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親友に手柄を奪われ続けた私が真の仲間と恋人を見つけるまでの話

作者: 与都 悠餡


ああ、まただ。

私が開発していた魔道具をまたしても友人に掠め取られ彼女はまた昇進していく。


「凄いなシエル!」

「そんな事ないですよぉ!」

「いやホントに凄いぞシエル!」

「お前のおかげでうちは安泰だ!」


これまで尽くして来た私にはなに一つ言葉をかけやしない。


彼女ーシエルは魔道具に必要な刻印術式すら組めない。

だから決心した。


ーーー今日でここを辞めてやろうと。


「本当に辞めるのか? まあうちにはシエルが居るし構わないが」

「ありがとうございます。今までありがとうございました」

お辞儀をし、シエルを見る。

勝ち誇った顔で私を見るシエルに私は心の中で中指を立てた。


転居手続きを早いうちに届けパレット大陸の西にあるイエロアウトライン国に住む事に決めたユミリス。


さてと、と荷造りを素早くトランクケースに必要な物を入れマジックバックに入る物だけを入れ片付いた部屋は机とベッド以外ほとんどの物は詰め込んだ。


乗合馬車に乗るころには夕刻を過ぎていた。


一刻も早く友人からシエルから離れたかった。


酷く乗り心地が悪く何度も転倒しかける。


(こういうのを【浮遊】とかで回避出来る魔道具を作れれば)

転びかけるおばあさんを咄嗟に支える。

「大丈夫ですか?」

「ありがとう、大丈夫。優しい娘だねえ」

「いえ」

「その手はきっと苦労の証なんだねぇ、いっぱい努力してきたんだねぇ」


グッと堪えて来た涙が溢れて来た。

尽くしてきたギルドでは評価されず、親友は裏切り続ける。


(きっといつかは私を認めてくれるだろうって思ってた。けど間違いだった)


三日三晩馬車を乗り継ぎイエロアウトライン国に着くと出迎えたのは商人で腕利の鑑定士トリアルドだった。


「久しぶりユミリス」

「お元気そうでなによりですトリアルド様」

「様はよせ昔みたいに『トリ頭』って呼んで良いんだぞ」

「使用人たちが困惑していますよそれにあの頃は未熟でした」

「すっかり変わったな俺もお前も」

「昔話はまた次にでもそれより私は職人ギルドに行き魔道具師として工房の手配を頼みましたが」


「案内しよう」


着いた場所に愕然とした。ここって。


「王宮の魔道具師が不足していてな。ここで働く代わりに設備費代は引いて給料を出すそうだ」

「冗談でしょ? 冗談よね?」

「工房はもう出来ている。着いて来い」


ソレは詰んだ事を意味していた。


「王宮魔道具師のディラルク」

「王宮刻印術師のセフィロア」

「王宮錬金術師のベルクリアス」


「以上がお前と一緒に働く仲間だ」


仲間、という言葉にツキリと胸が痛んだ。


「よろしく••••••」

メカクレのディラルク。


「よ、よ、よろしくおねが、いします」

ショートカットのセフィロア。


「••••••」

無骨なベルクリアス。


お辞儀をしながら「ユミリスですよろしくお願いします」と頭を下げた。


「初めに言っておきます。私は魔道具師ギルドで働いていましたが仕事はどちらかというと刻印専門で物自体は作れません」

「それならベルクリアスが適任だな。ベルクリアスは錬金術師だ。金の棒から薬、ひいては物を作り出す」

「よろしくお願いします、ベルクリアスさん」

「ぅ、」


トリアルドはコソッと耳打ちした。

「全員内向的なんだよ。シャイだから頼んだ」


(気づいてました。だから先が思いやられる)









ベルクリアスは私が『こういった物があったら便利』というのを図にして必要な素材から『道具』を作り上げていく。


(凄い、錬金術の腕ならシエル以上だ)


ユミリスとシエルは開発パートナーだった。


『物』を作るのがシエルなら。

『機能』を植え込むのがユミリス。


(最高のパートナーだと思っていた。彼女が私を騙すまでは)


あの日、シエルは手柄を全部横取りした。

刻印術式も一人で組み込んだと嘘を言い続けて私を要らない子にした。

冷遇されるようになった工房で彼女だけは輝き続けた。


手のひらにそっと手が重なる。


「••••••大丈夫」


無骨で角張った手。

体格もひょろりとしていて目の下にはクマがあり目は真っ黒でハイライトすらないベルクリアス。


「ありがとう、ございます」


ユミリスにはやらなければならない事がある。


まずは『道具』に『機能』の組み込みだ。


「お皿?」

「皿の底を見て下さい」

「毒消しの刻印か! ならこのスプーンとフォークにナイフ! グラスも!」

「本当はスプーンとフォークとナイフ。グラスだけでしたが用心に越した事はないとベルクリアスさんが」

「ベルクリアス••••••!」

俯き恥じいる様子のベルクリアス。

「良くやった! 二人とも!」


ユミリスとベルクリアスは互いを見つめてハイタッチをする。


「わ、わたしたちも、頑張ろっディラルク!」

「••••••うん」


ディラルクとセフィロアを見て微笑むユミリス。


(互いに切磋琢磨し認め合う仲間)


目を閉じるユミリス。


(あの時では考えつかなかったなあ)


ベルクリアスが手を引く。

先導して歩くベルクリアスに「???」となる。


「トリアルド様がお待ちだ」

「トリアルド様がアナタの話を熱心にされていた」

「努力家で不器用な癖に自分を不幸にしてまで周りを幸せにしようとすると」


扉を開くベルクリアス。


「なんで王宮に工房を作ったか本人に聞いてくれ」


扉が開いた先にはトリアルドが居た。


「トリ、アルドさま、」


トリアルドが微笑む。


「君の幸せが僕の全てだった。君が工房を辞めた事を知ってその工房はいまどうなったか分かる?」

「わかり、ません」

「シエルって女の人が詐欺罪で逮捕された」


ドクン


「湯沸かしポットとうたっては水しか出ない。食材を温める箱は箱以外何物でもない。通信器具のイヤリングはただのイヤリングでしかなかった」


「訴えられた彼女は魔道具を使用し警官を一人殺した」


「詐欺罪に加え殺人罪しかも警察を殺したから罪は重いだろうね」


「どうして、私にそれを」


「君の一番のパートナーだったからだよ! 最初工房にいたときの君はキラキラ輝いていた! まるで彼女が一番大事だと言わんばかりに!」


「ま、さか」


「そうさ、彼女に手柄を全部貰う事を唆したのは俺だ! 俺だけが君を幸せにできる! 俺だけが君を守ってやれる!」


倒れそうになる身体を抱きしめられる。


「俺のものになってユミリス」

「じゃないとベルクリアスも同じ目に遭うかもしれないよ?」


ユミリスの目から涙が零れ落ちる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あれから三年たちユミリスはトリアルドと付き合っている。



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