ツアー客は見た。復路で特定の座席をうろつく怪しい男の謎
おもな登場人物
堀内警部 旅と鉄道を愛する40代にして数々の何事件を解決してきた警視庁の刑事。旅先でなぜかいつも殺人事件が起きてしまう。そのため、「歩くトラブルメーカー」というあだ名がついている。城東警察署に配属されているが、彼の推理力は警視庁でも群を抜いているため、色々な捜査本部に派遣されることが多い。
第一章 堀内警部が通う場所
東向島駅の高架下に東武博物館がある、堀内警部はそこの常連でシミュレーターの達人である。今日は土曜日、久々の休日を利用して遊びに来ていた。
「堀内さん、お久しぶりです!!」と常連客の一人が言う。彼の名前は小田原望海。ノゾミチャンネルというチャンネル名でYoutubeに動画を投稿している。
「久しぶり!!チャンネル登録者は増えた?」と堀内警部。
「はい。おかげさまで50人超えました。」と望海。
「今年中に100人目指して頑張ろうぜ!!」と堀内警部。
「はい。そういえば、堀内さんは捜査一課の刑事だと聞きましたが、刑事ドラマ見てどう思いますか?」と望海。
「やりすぎなシーンが色々あるよ。ドラマでは証拠品に触れて「鑑識に回せ!」とかいうけど、証拠品は遺体からどのくらい離れているかとか部屋の中心や端からどれくらい離れているのかと証拠品の大きさを計測したり、重さを計測したりを鑑識が直接やるから、捜査一課の刑事は触れないよ。」と堀内警部。
「そうなんだ!そういえば、もうすぐ特急りょうもうのリバイバルカラーで行うミステリーツアーがありますけど、参加しますか?」と望海。
「もちろん!」と堀内警部。
「今回は殺人事件が起こらないと良いですね、歩くトラブルメーカーさん。」と望海。
「そのあだ名誰から聞いた!」と堀内警部。
「この前、オンライン飲み会で自ら言っていたじゃないですか。」と望海
「そうだっけ?」と堀内警部。
堀内警部が参加するりょうもうミステリーツアーとは、8月7日に開催される行き先不明のツアーである。東武動物公園駅集合、草加駅解散であることは公表されておりが、それ以外は公表されておらず当日までは不明である。
その後シミュレーターを楽しんだ堀内警部であったが、その時、館内放送が流れた。
「皆様、落ち着いて聞いて下さい。先ほど、SNS上に当博物館への爆破予告が書き込まれました。只今、従業員総出で爆発物を探しています。館内に警察官がいらっしゃいましたら、当館入口、インフォメーションまでお越しください。」
「すぐ行く!」堀内警部がインフォメーションへと走った。
「城東警察署の堀内です。爆発物は見つかりましたか?」と堀内警部。
「今探しています。」と博物館の係員が言う。すると、内線電話がかかってきて、係員が出た。
「はい!爆発物は見つかったか?何!すぐに知らせる」と係員。
「見つかりました!向島サテライトの神輿の下に置いてあるそうです。」係員が緊迫した様子で言う。
「わかった。すぐ向かう。」堀内警部が現場に向かう。そして彼は携帯で江田警部に電話をかけた。
「江田、大変なことになった。東武博物館で爆発物が見つかった。」堀内が言う。
「本当か。向島警察署の人はもう来たか?」と江田。
「サイレンが聞こえるからもう来るだろう。」と堀内。
その後、向島警察署の警察官と爆発物処理班が到着した。
「爆発物に使われた火薬は黒色火薬。米軍の手榴弾などにも使われる強力なものでした。この量でしたらこれ一つで博物館全体、いや、その上の線路も粉々にする威力があります。」と処理班の一人が言う。
「そんなに凄まじい威力があるのか。」と堀内警部。
「はい。おそらく爆発していたら博物館は粉々、多くの人が犠牲になったでしょう。」と処理班。
「指紋は?指紋はついていたか?」と堀内警部。
「残念ながら付いていませんでした。署に帰って安全に処理した後に科捜研に回します。」と処理班。
その後捜査が進み、翌週の水曜日、SNSに爆破予告を書き込んだ疑いで都内に住む畠山敏行が逮捕された。取り調べは向島警察署のベテラン刑事斎藤が担当することになった。
