背中に意識を向けるとつんと鼻をさす湿布特有の匂いと、背中にすーっとした心地いい冷たさがあった。
「……大丈夫す」
ゆっくりと起き上がる。背中と左腕が少し痛んだが、大したことねぇ。
「ほんと?まだ痛むんじゃない?」
ぎくりとした。見抜かれてたのかよ。
こいつに誤魔化しはきかねぇ。俺はそう悟った。
「まぁ、ちょっとは……、あれすけど……」
「もしまだ痛むようなら病院に行ってちゃんと診てもらってね。左腕も心配だし……。あんまり無茶しちゃだめだよ?ほら、君が無茶すると、心配して悲しむ人がいるから。ね?」
そっとあいつの背中に手を置く。あいつはなんだか、俺よりもぐったりとしていて、心底疲れているようだった。だから、俺は思わず聞いてしまった。
「お前……大丈夫か?」
項垂れていた頭を上げ、真っ直ぐに俺を見る。その瞳の奥はらんらんと光っていた。
「ええ、大丈夫ですよ。あなたは自分の体を粗末にしすぎなんですよ。これに懲りたら、もう二度とあんな真似しないでくださいね」
「……あんな真似って?」
ちょっと迷う仕草をしてから、口を開いた。
「ああいう……危険なこととか、喧嘩とかですよ」
「ふぅ〜ん……なるほどなぁー……え、は!?お前、俺に喧嘩すんなっつってんのか!?」
「ええ、もちろん」
「はぁ!?そりゃないぜ。っつーか、俺に喧嘩売ってくるやつらがいるからだめなんだよ。んなのされたら買わなきゃしゃーねぇだろ!」
「……じゃあ、その『喧嘩売ってくるやつら』とやらを片付けたらいいんですね?」
「ま、まぁ……そうなる、な?」
「あんた、ほんとばかですね」
ふふ、あははと笑い出した。俺はこいつが笑ったところを初めて見た。屈託のない笑顔。笑うとより一層目が細められ、少し幼く見える。
「さ、もう授業に戻りなさい。今からならまだ間に合う」
「……はい。先生、先輩をお願いします。……先輩、放課後になったらまた迎えに来ますから。もし途中で帰ることになったら、一人で帰れますか?……帰れるなら、さっさと帰って安静にしておいてください。俺も後で向かいます。帰れないなら、少しここで待っておいてください。わかりましたね?絶対ですよ?それと、授業に戻れるようなら……」
「……お前、おかんかよ」
ぶふっ、と誰かが吹き出した。驚き、思わず動きを止めた。
「い、いや、ごめん……。ふふっ、かなり昔にもそう言う子がいたんだよ。その子と君がそっくりでさ、ちょっと笑っちゃった。……その子も君みたいにね、喧嘩ばっかりしてるヤンキーだった。いつも無茶ばかりしてね。そのたびに俺が手当をしてあげてた。……懐かしいなぁ」と遠くを見つめる。
織ちゃんから、聞いたことがある。昔、おかんみてぇな世話焼き過ぎるやつがいたって。
「な、なぁ、もしかしてそいつの名前って……」
「あはは、察しがいいね。……そうだよ。その子の名前は、織原怜央。いや、今は『織原先生』だね」
びっくりして開いた口が塞がらないあいつと、やっぱりなという顔をしている俺を交互に見ながら、清水は続けた。
「……時々、君たちを昔の僕と怜央くんに重ねてしまう時があるんだ。でも、だからこそ、君たちを応援してるんだよ。ただし!無理や無茶はしないこと!わかった?……あと、ここで聞いたことは内密に、ね?」
俺とこいつはほぼ同時にうなずいた。
「じゃあー、どうする?授業戻る?」
いつの間にかチャイムは鳴り終えていたようで、もう六時間目が始まっていた。
時計をちらりと見ると、授業時間はあと四十分ほどある。
