また俺何かやっちゃいました?
若者「勇者様!お願いします!僕を弟子にしてください!」
元勇者「悪いがワシは弟子は取らんのじゃ。他を当たってくれ」
若者「……僕の両親は地元で細やかな小料理屋を営んでいました」
元勇者「情に訴えかける方向に舵切るの早すぎ」
若者「小さいながらも地元の皆さんに愛されたお店で僕はそんな両親を誇りに思っていました………しかしあの日……魔王がこの世界にやってきて……」
元勇者「まさか……」
若者「それ以来原材料費が高騰して両親の小料理屋は経営が苦しくなってしまったんです!」
元勇者「お、おぉ……」
若者「だから僕は1日でも早く勇者となり魔王を倒して両親の店の借金を返済してやりたいんです!金利が膨らむ一方なんです!」
元勇者「思ったより重くてリアルな理由」
若者「だからお願いします!僕を勇者にしてください!」
元勇者「…………仕方がない、ワシもかつて魔王と戦って敗れた勇者としての責任がある」
若者「師匠……!」
師匠「呼び名変わるのも早いな」
若者「ありがとうございます!俺、頑張ります!来週からよろしくお願いします!」
師匠「おいバイトの面接か」
若者「えっ」
師匠「1日でも早く勇者になるんだじゃろうお前。今からやるぞ」
若者「本当ですか!ありがとうございます!」
師匠「ただし!」
若者「はい!」
師匠「ワシが本気で育てるのはお前に勇者としての才能があった時だけじゃ。もし才能がなければその時は諦めるんじゃな」
若者「わかりました!」
師匠「では、まず物を動かす基礎魔法からじゃ。ワシのやり方をよく見ておれ………グウウウウッハァッ!!!!」コロコロ
若者「す、凄い!小石がコロコロ転がってる!」
師匠「ハァ……ハァ……よし、ワシの真似をしてやってみろ。あの小石を動かすのじゃ」
若者「わかりましたのじゃ」
師匠「口調は真似せんでいい」
若者「ええと……こんな感じかな?ハァッ!!」ドーン!パラパラ……
師匠「どえええええ!?」ヘナヘナ
若者「…………俺、何かやっちゃいました?」
師匠「……い、いま……あっちの山が動いたよね?」
若者「はい」
師匠「石じゃなくて山を動かすなんてお前…………才能無さすぎじゃない………?」
若者「ですよね……」
師匠「いや、マジで。びっくりして腰抜かしちゃったもんワシ。そのちっちゃい石動かすのなんてぶっちゃけ勇者体験コーナーとかで幼稚園児にやらせてもできるのにお前。山ってお前。馬鹿じゃない……?引くわ……」
若者「す、すみません!師匠!」
師匠「石動かす程度の魔法の才能がない奴ってもうダメだよ。そんな子に勇者は無理よ」
若者「そんな!他になんかないんですか!?他の魔法ならできる気がするんです!」
師匠「うーん……あっ、じゃあ召喚魔法やってみる?精霊の召喚とか」
若者「いいっすね!やります!」
師匠「では見ておれ……水の精霊よ……我に力を預けたまえ…!ふおおおおおお!」ポン
水の精霊「コンチワ」
若者「すごい!何かちっちゃいのが飛び出てきた!」
師匠「これが水の精霊じゃ。ほれお前もやってみろ」
若者「はい!ええと……水の精霊よ我に力預けた……ええとなんだったっけ」
師匠「なんでそこまでいって残り2文字忘れるねん」
若者「わかんないけどとりあえずハァ!」
ポセイドン「ポセイドーーン!!!」
師匠「ひゃあああああ」ヘロヘロ
ポセイドン「ドンドンドドン!ポセイドーン!」
師匠「お前バカ、なんてもん召喚しとるんじゃ!」
若者「あわわわわどうしましょ」
ポセイドン「この私の眠りを妨げたのはどっちドンか?」
師匠「コ、コイツです」
若者「ちょっ、師匠!」
師匠「だって呼んだのお前だもん。ワシ知らないもん。お前のせいだもん」
若者「そんなあ……!」
ポセイドン「ほう……お前がこの私を呼んだポセか………」
師匠「そうです!コイツですコイツです!ワシ関係ないです!」
若者「師匠いつの間にそんなところに隠れてんすか!」
師匠「だってこんな怖い人初めて見たもん!絶対魔王より怖いよこの人!」
若者「ああああああのポセイドンさん。これは僕のミスでその……」
ポセイドン「マスター。このポセイドン、生涯貴方に忠誠を誓いますんドン」
若者「えっ」
ポセイドン「どうぞ、お望みをこの私になんなりとお申し付けください。Let'sポセイ」
若者「どうしたらいいっすかこれ」ヒソヒソ
師匠「わかんないけど!とりあえず帰ってもらって!怖いから!ほら、お前が言ってお前が!」ヒソヒソ