「なぜ爆弾を置いた。」と斎藤。
「俺じゃねぇし。そもそもその時間俺はバイトしてたし。」と畠山。
「証明する者は?」と斎藤。
「店長だよ。証明したければ店長に聞けよ。」と畠山。
その後、アリバイを調べたあが、事件があった7月17日彼は無断欠勤していたことが分かった。さらに、安全に処理された爆弾から毛髪が見つかり、DNA鑑定の結果、畠山の物とわかり、畠山の犯行は確実となった。
「お前のアリバイは証明されなかった。事件があった7月17日は無断欠勤したそうだな。」と斎藤。
「は?俺はバイトしてたし。」と畠山。
「じゃあこれはどう説明する!」そういうと斎藤はDNA鑑定の結果を見せた。
「それは・・・。」畠山はその後は黙り込んでしまった。
「もう証拠は揃っているんだ!いい加減吐いたらどうだ。」と斎藤。
「・・・。」畠山は黙秘を貫いた。
「どうします、このままだと一生吐きませんよ。」と後輩の大川が言う。
「ああ、でも証拠はそろっている。あとは彼の心が崩れるのを待つだけだ。」と斎藤。
第二章 第一の被害者
畠山逮捕の翌日、7月22日に最初の事件が起こった。浅草駅の男子トイレの個室で遺体が発見されたのだ。すぐに浅草警察署の刑事と鑑識が駆け付けた。そして、鑑識作業が始まった。遺体が着ていたズボンのポケットに入っていた財布の身分証明書により、被害者の名前は伊藤浩一、年齢は55歳で、都内に本社がある「四葉電機」という大手電機メーカーの営業部長だった。
「足跡は多過ぎて判別できません。」鑑識が言う
「他に犯人に繋がりそうな証拠は?」と浅草警察署の外川警部が言った。
「キャスターの物と思われるタイヤ痕がありました。」と鑑識。
「鎌田、防犯カメラの映像を確認して来い。」と外川。
「はい。」鎌田警部が警備室に向かった。
そしてその数分後。
「防犯カメラの映像を貰ってきました。」と鎌田がCDをもってやって来た。
「何か映っていたか?」と外川
「大きなスーツケースを持った男性がトイレに入り、数分後に出てくる様子がはっきりと映っていました。」と鎌田。
「お手柄だ。署に帰って詳しく調べよう。」と外川。
その後、署に戻り防犯カメラの映像をもう一度詳しく確認した。
そして、遺体を司法解剖するために服を脱がすとお腹にはマジックでこう書かれていた。
「りょうもうミステリーツアーは本当のミステリーツアーになるだろう」
「これって、殺害予告ですかね。」遺体を解剖する小澤が言う。
脅迫メッセージのりょうもうミステリーツアーとは、8月7日に開催される、行き先を直前まで公開しないツアーのことだ。車両はこの日に営業運転開始するリバイバルカラーの車両である。
その後、司法解剖を行った結果、遺体が発見された日の早朝に殺されたことが分かった。死因は首を絞められたことによる窒息死。傷跡から凶器は革製のベルトであることが高いと判断された。
第三章 捜査会議
その後、今の時点で分かっている捜査資料を基に捜査会議が行われた。
「被害者の名前は伊藤洸一、四葉電機という大手電気製品メーカーの営業部長です。」と鎌田。
「死因は首を絞められたことによる窒息死、死亡推定時刻は遺体発見日の早朝。なので、別の場所で殺害されてから、あのトイレに運ばれたのかと思います。」科警研の氷川が言う。
「防犯カメラの映像には、スーツケースを持ってトイレに入り、数分後に出てきました。入る時は重そうに、出てきたときは軽そうにしていたので、おそらく中に遺体が入っていたのかと思います。犯人が映っていた防犯カメラ映像は他に5箇所ありましたが、顔を判別できる映像はありませんでした。」鎌田が言った。
「キャスターのタイヤ痕と防犯カメラの映像から、スーツケースの種類が分かりました。しかし、量産品であるため、そこから、犯人をたどるのは難しいと思います。」氷川が言う。
