1.勇者、魔王、国産牛! 一度目の選択肢
今回は前編です。
本編サキュリバーズの牢屋内での会話みたいなのを、単体で書いてみました。
いわゆる『追放もの』のパロディとなります。
あなたは勇者冒険者パーティーのメンバーのうち、一人だけ追放しなければなりません。
「今回の話は追放ものなの?」
あなたが聞いてきました。
ですから、お答えしましょう。
追放ものというと、主人公がパーティーやギルドや会社などから追放を言い渡されて、クビになるという描写が序盤でおこなわれる作品のことです。
「会社は違うと思う」
今回は、あなたが追放者を選ぶので逆の展開となります。ですが、追放をするので、追放ものではありますよね。
では、しっかりとお考えになられて、ご選択を。
夕焼けの草原で、三者が並んでいます。
あなたは誰を追放しますか?
1.リーダーの勇者。
2.魔王。
3.国産牛。
「いやちょっと待って!」
どうしましたか?
「なんで魔王が含まれてんの! 勇者が倒すべき相手でしょ! あと国産牛って何ッ?」
勇者パーティーのメンバーに魔王がいてはならない、なんて法律はありません。冒険者ギルド要綱にも書いていないはずです。
「その理屈だと書いてなければ何してもいいってことじゃん!」
窃盗や強盗、殺戮は法律で禁止されています。
「魔物を狩ってるんじゃないの冒険者は!」
魔物は法律で守られていません。法律で禁止されておらず、法律にないものは許されると思われます。
「思われますって曖昧過ぎる!」
それに殺戮ではなく、追放です。
「魔王は追放じゃなくて倒す目的にするべきでしょーよ!」
ですが、勇者パーティーに魔王がいてもおかしくない、あなたも納得出来る明白な理由があります。
「……何?」
勇者と魔王は一卵性双生児、つまり、双子です。
「それなら納得は出来る気もするんだけど、やっぱり不自然さがすごい!」
それで、あなたが気になっていた3番の国産牛さんは、国内で誕生した牛の魔物さんで、頭に角が生えた、牛人さんの亜種でもあります。
国産牛さんの見た目は、かわいいロリ美少女。追放したら、困ったお顔でモーモーと鳴きます。かわいそうです。
「それじゃあ追放出来ないっ!」
なお、姉の勇者は、長い金髪を二本の三つ編みにした美少女です。
妹のほうが魔王で、長いベージュの角が生えています。そして、長い金髪を二本の三つ編みにした美少女です。
「髪の色と髪型がかぶっちゃってる!」
双子ですが、髪型が左右対称になっているわけでもありません。
「アニメとかの双子あるあるを排した!」
国産牛は長い黒毛です。
「せめて黒髪って言ってあげて!」
さらに詳細を語ると、高圧的な勇者と、高飛車なお嬢様のような魔王は、おそろいの黒いメイド服を着ています。胸部も大きめです。勇者は青い瞳で、魔王は赤い瞳です。
どちらも容姿と戦闘力こそ優れていますが、性格が優れていません。弱者に対しては態度が大きいですが、強者に対しては背後から不意打ちすることをまず最優先にします。
「さっそくだけど、勇者と魔王に感情移入出来ない……」
国産牛は、アーモンドグリーンのノースリーブ・ワンピース姿です。胸部はひかえめ。性格は穏やかで優しく、頭に牛さんのかわいいお耳と小さな角がついています。
「その子だけ場違いな気がするけど、なんで同じパーティーにいるの?」
魔王の従者という設定のためです。細かいことは気にしないで下さい。
「言い出したら、キリがなさそうだ……」
では、1番から3番まで、お好きなキャラクターをあなたは追放して下さい。
「えっ? 気に入らないキャラを追放するんじゃないの?」
好きなキャラと嫌いなキャラ、どっちを選んでも……いいんだからね! 早く選べ、です!
「嫌な言いかただなぁ……。じゃあ、あえて、一番かわいい牛の魔物さんを追放で。お話的には、一番いい子を選んだほうが楽しくなるでしょ」
読者目線のあなたのご選択は素敵ですね。了解しました。
なう、ろーでぃんぐ。
なう、ろーでぃんぐ。
「読み込み挟む理由ないでしょ」
はい。
あなたは、神様です。そのあなたの判断により、3番の国産牛が勇者冒険者パーティーから追放されることになりました。
「ごめん、牛の魔物さん」
勇者は言います。国産牛、あんたはクビよっ!
魔王は続けて言います。貴女は魔法も使えないし、戦力的にも大きく劣っていて、目立った貢献もしていませんわ! たかが牛の分際で、わたくしのような魔王や勇者お姉様と釣り合うと思って? わたくし達のパーティーではなく、牧場で酷使されるのがお似合いですわね!
