君に足りないもの。
「君に足りないもの、なにかわかる?」
開口一番に言われた言葉。
「計画性の無さだよ」
これが二番目に言われた言葉。
上司が放ったこの数個の単語は私の心を壊すのに十分だった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
小さい頃から私はよくいきあたりばったりの生き方をしてきた。別にしたくてしてるわけではない。
計画は大事だ。私は誰よりも計画性に優れていると自負ていた。だから予定が狂っても私は怒らなかった。
なぜなら、悪いのは私じゃないから。
それを周りの奴らは
「他の人の気持ちを考えろ」
だの
「協調性のない子ね」
だの抜かしてきた。
どの口が言うんだ。私の計画を狂わせたくせに。
まぁ、怒らないけど。
そんなふうに飄々と生きてきた。
それで困ったことなんて口うるさく言われた…
名前なんだっけ?忘れちゃったな。
あの保健室のババァや構ってちゃんのクソ担任。
そんな奴らがいたって私は生きた。
気に入らないやつはぶっ飛ばして。
(怒るのと気に入らないのは別だ。
好きか嫌い。それだけの違い。)
気に入ったやつとだけ酒を飲んだ。
そのうち金も親も無くなったので働くしかなかった。
ちぇ、働かなくても金が手に入る方法があるってきいたのによ。役所はダメっていいやがって。
ブーブー不満をたれて社会人になった。
(これも怒ってない。社会に出るのが嫌いなだけだ)
真面目に働いた。
文句言われても口答えせずに働いた。
まったく私ってこんなに我慢できたんだと思った。
あのクソ上司さえいなければ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「バレないと思った?」
「はぁ」
お前のズラはバレてるけどなと思った。
でも、口に出して言わない。大人だから。
「それにしても、よくこんな事ができたね」
「へへへ、あざっす」
「褒めてないんだけどね」
そろそろ金髪に染め直すか〜。
このクソ上司、話長いな〜。
「それで…君どうする気なんだ?それ」
「へ?あぁ〜…」
やべっ…何も聞いてなかった。
「えぇ〜と…」
なんて言おうかな
「……プレゼント…ですかね?」
「…嫌なプレゼントだな。本気か?」
「まぁ…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それで全部?」
「だいたいのことは話しましたよ」
これって私が悪いのかな。
自分がされて嫌なことするやつが悪いのかな。
私は小学生でもわかる自問自答を繰り返した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつだって私は計画を立てた。
うまくいった試しはないが。
計画なんてそんなもんだ。
あればいい、なくてもいい。
まぁ、そんな安易な考えをしていたから
バチが当たったのだろうか。
先日殺したクソ上司が発見された。
すぐに警察にバレた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「君、何したかわかってるの?」
開口一番に刑事に言われた言葉。
すでに嫌いになりそうだった。
「腹が立ったので刺しました。腹に。はは、腹だけにってね」
「笑えないよ」
渾身のギャグだったんだけどな
「そして、これ。」
「ありゃ、この顔」
取調室のテーブルに置かれた2つの写真。
とても見覚えのある顔ぶれが並んでいた。
「クソババアとクソ担任」
「君が山に埋めたんだね」
「気に食わなかったんで」
「君を気にかけてくれたと聞いているが」
「あぁ…ずっと話しかけてきてうざかったんです。だから山に埋めました。」
「…」
刑事は何も言わなくなった。
「君は人を殺したっていうのに冷静だな」
「そうですかね?計画が狂ってドキドキしてるんですけど」
「計画が狂って?」
「ほら、私って計画性があると思ってるんですけど、あのクソ上司否定してきたんですよ」
また、取調室に沈黙が訪れる。
「…君に足りないもの。なにかわかるか?」
刑事が口を開いた。あのクソ上司と同じ口上だ。
「なんですか?計画性のなさですか?」
「いいや…人の心だよ」