「遺体の腹にはマジックで(りょうもうミステリーツアーは本当のミステリーツアーになるだろう)とかかれていました。殺害予告だと思います。現在詳しく調べています。また、脅迫メッセージの列車は直前まで走行ルートが公開されないので、今、鉄道ファンの間で話題になっています。」と鎌田。
「傷跡の形からして凶器はベルト、しかし、中国製の量産品であったため犯人をたどるのはかなり難しいと思います。」氷川が言った。
「遺体が発見された個室のドアノブからは複数の指紋が発見されました。そして、革手袋のものと思われる痕も見つかりました。」と大野。
「彼の身辺調査はまだ途中ですが、彼を恨むような人間はいないみたいです。」と大川。
「そうか。引き続きよろしく頼むよ!」と外川。
一方の畠山はというと、罪を認め、現在裁判を待っている所だ。
第四章 浮かび上がった第一容疑者
その後、身辺調査を続けたが、彼は超がつくほど真面目な人間で遅刻は入社してから、電車の遅延以外では一度もなく、無断欠勤もゼロだった。さらに、彼を恨むような人物はいなく、彼は人に恨まれるような性格ではなかったと営業部の人達は証言した。さらに、彼の評判は営業部だけでなく、会社全体で高く、次期社長候補にも挙がるほどの信頼度の厚さであった。
被害者の勤めていた四葉電機は家電はもちろんのこと、業務用電化製品やモーター、さらには海外向けの製品まで幅広い物を制作しており、四葉電機製のモーターは東武鉄道の車両にも使われていた。四葉電機のテレビCMは毎日放送していてその名前を知らない人はいないと言われる程の超有名企業だった。そんな四葉電機の営業部長が殺されたということで、マスコミはこぞってこのニュースを取り上げた。
そんな中、営業部の二人が、犯人に思い当たる人物がいると証言した。その人物は四葉電機の取引先で大手家電量販店のエドガワカメラの営業部長で次期社長候補でもある。彼の名前は安村義信、その後の調査で都内の賃貸マンションに単身赴任していることも分かった。
その後、安村に事情を聴くために、外川と鎌田が彼の自宅に向かった。
「安村さん、いらっしゃいますでしょうか。」外川が扉をノックする。
「はい。」安村が出た。
「浅草警察署の者ですが。」と外川と鎌田が警察手帳を見せた。
「警察?警察が何の用ですか。」安村が言う。
「7月22日の木曜日、あなたの会社の取引先、四葉電機の営業部長、伊藤浩一さんが浅草駅の男子トイレで遺体となって発見されました。」と外川。
「はい。それが何か。」と安村。
「7月22日にあなたは何をしていましたか?」と鎌田。
「まさか、俺を疑ってるの?」と安村。
「もう一度聞きます。7月22日にあなたは何をしていましたか?」と外川。
「その日なら、仕事をしていたよ。重要な会議があったから家に帰ったのは夜の10時過ぎくらいだったかな。」と安村。
「それを証明できるものはいますか?」と鎌田。
「証明できる者って、部下に聞いてみな。」と安村が少し強い口調で言った。
「分かりました。とりあえず、今日は以上です。」と外川。
「はぁ。勘弁してくれよ!」安村は怒り任せに扉を強く閉めた。
「外川さん、どうですか?」鎌田が尋ねる。
「まだわからないが、濃いな。」外川が言った。
その後、彼の部下に尋ねたところ、その日は遅くまで仕事をしていたことが分かり、彼は容疑者から外れた。その後は、彼を恨むような人物が証言で現れることはなく、捜査は暗礁に乗り上げた。
第五章 第三の事件
伊藤の遺体が発見された一週間後、7月31日に新たな事件が起こった。東武動物公園で園内のごみ箱が爆発し、近くにいた川口市に住む12歳の少年とその少年の父親が巻き込まれた。すぐに二人は救急車で病院に搬送されたが、父親は意識不明の重体、少年は背骨を骨折する重傷だという。その後、東武動物公園駅前交番の巡査が駆け付けた。目撃者の証言によると、金属製のゴミ箱が爆発し、蓋が空高く舞い上がり、それが近くにいた少年に向かって落ちてきた。それに気づいた父親は少年をかばう為、少年の上に覆いかぶさったという。その後、杉戸警察署の刑事と鑑識がやってきて現場を調べることになった。
