1.勇者、魔王、国産牛! 最後の選択肢!
後編です。
金髪三つ編み巨乳の勇者と魔王、黒毛の国産牛ちゃんが、楽園という店名のレストランで集結します。
超高級レストラン『楽園』の破壊されたドアがあった場所から、勇者は外の様子を見ました。
まずいわね……。こんなことになるなら、妹の言う通り、無視しないで、あんたなんかに分けてあげるわけないでしょ、べーって、きちんと自分の本当の気持ちを伝えておくべきだったわ……。
「それだと余計怒るでしょ!」
無視を選択したのはあなたですから、あなたのせいです。
「私のせいじゃないよ! お金の要求や追放でも、結果は同じだったと思うっ!」
勇者はメイド服姿の魔王軍が十四人もいることを目にして、震え上がります。さすがにチート持ちの勇者でも、魔王と魔王軍全員を相手にしたら、勝ち目がありません。
あなたは勇者にどう行動をさせますか?
1.無視する。
2.謝罪する。
3.裏口からそっと逃げる。
「3のクズっぷりがすごくて興味あるけど、ここは無視を決め込もう。1でよろしく」
はい。
勇者は外の喧騒を無視する決断をします。席に戻り、残りのステーキを召し上がりました。
「食べてる場合かっ!」
もったいないので、残っていた魔王のステーキもグリーンペッパーをかけて全部食べました。
「どこまでも卑しい勇者だ!」
魔王は拡声器を使い、店内に声を飛ばします。――勇者お姉様! 貴女は完全に包囲されていますわ! 無駄な抵抗はやめて、今すぐ出て来て、謝罪なさい! 今なら、情状酌量の余地がありますわ!
「魔王が情状酌量なんて言葉使うのッ?」
罪を軽くしてくれるのですから、きっと彼女は優しいのでしょう。姉への愛があふれています。
「そうかなぁ……」
勇者は打開策が見つからないまま、高級赤ワインを片手で飲み終えました。
「ピンチなのに優雅だ!」
お食事を終えた勇者はレジに向かい、お金を払おうとした時、気づきます。おかしい! いつもならお金を払ってくれる魔王が横にいたのに!
「えっ? 勇者って、お金の支払いは魔王頼みだったのッ?」
そうだったのです。これは衝撃的な事実! 勇者はいつも、金銭面で妹の魔王に援助してもらっていたのです!
「この勇者マジで終わってる!」
魔王は魔王軍に対し、適材適所の様々な会社を任せていたため、お金をたくさん儲けていました。魔王軍の皆さんはかわいいので、ちょっと人間に優しくするだけで支援金を頂けます。
「投げ銭で大儲けの構造が見え隠れする!」
妹の魔王がいたからこそ、姉の勇者は今までお金の支払いをすることなくやってこれたのです。普段はお財布すら持ち歩いていなかった勇者は、魔王のありがたみを痛感しました。
「そんなことで気づくなって!」
そして、ついに魔王軍が店内に突入します!
テーブルに置かれた自分のお皿まで空になっていたのを見て、魔王は大激怒! 激おこですわよ、勇者お姉様! いくら心優しいわたくしでも、もう許しませんわッ!
「心優しいやつがコショウ分けてもらえない程度で怒るかっ!」
勇者は泣きそうな声で言いわけをします。わっ、私が食べたステーキはっ、大切な仲間、国産牛だったお肉なのよっ! こんな素晴らしいお料理を残すなんて、国産牛にも、コックさんにも、失礼じゃないっ!
「とことんコックさんを言いわけに使うなぁ……」
両手を挙げて早くも降参する勇者。
「勇者らしくない潔さだ!」
何が起きているのかよく分からないものの、場のまずい雰囲気で両手を挙げている人間のお客や従業員、それにコックさん。もちろん全員、若くてかわいい見た目の女性です。
「不自然な新事実発覚!」
一人だけ、紺色スクール水着を着た従業員もいました。
「なんでッ?」
店内に入ったメイド服姿の魔王軍は、ムチや機銃を構えています。
「やっぱり絵面がヤバい!」
魔王軍を率いる、メイド長のような魔王。武器は拳銃と巨乳。
「巨乳は武器じゃないっ! いや、武器なのか?」
押しつけ攻撃は最強です。
というわけで、人間と魔族という、二つの勢力が対峙する中、魔王軍側に立っていた一人が、勇者のほうに歩み寄ります。――それは他でもない、国産牛でした。
勇者様。私のお肉を完食してくれて、ありがとうございます。
「えーっ! 牛さんも食べられちゃったのを肯定してていいのっ?」
真心を込めて感謝した国産牛の優しさが、勇者の腐り切った心を動かします。
「そのぐらいで心を入れ替えるような勇者じゃないと思うんだけど!」
勇者は席を立ち、両手を広げて歓迎します。まあ、国産牛! 生きていたのね!