「もちろんす。それに、次はなんてったって、その噂の人の授業なんすから」
それを聞いた清水は、ふふっと笑って紙に何か書いて俺らに渡し、それを先生に渡すよう言って俺らを帰した。
それから、保健室を出て、教室に向かった。あいつはずっと異常すぎるくらいに心配していたが、俺が大丈夫だからと言うと何かあったら俺を頼ってくださいねと言って授業に戻っていった。
少々立て付けの悪い扉を開け、織ちゃんに紙を手渡し、自分の席についた。
「えー、あと三十分ほど時間があるからー……」
はぁ〜あ。あと三十分もあるぜ。机に突っ伏し、俺はもう早くも寝る準備をしている。
「──きりーつ、れーい……!ちゃくせーき」
んあ。何事だ?チャイムの音で目を覚ます。どうやらちょうど今授業が終わったらしい。
寝ぼけ眼をこすりつつ、あくびをする。あともうちょっとで帰れんのか……。良かった……。
ホームルームも難なく終わり、ようやく帰りの時間になった。
「先輩!」
廊下でずっと待っていたであろうあいつが俺を呼んだ。だからその「先輩」ってやつ気持ち悪ぃからやめろって。
と思いつつそいつのところに向かう。
「大丈夫ですか?どこか痛みますか?背中?左腕?それとももっと他のところ?」
あちこちを触ってて怪我がないか確認するそいつの手を振り払い、さっさと歩きだす。その後ろを慌てた様子でついてくる。
「だめですよ!安静にしないと……」
「わーった、わーった」と言いながら家路を急いだ。
家に帰ると、お袋が「お客さんが来てるわよ」と言って出迎えた。
次から次へとなんなんだと思いつつも、その「お客さん」とやらがいるリビングに向かった。
「よう、相棒」
後ろを向いていて顔はよく見えなかったが、その声を聞き、すぐに誰かわかった。
「……誰が相棒だ、ばか」
「悪かったってー。でも『元』相棒なのに代わりはないだろ?」
「チッ……。早くでてけ。お前はもういらねぇ」
「おー、こわ。それがお前の望みかよ。……なら、お姉さん、じゃなかった、お母さん、俺はお暇しますね。あまりにお綺麗だから間違えちゃったよ」と笑いながら機嫌がいいお袋と一緒に部屋を出ていった。
「……今の、誰ですか」
「はぁ……。あんまり話したくはねぇんだが、お前には話しとかなきゃいけねぇよな。……とりあえず先に俺の部屋に行っててくれ」と言うと、無言でうなずいて二階へと上がっていった。
まさかあいつがここにまで来るとはな……。いや、まだ学校に来ないだけましか。やつはまだ俺を不登校気味のヤンキーだと思っているから、今日も外に出ず家にいると睨んだんだろう。
だが、俺は以前とはうってかわって規則正しい日々を送っている。やつは焦っただろ。家にいると思っていたやつが、いねぇんだもんな。
まぁ、やつの話はこれからあいつに詳しく話すんだし、これぐらいでいいだろ。
二階に上がって、部屋に入ると、あいつが正座して待っていた。そんなかしこまらなくてもいいってのに……。
その向かいに胡座をかく。
「──やつが言っていたように、やつは俺の元相棒だ。元々は、幼馴染みだった。家が近くて、よく一緒に遊んでた。いつからかあいつは悪の道に進むようになった。やつは俺にもそっちに進むように言ってきた。俺は弱かったから、その誘いを断れなかった。それで……」
「だんたんと道を踏み外していった……と」
こいつが言葉の後を引き継いだ。勘のいいやつだ。
「そーいうことだ。……喧嘩を繰り返してるうちに、なんか楽しくなってきて、いつの間にかこうなってた。ヤンキーがだせぇって言われる時代なのも、年々ヤンキーが減ってきてるのも、全部わーってるよ」