「被害者は川口市内在住の梅原明人12歳と父親の梅原秀樹42歳だ!」杉戸警察署の山崎が言う。
「警部、ゴミ箱からはかなりの数の指紋が出ました。」鑑識が言った。
「爆弾は遠隔操作式のもので、爆薬は黒色火薬。米軍の手榴弾に使われる強力なものでした。」と別の鑑識。
「警部、大変です。これを見てください。」別の鑑識が言った。
「なんだこれは。」山崎が言う。
そこには、黒焦げのラミネート加工された紙が入っていた。
「焦げているので、文字は判別できませんが、おそらく中に入っていたものと思われます。」鑑識が言う。
その後、黒焦げの紙を埼玉県警科捜研が調べるとこう書いてあった。
「ミステリーツアーまであと一週間。僕が捕まるのが先か、ミステリーになるのが先か。せいぜい頑張れポリ公」
「脅迫メッセージ・・・。でも、同じような事件があったような。」山崎は言った。
「遠隔操作の受信機からは指紋は出ませんでした。」と科捜研の原田が言う。
その次の日、さらに捜査は進んだ。
「調べてみました、浅草駅で見つかった遺体にも、似たような内容の脅迫文が書かれていました。」後輩の川原が言う。
「その事件の犯人は?」と山崎。
「まだ捕まっていません。」と川原。
「この事件と浅草の事件は繋がっている。浅草の事件との共通点、また、指紋などの証拠、徹底的に調べろ!」と山崎。
その後、ゴミ箱とメッセージに付いていた指紋を調べた。メッセージは焦げていて指紋はとれなかったが、ゴミ箱からは採取できた。しかし、多すぎて犯人にはつながらなかった。しかし、ゴミ箱の中に爆弾をセットした時に付着したと思われる革手袋痕が見つかり、その手袋痕を科捜研が調べた結果、浅草の事件の物と一致した。
第六章 合同捜査本部
2つの事件が繋がっていると判断されたため、浅草警察署に合同捜査本部が設置された。捜査本部メンバーには杉戸警察署の刑事の他、城東警察署から派遣された堀内警部もいた。彼の推理力は警視庁でもトップクラスのため、様々な捜査本部に御呼ばれしている。そして、本部長は今までに数々の何事件を解決してきた警視庁伝説のベテラン刑事の日野孝弘が務めた。
「この事件は繋がっている、そして、どちらも東武線沿線で起きている。犯人は東武関係者または株主だ。」と堀内警部。
「なぜわかる?」本部長の日野が言う。
「長年のカンってヤツかな?」と堀内警部。
「浅草の事件の被害者は伊藤浩一、四葉電機の営業部長。死因は首を絞められたことによる窒息死。遺体発見現場には血痕などはないことから、他の場所で殺害されたと思われます。」と浅草警察署の斎藤警部。
「伊藤浩一が発見された浅草駅の男子トイレに残っていた手袋痕と東武動物公園のゴミ箱爆発事件の現場に残された手袋痕とが一致しました。そのため、同一人物の犯行と思われます。」と大川警部。
「東武動物公園の事件の被害者は梅原明人と梅原秀樹。川口市内在住だ。」と杉戸警察署の山崎が言う。
そして、今わかっていることを基に30分ほどの捜査会議が行われた。
「以上が今わかっていることだ。」捜査本部長の日野が言う。
その後、伊藤浩一について改めて詳しく調べてみると、東武鉄道の株を634株保有する株主であった。更に、東武鉄道の株主リストの中には安村義信の名前もあり、彼は500株を保有していた。さらには梅原も株主で彼は300株保有していた。
「堀内の勘が当たったとは、やはり君の推理力は警視庁一なのではないか?」と日野。
「いやいや、日野さんほどではありませんよ。」堀内警部は笑った。その時彼の携帯が鳴った。
「江田ちゃん、何かわかったのか?」と堀内。
「堀ちゃん、今までの事件、気になって調べてみたんだが、伊藤と梅原、伊藤殺害の第一容疑者の安村は、東武の株主だった。」江田警部が電話越しに話す。
「それはこっちでもわかっているよ。」堀内はそう言った。
