命令:主人公になれ!
メタくんはメタキャラです。頑張ってください
「君、今回は主人公ね?」
「は?主人公?」
この世界を描く小説家、よっちに告げられた言葉は、その一言だった。
俺がこうして驚いているのは、いつも俺は、メタキャラという立ち位置をやらせてもらっているからだ。
メタキャラというのを簡単に説明すると、まぁ……、この世界について知っている存在と思ってもらったらいい。人によっては、俺のことを嫌う人間もいるらしいが、作者がすこぶる好きなので、付き合ってあげて欲しい。
さてさて。俺はいつも、ある作品の世界に飛ばされて、その世界で、主人公君にヒントを出したり、或いは特訓してあげたりと、師匠ポジでもあり、物語が破綻するのを防ぐ抑止力としても機能している。不思議に思うかもしれないが、物語が独り歩きすることもあるのだ。
例えばだが、作者が描写していない場面などに、欠落が生じたりすることだ。俺はこれを正す。といっても、何も起こらないようにするというのが、おおむねだが……。
で、だ。主人公て言った?なぁ?こいつ主人公って言った?
「主人公、嫌かい?」
「いや……じゃ、無いですけど……。というか、もういちいち問いかけるのやめてもらえます?」
「そういうわけにもいかないでしょ?こっちには色々法律だってあるんだし、俺はちゃんとそう言うのにはうるさいんだよ?」
「あぁ…、そう……」
この人は、本当にめんどくさい。あれやこれやと引っ張ってきては、結局は大体が同じ展開の連続。飽き飽きしてくる。どうせ俺が主人公になったところで、今までの経験が俺をメタキャラにするんだ!悲しい運命……。
「あ、そうだ!」
「はひ!?」
この人、急に大きな声出してくるから嫌いなんだよ。絶対飲みとか誘われないだろ、死ね。
「お前、少しでもメタキャラ的な動きしたら殺すからな?」
「…………は?」
「いや、だから、メタキャラっぽい事したら、殺すっつってんの!」
「んな理不尽な!?」
だが、ここで反抗したとしても無意味だ。頑張って主人公を演じるしかない!というか、お前の書き方次第だろ!
「安心してよ。ちゃんと俺が描写している間は主人公だからさ」
「…………分かったよ。やりますよ!」
投げやりにそう言うと、ふふんと笑う。姿かたちは見えないが、俺にはなんとなくその表情が想像できた。
これでも、長年の付き合いなんでね。
「物分かりがいいね!流石メタくん!……おっと違った。この物語の主人公、成神白木くん」
その言葉が耳に入った直後、俺は重々しく黒い服を着ていた。制服だ。どうやら今回は、学園物らしい……。でも、本当に主人公みたいだ。いつもなら、始まりから終わりまで、起承転結全てが明かされるが、今回はそんなことなかった。
「おはよ、成神君」
「え?」
目の前に立っていたのは、茶色い髪をした……、誰だ?ちょっと待て?誰だ?おい!情報共有をしないからって、基本的なことは……。
そう思った刹那、脳裏によみがえった言葉があった。
―――お前、少しでもメタキャラ的な動きしたら殺すからな?
ひどく冷たい言葉だった。あれはマジだ。
「え、あ、えっと……」
考えろ。ここでこのヒロインらしき人物の名前を言い当てられなかったら、それは何らかの伏線と思われてしまうかもしれない。そう言う伏線の一つ一つが、俺をメタキャラたらしめるのだとしたら、おかしな言動は出来ない……!どうする……。
まず状況を整理しよう……。学ランという事は、『現実世界』と呼ばれるものが舞台だとうかがえる。そして俺の名前は『成神白木』。舞台は日本だ……。いやまて。西洋の舞台で学ラン、日本人名を出すのもこの作者のストーリーに中にいくつかあった。なら見るべきは……。
「…………」
「……どうしたの?成神君……」
目の色は黒!日本だ!?そして、この頬の紅潮……。間違いない、恋愛小説だ!こればっかりは常だからな……!
「い、いやぁ……、相変わらず可愛いなぁって……」
「え?」
恋愛ものなら、とりあえず惚れさせるオア、惚れている描写を入れるのが常だ。つまり、安易でもいい、褒めろ!名前が無くてもある程度会話が続けられるかもしれないしな!そこから名前をあぶりだす!
「もう!かわいいってなにさ!ボク、男だよ!?」
なにぃぃぃぃぃぃぃ!?
いや、そういやそうだった!!この作者、オトコの娘好きだった!たいてい最初に出るキャラはオトコの娘!重要事項を忘れていたぜ……。
だが、まぁいい。オトコの娘キャラだというのなら、主人公が彼を可愛く思っているのは定番だ。まだ慌てる時間じゃない……。
「そ、そういやそうだったな?お前可愛すぎなんだよ……」
「もう……」
チクショー!マジで可愛いな!?ぷくっと頬を膨らませやがって……!抱きしめたい!
いや、そんな事より名前だ……。だが、どうしたものか……。は!そうだ!第三者だ!第三者が来れば!
『あ、〇〇君じゃん」
『あ、〇〇さん!おはよー!』
こんな感じで、目の前にいるキャラたちが勝手に自己紹介してくれる!!
だが、待ち続けるのは流石におかしい……。しかし僥倖!あたりを見渡した感じ、ここは学校内であることに間違いない。つまり、会いに行けばいいんだ!
「……なぁ、ちょっと学校ぶらつかね?」
「ん?いいよー」
首を傾げ、少し不思議そうに眉を顰める彼は、信じられないほどかわいい。ショートヘアーで、声もオトコの娘キャラの中でも格段に女性よりの声……。可愛い!実は女の子だった展開をご所望する!
と、しばらく二人で回ってみたが、誰もいない。
時間を見てみても、決してみんながいなくなるような時間帯でもない。なのに誰もいない……。歩いている間は、気まずい沈黙だけが流れてしまった。
…………これは。あの作者、キャラこの子以外考えてねぇなああああ!?ふっざっけんなああああああああああああああああああああ!?
正直、不定期に登校するつもりだし、設定もめちゃくちゃだけど、ご愛敬ってことで……。よかったら、いいねなんかもくれると、嬉しくて泣きます