「すごく白々しい!」
勇者は国産牛を抱き締めて、想いを伝えます。ごめんなさい! 私が全部間違っていたわ! これからはもう、私は勇者の道を踏み外したりはしない! だからっ、仲直りをしましょう!
「今さらそんなこと言ってももう遅い!」
あなたから『もう遅い』のお言葉、頂きましたーっ! よっしゃあ!
「唐突なよっしゃあにびっくり!」
失礼いたしました。
魔王も二人に近づいて、自分の気持ちを伝えます。――わたくし、貴女がたの友情に感動いたしましたわ! これまでの失礼な振る舞いは全部水に流しますから、わたくしも貴女がたの抱擁に加えて下さいませんか?
勇者は微笑みます。もちろんよ、魔王! 貴女は私の最高の妹だわ!
「なんか急に持ち上げ始めた!」
国産牛も微笑みながら、二人に言います。皆さん仲良しなのが、一番です。
「この子だけ圧倒的に良い子だねっ!」
勇者冒険者パーティーが再び固い絆で結ばれて、三人で抱き合います。それを見たお店の女性達、それに魔王軍の皆さんが涙を流し、盛大な拍手を送ります。
「なんだこのおかしな状況は!」
こうして、冒険者パーティー以外の方々は解散をします。
魔王軍は魔王城に帰り、お客はそれぞれの自宅に帰り、コックさんや従業員さんは気を利かせて、全員、お店の外へ出ました。スク水従業員だけは、出る前に丈の長いコートを羽織りました。
「露出対策も万全だった!」
店内は勇者、魔王、国産牛の三人だけになります。お互いの友情と愛情を確かめ合うように、三人は潤んだ瞳で見つめ合いました。
「そこだけは良い場面だよね。本当にそこだけは」
勇者は魔王に謝ります。ごめんね。貴女にグリーンペッパー、分けてあげれば良かったわね……。
今からでも構わないので、頂けますか? と、魔王はお尋ねします。
もちろんよ、魔王。そう言って、勇者はアイテムボックスからグリーンペッパーの入った小瓶を取り出しました。
魔王は小瓶を受け取り、勇者に問います。ねえ、勇者お姉様。貴女はもう、反省していますわよね?
もちろんよ、魔王。だから、これからも支払いは全部、お願いね。
「さり気なく図々しいやつだな!」
反省しているのなら、態度で示してもらいたいですわ。今すぐスカートを持ち上げて下さいませ、勇者お姉様。
「え?」
穿いているドロワーズの中にコショウを入れられても、文句は一切おっしゃいませんわよね?
「えっ?」
え、えぇ……。先ほど、勇者の道を踏み外したりはしないと宣言したばかりので、勇者は拒否しませんでした。メイド服のスカートを、両手でつまみ上げます。
「嘘でしょ、魔王に従っちゃうのっ?」
白いドロワーズの下には、別の下着を穿いていません。
頬を赤くした勇者は魔王から目を背け、ドロワーズを見せたままの格好で止まりました。その様子はすごくいじらしいです。
「性格変わってないか勇者!」
魔王のほうは勇者の穿くドロワーズのウエストを左手で引っ張って、右手で持つグリーンペッパーの小瓶を逆さまにします。
いやぁんっ! 塩漬けされた冷たい粒々を入れられた勇者は、よりお顔を赤くしました。
「何この展開っ!」
ざまぁ、ですわ! 魔王はいたずらっぽい笑みを浮かべ、内側に入り込んだ粒々をドロワーズ越しに押しつけて勇者を困らせるのでした。めでたし、めでたし。
「めでたくない終わりかただった! 最後のざまぁは要らなかったと思うんだけどっ!」
ですが、『ざまあ』がなされるまでが、愛すべき『追放もの』の、しきたりです。
「ルールに厳しい!」
ざまあ、および、ざまぁ。
それはいわゆる、ざまあみろという俗語の略称で、不幸へと転落した相手を罵倒して優越感に浸ることが可能な、魔法の言葉でございます。
「間違ってはいないだろうけど、褒められるものでもないよね」
最後に、勇者のドロワーズの中に入れられたグリーンペッパーは、手を入れて取り出した魔王が美味しく頂きましたわ。衛生上良くありませんので、あなたは真似をしないで下さいね。
「真似するわけないじゃん!」
ということで、今回の物語は終了です。
誤った道を進んでしまった勇者と魔王が己の愚かさに気づき、国産牛のように清らかな心を取り戻す過程を描いたお話でした。
「そんな美しい話じゃなかったでしょっ!」
はい。
(終わり)
今回でサキュリバーズ・エクストラは終了となります。ひたすら続く会話劇を、最後まで楽しんで頂けたでしょうか?
この作品は、人気低迷中の本編、サキュリバーズのPVを増やすため、頑張って一週間で仕上げた短編です。あらすじと実際の内容の隔たりが激しい! そう思った新規の方は、ぜひ本編のサキュリバーズも読んで下さい。よろしくお願いします。
今回も最後まで読んで下さり、ありがとうございました。