「それだけじゃないんだよ。三人は浅草駅近くにある雷神輿というバーの常連だ。そしてそのバーは俺も良く行くからマスターとは連絡先を交換する仲なんだが、マスターが、伊藤の遺体が発見された朝に駅近くの浅草オアシスビルというレンタルオフィスとかがあるビルに伊藤が入っていく様子を目撃したって言うんだ。」と江田。
「本当か?」と堀内。
「それだけじゃないよ。そのバーは東武の職員も良く使っていて、その中に、三人を良く思っていないやつがいるとマスターは言うんだ。」と江田。
「本当か?その人の名前は?」と堀内。
「藤田義弘。東武鉄道の経理部の人間だ。」と江田。
「ありがとう。また気になることがあったら連絡頼むよ。」そう言うと堀内警部は電話を切った。
「伊藤が通う浅草駅近くのバーのマスターからの証言で容疑者が一人出た。」堀内が江田からの情報を手短に話した。その後彼の自宅に向かった。
第七章 容疑者の証言
「警察です。藤田義弘さんは御在宅でしょうか?」外川が言った。
「はい。」義弘本人がすぐに出てきた。
「浅草警察署の外川です。」彼は警察手帳を見せながらそう言った。
「警察が何の用ですか?」藤田が聞いた。
「7月22日に東武鉄道の株主の一人である伊藤浩一が浅草駅のトイレで遺体になって発見されました。」と外川。
「はい。それが何か。」藤田が言う。
「7月22日、あなたは何をしていましたか?」と外川。
「何って、仕事をしていたよ。もしかして俺を疑うつもり?」と藤田。
「それを証明する者は?」と外川。
「経理部の人間に聞いてみな。」と藤田。
「分かりました。とりあえず今日はこれで以上です。」と外川。
「ふざけんな!」藤田は怒っていた。
その後、経理部の人たちが藤田のアリバイについて証言したため、藤田は犯人から外れた。さらに、社内の防犯カメラ映像にも藤田は映っており、遺体発見現場に映っていた犯人の防犯カメラ映像と歩容認証をかけた結果、一致しなかったため、彼は犯人でないことが証明された。
その後、東武動物公園の防犯カメラの映像に映る犯人と浅草駅の男子トイレの周辺の防犯カメラの男も歩容認証にかけてみることにしたが結果は一致、同一人物であることが判明した。その後も捜査は着々と進んだが真犯人にはたどり着かずに無情にも時間は過ぎていった。
第八章 第二の被害者
合同捜査本部が設置され、二つの事件の捜査が進む中、今度は東武博物館の記念物・保存物展示コーナーで安村義信が遺体となって発見された。8月4日でこの日はミステリーツアーまであと三日だった。
「まさかとは思ったが、また東武博物館で事件が起こったな。」斎藤はため息をついた。
「死因は後頭部を殴打されたことによる脳挫傷でした。傷の形からして鈍器で殴られたと思われます。」鑑識が言った。
「斎藤警部、大変です!被害者の安村は伊藤浩一殺人事件の第一容疑者だった事が分かりました。さらに、殺された伊藤と安村、ゴミ箱爆発に巻き込まれた梅原は東武鉄道の株主であることが分かりました。」後輩の金山が言う。
「つまり犯人は中の人間ってことか。」斎藤が言う。
「警部、防犯カメラの映像には、博物館ホールからここに繋がる階段を上る2人の男が映っていました。」と後輩の小山が言う。
「もしかして、この立入禁止の看板がある階段か?」と斎藤。
「はい。2人は大きなスーツケースを持っていました。そのスーツケースから遺体を出して現場に寝かせる様子もはっきりと映っていました。」と小山。
「そうか。帰って詳しく調べてみる。」と斎藤。
「警部!これって!」金山が言う。
「何だ!」斎藤が金山の所に向かった。
すると、展示用ショーケースの中に、ラミネート加工された紙が入っており、その中にはこう書いてあった。
「ミステリーツアーまであと3日。それまでに僕を逮捕しなきゃツアーの列車で株主があと3人死ぬ。」
「つまりは伊藤殺害と東武動物公園のゴミ箱爆発、さらに安村殺害は繋がっている。」斎藤が言った。
その後、署に戻り、防犯カメラの映像を確認した結果、2人の男のうち一1人は伊藤の遺体が発見された浅草駅の男子トイレの周辺の防犯カメラ映像、そして東武動物公園のゴミ箱爆発事件の防犯カメラ映像と歩容認証で一致した。