「魔王は直球でヒドいこと言うね!」
国産牛は追放され、泣きます。もぉ~、もぉー、いやぁああああああっ! ももももももももっ! もーっ! どっかーん!
「なんでどっかーんが入ったッ?」
追放されたのに、その場に留まって泣き続けるのはおかしいですよね?
「おかしいかなぁ?」
そのため、勇者と魔王が共謀し、最強の炎魔法『火の鳥』を同時に放ち、国産牛を爆死させたのです。
「そんな理由でッ? 追放されたから泣いて逃げていったとかでいいじゃん!」
国産牛に逃げられてしまうと、追放を法律に準じた二週間後ではなく即座にしたことを誰かに相談され、今度は勇者パーティーが法律違反で警察に逮捕される可能性が生じます。
「警察って、この話ファンタジーじゃないの?」
ファンタジー世界に警察がないと考えるのは、あなたの思い込みに過ぎません。
それに、追放した直後に問題の芽を摘んでおくのが、賢いパーティーです。
「そうだとしたら、追放じゃなくてさ、その場で処刑でいいんじゃない?」
あなたも残酷なことをおっしゃいますよね。処刑では追放ものになりません。
「それだけの理由で爆死はひどい!」
炎魔法を食らって爆死した国産牛は、不思議かつ不自然なことに、十五センチほどの立方体のステーキ肉になりました。
「追放というか丸焼きだった!」
あなたは元仲間を燃やして食べたりするのはやめましょう。
「しないよっ! というか、この話が急に不気味過ぎるものになってきたぞ……」
夕焼け空の草原上に置かれた、国産牛の塊。
そんなお肉を見て、勇者と魔王は声をそろえてこう言います。
素敵なステーキ!
「それ言いたかっただけでしょーッ!」
はい。
「牛さん選ばなきゃ良かった!」
食物連鎖は、ある意味、残酷でもあるのです。あなたも、牛肉を食べる時には、ありがたく食べることを推奨いたします。
「なんかすごく嫌な方向に話を進められてるなー。もし他の選択肢を選んだら、牛さんは犠牲にならずに済んだの?」
1番の勇者を追放したら、魔王と国産牛は二人きりになって、仲良く乱れるルートに突入します。
「魔王も声をそろえて、お肉を素敵って言ってなかったっけ?」
はい。ですから、イチャイチャを楽しんだ後、食欲に負けて、魔王が国産牛を食べちゃいます。
「イチャイチャしてた相手を食べられるのかなぁ?」
2番の魔王を追放した場合、残るのは人間と牛。3番と似た展開になります。やはり人間の勇者は、高級なお肉を食べたくなるものです。
「魔王と勇者は双子って設定なら、勇者も人間じゃなくて魔族じゃないの?」
勇者が人間の血筋を、魔王が魔族の血筋をそれぞれ受け継いだので、勇者は人間です。
「あ、そう……」
人間はお肉が大好きで、結局、国産牛は勇者のおなかを満たすことになります。
「どう転んでも食べられちゃうって、よく今まで同じパーティーで冒険出来たね……」
国産牛は冒険者パーティーに加入してまだ一日目という設定です。
「一日で追放って判断早くない?」
追放ものにまともな判断など無意味です。
「言い得てるような気もしちゃうのが、なんとも切ない」
ちなみに、勇者と魔王は、牛肉を食べても問題ない方達です。昨晩に三人で開いた国産牛のパーティー加入の歓迎会でも、お酒を飲みながら牛肉を食べていました。
「その歓迎会ってほぼ嫌がらせじゃん! 牛さんの未来を示しちゃってるよ!」
勇者と魔王は二十歳過ぎの美少女ですので、飲酒は可能です。
「そこはどうでもいい!」
昨晩、ひどく酔っていた二人は、おとなしくオレンジジュースを飲んでいた国産牛に左右から絡んで困らせていました。
「自分の歓迎会で酔っ払いの相手をさせられる牛さん、マジで不憫だ」
勇者は自らの三つ編みを振りながら言っていました。ほらぁ~、牛の尻尾だぞーっ! ぶるん、ぶるーん!
「やだこの酔っ払い!」
魔王は自分のベージュの角を両手で持ちながら言っていました。わたくしも牛ですわーっ! こけぇ、こっこっこっこ、ここここ、こけぇ~っ!
「ニワトリじゃん! 地味に上手い!」
加入してからずっとこのような調子で虐げられていた国産牛を追放するなんて、あなたも罪な人間です。
「ああ、うん。選択肢を間違えたなぁ……」
それでも国産牛の追放のまま、物語は進めて行きます。
いかがだったでしょうか?
もし本編サキュリバーズが未読で面白いと思った方は、ぜひ本編のほうもお読み下さい。よろしくお願いします。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
中編もお楽しみに。