「わかってるのそこだけなんですか……」
「ばか、全部わーってるって言っただろ!」
「やれやれ。ばかはどっちだか……」
「っるせぇ!」
「……それで?なんでわかってるのにやめないんですか。っていうか、なんでその相棒と別れたんですか。その言い方だと、仲良かったんでしょ?」
「そんないっぺんに言われてもわかんねぇっつーの。……強いて言うなら意地だ」
「意地?」
「おう。喧嘩をやめねぇのも、あいつと別れたのも、意地だ。しょーもねぇ意地はってっから、いつまで経ってもやめらんねぇし、忘れらんねぇ」
こいつはこれ以上何も聞いてこなかった。なんか察したんだろ。
それからまた一ヶ月ほど月日が流れたある日の帰り道。
「なぁー、お前ってなんでそんなに世話焼きなんだ?っつーか、俺に対してだけだよな、世話焼いてるの」
「なんなんですか、いきなり。嫉妬ですか?」とからかってくる。もうこんな軽口を叩きあえる関係だ。
「ばーか、違ぇっての。ちょっと気になっただけだ」
「……俺はあなたに興味があるだけですよ」
「興味?」
「そうです。俺はあなたを近くで見ていたいだけ」
心の中まで射抜くような綺麗な瞳を俺に向ける。何もかも、見透かされそうなこの瞳が、怖くもあり、魅力的でもある。
「……隣、歩けよ」
相変わらず少し後ろを歩くこいつに、そう言った。
「え、でも……」
「お前は俺の『相棒』なんだろ。……わーったらそんな後ろ歩いてねぇで、さっさと隣歩け、ばーか」
嬉しそうな笑みを浮かべ、俺の隣に並ぶ。こうして並ぶと身長差が目立つ。
「──奇遇だなぁー。こんなところで会うなんて」
この鼻につくようなキザな感じは……。
「お前、何しにきた」
「やだなぁ〜、そんな敵意丸出しな目で見ないでよー。……俺はそいつを取り返したいだけ」
俺の隣に並んでいる現「相棒」を指さしていう。
俺はやつのこの、目の奥が笑っていない顔が大嫌いだ。
「は?そいつって……」
「お前の横に並んでるやつ。早く返してくんないかな。それおのなんだけど」
ふと笑みを消して、冷ややかな目線を向ける。
相棒はバツが悪そうな顔をして下を向いている。
「……はっ。そーいうことかよ。なら、さっさと行けよ。俺は一人でも大丈夫だから」
状況を理解した俺はすぐにそっちに行くように言うが、頑なに動かない。最終的にやつに腕を引っ張られながらずるずると歩いていった。
あいつは最初から、俺の監視役だったんだ。
ほんとはやつの子分で、嫌々俺と一緒にいたんだろ。俺は最初からおかしいと思ってたんだ。
もう何もかも嫌になってとぼとぼと肩を落としながら一人で家に帰った。
お袋は俺の異変に気づいて何かあったのと問い詰めてきたが、俺はそれを無視して晩飯もろくに食わず自室にひきこもった。
あいつがいなくなってからは一日一日が途方もなく長かった。
あれから何日経ったのかはわからない。
ただ、起床時間や学校に行く時間というのは思ったより体に染み付いていたようで、あいつがいなくなった今もそれは継続している。
でもなんか面白くねぇ。それは、あいつがいないからなのか、ただ単に学校が面白くねぇだけなのかわかんねぇ。
今日も部屋に籠もろうと思ったら、部屋の前に姉貴が立ちはだかるようにたっていた。
「──良いこと教えてあげよっか」
余裕の笑みを浮かべて俺を見る。何がそんなに楽しいんだよ。
「……んだよ」
「あの子ね、私が引き離してっていったの」
あの子……?まさか、あいつのことか?