その後、科警研が傷口の形を3Dデータ化した。傷口の形からして凶器は真ん中に穴が開いた金属製の鈍器であることも判明した。その穴は、四角形のようだが、片方の底辺は普通の四角形、もう片方は半円型になったビート板のような形をしていた。科警研の傷口の形のデータと鈍器の形のデータはすぐに合同捜査本部にも送られた。
「この形、どこかで見たことがあるような・・・。」本部長の日野が言う。
「この形・・・。もしかして、ブレーキハンドルですかね。」堀内警部が言った。
「ブレーキハンドル?」日野が首をかしげる。
「電車のブレーキを操作する時に使うもので、持ち手が木製、車両のブレーキ弁にはめ込む部分が金属製の器具のことです。」そう言うと堀内警部はスマホでインターネットを開き、画像検索をして、日野所長に見せた。
「やっぱりか。つまりは犯人は東武の人間だ。東武の人間で前科者や要注意人物がいないか徹底的に調べろ!」日野が叫ぶ。
その後、三つの事件の犯人は同一人物であることが判明した。しかし、犯人を特定するまでには至らず、ついにミステリーツアー当日を迎えてしまった。
第九章 ついに動き出したツアー列車
8月7日の朝9時頃、堀内警部はツアーの集合場所である東武動物公園駅にいた。また、車内の警備のために、埼玉県警と警視庁の警察官が乗務することになった。そして駅のホームに列車が入線し、ツアー客が乗車した。
「こちら1号車。今のところ異常はありません。」と警備中の刑事が言う。
「こちら2号車。こちらも異常はありません。」2号車の刑事がいう。
「こちら3号車。こっちも異常なし」3号車の刑事も言う。
「こちら4号車。異常なし。」4号車の刑事は手短に伝えた。
「こちら5号車。こっちも異常はない。」5号車の刑事もすぐに答えた。
「こちら6号車。こっちもだ。」6号車の刑事もすぐに答えた。
その後、何も起こらないまま列車は東武動物公園駅を発車した。
しかし、鷲宮駅を通過した時、事態は大きく動いた。3号車の座席番号32番に座っていた参加者が突然苦しみながら倒れたのである。その後列車は鷲宮~花咲駅間で緊急停止、その後加須駅に臨時停車し、救急隊が駆け付けた。しかし、男性はその場で死亡が確認された。被害者の名前は白川敏文、年齢は62歳。死因は青酸カリによる中毒死だった。その後駆け付けた警察により現場検証が行われた。青酸カリは男性が飲んでいた缶コーヒーに混入されたことが分かった。その後列車は1時間半遅れで伊勢崎駅に到着、伊勢崎駅では駅員が横断幕を掲げて歓迎していた。その後折り返して太田方面に向かいその後佐野駅に到着。すぐ折り返し、出発地の東武動物公園駅の留置線に到着。その後方向転換し、日光線に入った。その後列車は南栗橋車両管区に到着した。
そこでは幕回しや撮影会、グッズ販売や抽選会などが行われた。
「これより鉄道部品販売会を行います!」と東武の職員が言う。
その後、鉄道部品は飛ぶように売れ、その後、写真撮影会も行われた。結局のところ遅れは回復せず1時間半遅れで解散場所の草加駅に向かって列車は走り出した。往路で一人が死んだとあって、警備に当たる警察官も増員された。
第十章 復路での出来事
復路は最初は何も起きず平和であったが姫宮駅を通過した時4号車で21番の座席に座る60代の男性を見つめている、33番に座る怪しい男を警戒中の斎藤警部が見つけた。
「警察の者です、あなたの持ち物を確認したいのですが」斎藤警部がそう言うと男はいきなり立ち上がり走り出した。
「待て!」斎藤警部が追う。その後、それに気づいた他の警察官も応援に加わり男は確保された。
「持ち物を見せろ!」斎藤警部が言う。
「もはやこれまでか。」男はそう言うと隠し持っていたナイフを取り出した。
「これで21番に座る男を殺そうとしたのか?」と斎藤警部。
「そうだよ。あいつは株主でクレーマーの大門義弘だ。」と男は言う。