若者「あーその……とりあえず今日のところは帰ってもらっていいですか」
ポセイドン「かしこまりました。またいつでもお呼びくださいドン」シュッ
師匠「………か、帰った?」
若者「……みたいです」
師匠「ふぅ……………お前さあ」
若者「はい……」
師匠「何今の?ポセイドン?ワシ初めて見たよ。ほんとにいるんだねあんなの。びっくりだよ。ワシいつそんなの呼べって言った?水の精霊も呼べないの?どんだけ才能ないのお前」
若者「すみません!」
師匠「もうお前ダメだわ。魔法の才能ゼロだわ。やめるか?弟子」
若者「そんな!お願いします!なんとしてでも勇者になりたいんです!」
師匠「でもお前ガチで魔法の才能ないじゃん」
若者「やっぱり、魔法使えないと魔王討伐は難しいでしょうか……」
師匠「まあ……戦士とかで使わない人もいるけど」
若者「戦士……!それです師匠!僕、肉体派勇者になります!」
師匠「何それ気持ち悪い」
若者「お願いします!」
師匠「では、ワシと戦ってみろ。もしこのワシに傷を一つでもつけることができたならお前の勇者としての才能を認めてやろう」
若者「でも師匠(78)!そんなの危ないですよ!もし師匠(78)に何かあったら……」
師匠(78)「ふん……なんかやたら年齢強調されてるけど、歳を取ったとはいえワシはかつて魔王討伐に最も近いと言われた勇者じゃぞ?お前の攻撃なぞ当たるわけなかろう」
若者「それじゃあ遠慮なくいかせてもらいます!師匠!」
師匠(78)「よしこい!」
若者「うおおおおおおおおお!」
師匠(78)「ぎやああああああああ!」プシュー
…………。
若者「…………師匠……あの、俺………」
師匠(享年78)(お前さぁ………)
若者「すみません…………」
師匠(享年78)(なに瞬殺してんの?馬鹿じゃない?見た?ワシの頸動脈から吹き出す鮮やかな血飛沫。本当になるんだねあんな映画みたいな。ドン引きだわマジで)
若者「どうしましょうこれ……師匠、生き返れそうですか?」
師匠(享年78)(いやもう無理でしょ。ワシもうあの世にいるもん。あの世からお前の心に問いかけてんもん。もう無理よ。あーあ、やってくれたね。午後から銀行に支払いとか市役所とか行かなきゃだったのに。どうすんのこれ)
若者「俺、蘇生魔法やってみます!」
師匠(享年78)(無理だって。お前魔法の才能ないんだから)
若者「ハァ!!」キラキラキラーン
師匠「…………なんか生き返った」
若者「師匠!よかった!」
師匠「………生き返ったけど、何これ、ワシの身体どうなってんのこれ」
若者「あぁ!師匠がものすごいマッチョに!」
師匠「お前さぁ、こんなの蘇生魔法って言わないよ。78歳の老人を逆三角形の肉体にしてどうすんの?」
若者「すみません!」
師匠「もうこれ、Tシャツとか着れないじゃんこれ。ピチピチになっちゃうじゃん。肉体派老人にされちったよワシ」
若者「うぅ……やっぱり俺には才能がないんすかね……」
師匠「才能というかお前は勇者の器じゃないんじゃ。勇者になって魔王討伐なんてそんなこの世界の主人公みたいな真似はお前には……」
若者「嫌だ……」
師匠「ん?」
若者「俺は……俺はどうしても勇者になりたいんだああああああ♪」
ズンズンズンズン♪
師匠「な、なんじゃこの音楽は!」
若者「俺には才能がなーい♪経験もなーい♪」
おっさん「ないな!」
おばさん「ないわ!」
犬「わんわん!」
若者「だけど!」
一同「勇気がーーあーーーるーーーー♪」
トビウオ「バタバタ」
イルカ「ザパーン」
大量の鳩「バサーバサー」
虹「バーン」
若者「だから俺はどんなことがあってもーーーー♪」
おっさん「魔王を!」
若者「倒して!」
おばさん「みんなを!」
若者「救って!」
一同「みせるんだーーーーーーーー♪」
犬「わんわん!」
師匠「お前……今の歌……」
若者「なんか、つい想いが溢れてしまって……」
師匠「すっごい近所迷惑なんだけど」
若者「すみません!」
師匠「やめてよ急に人ん家の前でそういうことすんの。夏フェスくらい音デカかったんですけどなに今の」
若者「いや、僕もわざとじゃなくて何故か急にその……」
師匠「あとさっきのあれ、おっさんとか出てきてたけどなにあれ、フラッシュモブっていうの?ああいうのもやめてホント。ワシああいう系ダメなんだわマジで。周りの人にすごい迷惑だなあとか考えちゃうタイプだし、引いちゃう。ああいう系のプロポーズしてる動画とかに低評価連打しまくるタイプだからワシ」