「は、?」
いきなりのことに思考がが追いつかない。
「ほら、元相棒くんいるでしょ?その子に私がお願いしたの。あの子はきっと足枷になるだろうから、引き離してって」
足枷になる?違ぇよ!俺は、あいつに助けられてたのに……。
「姉貴!な、なんてことしたんだよ!」と詰め寄るが、姉貴は微動だにもしない。
「あら、あんたのためよ。あんたも一人のほうが楽でしょ?……あの元相棒くんは実力があった。それなりにあんたの右腕としてよくやってたわ。けど、今の相棒くんはどう?世話焼きなだけじゃない。喧嘩も大して強いとは言えないし……」
やつも姉貴の指示で動いてたのか。
あいつはちゃんと腕っぷしも強かったし、頭も良かった。
優秀な名前も知らない俺の右腕。
「それにね、お母さんも心配してるのよ?あんたが急にあんなこと……」と続ける姉貴を押しのけ部屋に入り、ばたんと勢いよく扉を閉める。
くそっ!名前を知らないんじゃ探しようがねぇじゃねぇか。クラスもなんも知らねぇし……。知ってるのは一年ってだけ。
……しらみつぶしに一クラスずつ回ってみるか。次の日から一年の教室を一つずつ回ってあいつの姿を探した。名前も知らねぇから、呼びようがねぇってのが困りもんだけどな。
最後の最後。一年六組。織ちゃんが担任のクラスだ。一通り教室を見渡したが、あいつはいなかった。
「──こんなところで何やってんですか」
「何って……。あいつ探してんだよ、あいつー。お前、知らねぇか。黒髪のいつも仏頂面してる背高のっぽの……」と言いながら振り返ると、俺が探してるやつがいつもの仏頂面でそこに立っていた。
「……あ!お、お前!!」
「声が大きすぎます!場所を変えましょう」
ここでは目立つと考えたのか、もう今は空き教室となっているところに俺を連れ込んだ。
扉を閉め、ガチャリという音をさせ鍵を閉めると俺に向き直った。
「お久しぶりです。それで?今日なんのご用ですか。こんなところまで来て……」
「お前探しに来たっつってんだろ!……姉貴のせいで、悪かったな」
「いえ。俺はあなたのお姉さんに頼まれてそばにいただけですから」
「は?どーいうことだよ、それ。俺はそんなの聞いてねぇぜ」
「お姉さんが、あなたにバレるとまた余計なことをしてと怒られるから内緒にしておいてくれと言われたんです。要は俺はあなたのボディーガード兼お守役だったんですよ」
やっぱり嫌々俺と一緒にいたんじゃねぇか。っつーか、姉貴は心配性すぎんだよ。
「……最初は嫌々あなたのそばにいました。けど、だんだんあなたの隣が心地いいと思えるようになってきて……。ほんとは、もっと前にあなたのそばを離れる予定だったんです。でも俺が無理を言ってもう少しここにいさせてもらったんです。だから……」
漫画とかでもこーいうちまちまだらだら長々喋るやついるけどよ……。俺はさっさと結論を言ってほしいんだよ。んなの、ちまちま言ってても大事なとこが薄れていくだけだろうが。
「あーもう!ぐだぐだうるっせぇんだよ!!お前は!どうしてぇの!?」
「……あなたのそばに、いたいです。これからも、あなたの右腕として……」とまた長々と喋りそうだったから、ソレを遮るように言った。
「あーばかばか。お前はもう『右腕』じゃなくて『相棒』だろ」
「あれ、『右腕』と『相棒』ってほとんど一緒の意味じゃ……?」おわざとらしく言う。
「っるせぇ!素直に『そうですね』って言っときゃ良いんだよ!」
でもきっと、そーいうところが俺は気に入ってんだと思う。こいつのちょっと生意気なところが。
「相変わらずばかで横暴ですねー」
「おい、『ばか』は余計だっての」
あはは、と笑い出した。何がそんなに面白いんだか。
「……なぁ、これからもよろしく頼むぜ、相棒」
こんなこと言うのは初めてだから、なんか気恥ずかしかった。
「もちろんですよ、おばかな相棒さん」と言ってにやりと笑った。
「だから!『ばか』は余計だってのー!!」
半ばヤケクソになりながらそう言うと、今度は腹を抱えて笑い出した。
空き教室に名も知らない相棒の笑い声がいつまでも響いていた。
最後までお付き合いいただきありがとうございましたm(_ _)m