「名前と職業を言え。」と斎藤警部。
「麻布和也。ここの経理部長だ。伊藤浩一と安村義信を殺したのも俺。東武動物公園のゴミ箱も俺がやった。白川のコーヒーに毒を混ぜたのも俺だ。」と彼はすべて今までのことを自白した。
「やっぱりか。麻布和也、お前を逮捕する。」そう言うと斎藤は麻布の腕に手錠をかけた。
「斎藤警部、大変です!」大川が走ってきた。
「待て、今手が離せない。」斎藤が言った。
「4号車21番に座っていた男性が突然泡を吹いて倒れました。青酸カリ中毒だと思われます。」と大川。
「何。大門義弘か?待て、ここは他の者に任せる。」そう言うと麻布の身柄を他の警部に託し斎藤は4号車へと走った。
「大門さん、大丈夫ですか?」斎藤警部が駆け寄り呼吸を確認した。
「まだ息がある!とにかくAEDを持って来い!あとすぐに救急車の手配を!そして近くの駅に臨時停車しろ!」斎藤警部が叫ぶ。
「戻ってこい!戻ってこい!」斎藤警部が心臓マッサージをした。
その後列車は北越谷駅に臨時停車。救急隊が乗り込んできた。この時点では大門はまだ生きていた。しかし、懸命な救命措置も虚しく搬送先の病院で死亡が確認された。死因はやはり青酸中毒だった。その後、警察による鑑識作業が始まった。青酸カリは大門が飲んでいた炭酸飲料に混ぜられていた。しかし、麻布は斎藤警部たちに取り押さえられて毒の混入は不可能であることから別の人物が混入した可能性がある。すぐに車内の防犯カメラ映像を調べたところ、麻布が斎藤に追いかけられた直後、麻布の隣に座っていた男が大門の席に行き、炭酸飲料に粉末を入れる様子が映っていた。すぐにその男も現行犯逮捕された。男の名前は小沢祐樹、東武鉄道の経理部の職員、つまりは麻布の部下だった。その後列車は1時間15分遅れで解散場所の草加駅に到着した。
第十一章 始まった取り調べ
その後、麻布の身柄は最初の遺体が発見された現場管轄の浅草警察署に移送された。
「7月22日に伊藤浩一を殺害したのはお前だな。」と外川警部。
「ああ、彼を駅近くのレンタルオフィスに呼び出してそこで殺した。」と麻布。
「動機は?」と外川。
「あいつは株主で、しかも最近のうちのやり方に不満ばかり言うクレーマーだ、先月なんかはSNSにうちの会社の悪口とデマを書き込まれて大変なことになった。」と麻布。
「遺体を運んだのもお前だな。」と外川。
「ああ、俺の部下が運転する車で浅草駅まで運んだ。」と麻布。
「梅原秀樹が巻き込まれた7月31日のゴミ箱事件もお前だな。」と外川。
「そうだ。彼のSNSを調べたら毎月最終土曜日は株主優待券で東武動物公園に行ってることが分かった。だから正門近くのごみ箱に爆弾を設置して待ち伏せた。」と麻布。
「青酸カリと黒色火薬はどこで手に入れた?」と外川警部。
「青酸カリは近くの金属の工場から、黒色火薬は歌舞伎町の路地裏でヤクザから買った。」と麻布。
「ヤクザ?どこのヤクザだ!」と外川警部。
「そこまではわからないが全身タトゥーだらけのかなりイカツい顔した男だった。」と麻布。
「8月4日に安村を殺したのもお前か?」と外川。
「そうだ。アイツは警戒心が高いからボーナスでいいワインが入ったと俺の家に呼び出して風呂場で殺した。」と麻布。
「凶器は?」と外川。
「浅草駅の備品倉庫からブレーキハンドルを盗んでそれで殺した。凶器は遺体を運ぶ途中に通った北十間川の橋から川に投げ捨てた。」と麻布。
「白川を青酸カリで殺したのもお前か。」と外川。
「そうだ、鷲宮駅を通過した時ヤツはトイレに行った。そのスキに彼が飲んでいた缶コーヒーに毒を混ぜた。」と麻布。
「大門の炭酸飲料に毒を混ぜたお前の部下は最初から仲間だったのか?」と外川。
「そうだ。往路の白川の事件でサツの数が増えたからわざと俺が捕まってサツを引き付けて大門は小沢に託した。」麻布。
「彼の取り調べもすぐ始まるが、お前はもう死刑確定だな。」と外川。