若者「ごめんなさい!でも本当にわざとじゃなくて!俺、昔からなんか想いが溢れすぎると何故か勝手に周りに人とか動物とかが現れて……!」
師匠「はいもういいです。修行は終わりです。才能ないだけじゃなくて人様に迷惑かけるような子には付き合ってられませんワシ。帰ります」
若者「そんな!行かないでください師匠!」
師匠「だめ、帰る」
若者「嫌だ……!」ズンズンズンズン♪
師匠「おいちょっと待て。やめろ。歌うな。止まれ。おい!わかったわかった!わかったから止まれ!………そこのおっさんも帰れ!」
若者「じゃあ修行してしてくれるんですか!」
師匠「あぁ……これ以上騒がれたら敵わんからな。だがこれで最後じゃ。本当にガチマジファイナルラストチャンスじゃぞ」
若者「ありがとうございます!」
師匠「いいか……今から教えるのは人を殺める魔法………殺人魔法じゃ」
若者「殺……人………?」ゴクッ
師匠「そうじゃ。しかしこの魔法は危険すぎるが故に使用を禁止されておる。ワシとて実戦では使ったことはない悪魔の魔法じゃ……」
若者「そんな魔法を僕に……」
師匠「約束してくれ。これはまともな魔法も戦闘もできないお前に残された最後のチャンスじゃ。これができなければお前はキッパリと勇者の道を諦めて田舎に帰るんじゃ」
若者「……わかりました」
師匠「よし……あのハエをよく見ておれ」
若者「はい……」
師匠「ハァあああああああああああああ!!!!!」プチっ
若者「すごい!!!5メートル先を飛んでるハエが死んだ!!」
師匠「ゼェ……ゼェ……これがどんな相手でも確実に息の根を止める殺人魔法じゃ……当然、使用者もかなりの体力を削られるがのう……」
若者「師匠……!こんなすごい魔法を教えていただきありがとうございます!」
師匠「ふん……約束を忘れるでないぞ……この魔法が使えなければお前は……」
若者「わかってます!諦めて田舎に帰ります!」
師匠「よしやってみろ!」
若者「はい!」
師匠「おい!ちょっ!あっち向いてやれ!お前何回ワシ殺す気じゃ!」
若者「あぁすみません!じゃあ、あのハエを目掛けて………ハァ!!」
師匠「…………」
若者「…………」
師匠「何も起こらんようじゃな」
若者「そんな……」
師匠「じゃあ、約束通りお前は田舎に帰るんじゃな」
若者「………嫌だ」
師匠「もう歌うなよ」
若者「クッ…………」
師匠「さて、ワシも早く帰らんと『そこまで言って委員会』がはじま…………ウッ!」バタッ
若者「師匠!?師匠どうしたんですか!大丈夫ですか!」ユサユサ
師匠「………あぁ……ワシは……ワシは………」
若者「師匠!師匠ーーー!!!」
師匠「腹が減った……」グー
若者「えっ」
師匠「久しぶりに魔法を使いすぎたからな。体力使いすぎてカロリー不足でもう動けん………お前、すまんがワシの家まで運んでくれんか?棚にカップ麺備蓄してるから……」
若者「あの……師匠」
師匠「なんじゃ」
若者「よかったら僕、ご飯作りましょうか?」
…………。
若者「できました……」
師匠「うむ…………いただきます」モグモグ
若者「……いかがでしょうか」
師匠「…………お前さぁ」
若者「…………また俺、なんかやっちゃいました?」
師匠「料理めちゃくちゃ上手いじゃん!何これ!すげえ!」バクバクバクバク
若者「ハァ〜よかったあ……」
師匠「ハフハフ!いやマジうめえじゃんこれ!……お前さあ!もう勇者の道とか諦めて料理人になっちゃえよ!」
若者「えぇ!?そっすか?」
師匠「そうだよ!絶対こっちの方か才能あるってお前!てか田舎に帰ってご両親の小料理屋継げばいいじゃん!お前が作れば絶対客増えるよこれ!黒字化いけるって!魔王とかどうでもいいじゃん!どうせほっとけば主人公的な奴がいずれ殺すってあんなの!」
若者「マジっすか!?考えたこともなかったっす!」
師匠「なんでだよ!まず第一選択肢だろこれ!てかお前も食えよ!一緒に食ったほうがうめえじゃん!」
若者「じゃあ失礼して……いただきまーす」
師匠「美味い!」
若者「美味い!」
おっさん「美味いな!」
おばさん「美味いわ!」
犬「わんわん!」
一同「うーーーまーーーーーいーーーーーー♪」
……………………。
………………。
…………。
……。
…。
魔王「ふんふふーん♪……おっ、そろそろお昼か。ええと、リモコンリモコ……ウッ」
部下「魔王様ー。そろそろ『そこまで言って委員会』がはじま………魔王様!?」
魔王「…………」
部下「魔王様!魔王様ー!!」ユサユサ
魔王「…………」
部下「し……死んでる……」