「もう覚悟はできてたよ。俺が仕事ばかりで嫁に浮気された挙句嫁が娘を連れて逃げてからは俺一人だ。親父は三年前にガンで亡くなり、おふくろも後を追うように一年後に亡くなった。残されたのは俺一人。早くあの世へ逝って親父とおふくろに会いてぇよ。」麻布は泣いていた。
「自暴自棄になっての犯行ってことか。」外川はため息をついた。
「最初は自殺を考えた。でもそれじゃあ勿体無い。クレーマー株主達を始末して死刑になってやろうと思ったのさ。」麻布はそう言った。
「そうか。今日の取り調べはこれにて終了だ。」と外川。
その後、部下の小沢も大門殺害と遺体を運ぶ手伝いをした罪を認めた。さらに、麻布の供述通り、北十間川の福神橋の下からブレーキハンドルが発見され、ルミノール検査の結果、血液が検出され、安村のDNAとブレーキハンドルの血液のDNAが一致した。
事件から2ヶ月後には裁判が始まり、事件から1年後に判決が下され小沢は懲役7年、麻布は死刑が確定した。
第十二章 麻布の死刑執行の日
麻布の死刑確定から7年がたったある日の午前9時。
「205番麻布、出房だ。」刑務官が言う。
「ついに執行か。」と麻布。
その後教誨室で麻布は教誨師に事の全てを話した。
「父が亡くなりその後を追うように母も亡くなり、嫁と娘に逃げられ全てが嫌になって自暴自棄になって7年前は馬鹿な事をしたと反省している。あの時殺した被害者たちには謝っても謝りきれません。」と麻布。
「大丈夫です。十分反省したものは必ず極楽浄土に行ける。仏はいつも見ていますよ。」と教誨師が言う。
その後、麻布には最後の時間が与えられ、麻布は最期の一服をした。
「ああ、今思えばあの時自殺していれば楽に死ねていたな。」と麻布がぼやいた。
「普通はここで遺書を書くんだろ、でも俺には宛てるような人はもういない。」麻布はため息をついた。
その後前室に通された。
「令和11年9月13日、麻布和也の死刑を執行せよ。法務大臣大和田哲夫。」と所長が死刑執行の命令を伝えた。
「最後に言い残すことは?」と所長。
「人生ってのは漢字二文字では表せないほどのドラマがある。今この時もドラマは続いている。そして僕の人生というドラマはここで終わりだ。来世どこかでまた会おう!」そう麻布は言い残した。
その後アイマスクと手錠がかけられ、ついに執行室の四角い踏板の上に立たされた。
「執行!」その掛け声とともに執行人がボタンを押した。
踏板が外れてから15秒ほど経ったころ、麻布はあの世へと旅立った。
その数日後の城東警察署の屋上にて。
「麻布の死刑がついに執行されたな。人間ってのは自暴自棄になるとどんな犯罪でも出来る事が麻布の事件で証明されたな。」と堀内警部。
「そうだな、麻布の最期の言葉がなんかかっこよかったと今世間で話題になっていますよ。人間の最期ってのは色々なドラマがありますからね。ちなみにおととしの春にガンで亡くなった俺の親父の最期の言葉は「今年の桜も満開だ。この景色の中逝けることになって俺は満足だ。」だったな。」と江田警部。
「そうだったのか。俺の親父、元気かな。今年こそは帰らないとな。」と堀内警部。
「堀ちゃん、まだ帰ってなかったの?もうコロナは終息したのに?」と江田警部。
「ああ。7年前にコロナが流行し、3年前に終息したが、その後色々忙しくてまだ帰れていない。」と堀内警部。その時、後輩の高山警部が走ってきた。
「警部、南砂三丁目のマンションで首を吊った状態の男性の遺体が発見されました。男性が書いた遺書も見つかりましたが何か引っかかる物を感じます。」
「何?自殺か、他殺か。どっちかわからないと。とりあえず現場へ行くぞ。」
堀内警部はそう言うと江田警部と髙山警部を連れて現場へと出動していった。
~最後までお読みいただき誠にありがとうございます。この物語が少しでも良いなとおもったらいいね。とブックマーク。出来ればコメントもよろしくお願いいたします。堀内警部は今後も続きます。またどこかの鉄道会社でお会いできるのを楽しみにしております。~
※この物語は実在する鉄道会社、路線、列車を基に描いたフィクションです。