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メリークリスマス

 プルルルルル!


男「もしもし」


メリー「私、メリーさん」


男「えっ」


メリー「今からそっちに向かうの」


男「……マジか」


メリー「マジなの」


男「お前今何時か分かってんのか」


メリー「五時なの」


男「お前の今日のシフトは」


メリー「三時入りなの」


男「何やってんのお前」


メリー「誠に申し訳ないの」


男「とりあえずダッシュで来い」


メリー「今家出るとこなの」


男「ってことはあと三十分で着くな」


メリー「嘘なの。今起きたとこなの」


男「なんですぐバレる嘘つくんだお前」


メリー「ごめんなさいなの」


男「今月これで何回目の遅刻だよ」


メリー「2……3回目なの」


男「5回だよ。すぐに小さい嘘を重ねるな。そういうとこだぞほんとお前」


メリー「少しでも心証をよくしたかったの」


男「二時間遅刻してる時点でもうどうにもなんねえよ」


メリー「今から出てもちょうどいい電車がないの」


男「じゃあタクシーでこいよ」


メリー「タクシー代は交通費として請求できるの」


男「できねえよ。自腹でこい」


メリー「パワハラなの」


男「お前が寝坊したのが悪いんだろうが」


メリー「でも聞いてほしいの。これは仕方のないことなの」


男「聞いてる時間ないんだよ」


メリー「お歳暮でもらった日本酒が存外美味くてついつい深酒してしまったの」


男「自業自得じゃねえか」


メリー「燗をつけるとうめえの」


男「お前だんだんおっさんにしか聞こえなくなってきたわ」


メリー「冬に炬燵でクイっとやる熱燗はうめえのう」


男「もう完全におっさんじゃねえか」


メリー「私、メリーさん。なんだか頭が痛いからバイト休むことにしたの」


男「二日酔いは体調不良として認めねえよ」


メリー「ブラックなの」


男「でも本当早くきたほうがいいぞ。今日、店長遅番で出勤だぞ」


メリー「お前バカそういうことはマジで早く言えなの。ふざけんななの。お前ウスノロクソ野郎なの」


男「口悪いんだよお前」


メリー「ああああああヤダヤダヤダ店長怖い店長怖い店長怖いなのなのなの」


男「落ち着け、語尾が追いついてないぞ」


メリー「やばいのやばいの……これはマジで……あぁもう………………」ガサッ、カチャッ


男「……?」


メリー「………スゥーっ……フゥ……………ん、ちょっと落ち着いたなの」


男「てめえこの状況でタバコ吸ってんじゃねえよ」


メリー「なんかタルくなってきたの。もうバイトバックれてえの。店長うぜえしの」


男「またおっさんになってきてるぞ」


メリー「寝起きの迎えヤニはたまんねえの」


男「そんな言葉ねえよ」


メリー「どうせメリーさんなんていてもいなくてもホールは回るの。世間とはそういうもんなの」


男「いや、回らねえんだよ。今日が一年で一番忙しい日なんだぞ。キッチンもホールもてんてこまいなんだよ。お前いねえと困るんだよ」


メリー「メリーさん、必要なの?」


男「そうだよ。はよこい」


メリー「そういうの嬉しいの。メリーさん自己肯定感低いから他者から承認されると舞い上がっちゃうの」


男「お前赤裸々だな」


メリー「欲求不満を拗らせて怨霊になってるの」


男「承認欲求で現世に囚われるとか悲しすぎるだろ」


メリー「霊なんて得てしてみんなそんなもんなの」


男「なんでもいいから早くこい」


メリー「チャリすっ飛ばしていくの」プツッ


 ツーツーツー……


男「あいつ……チャリ持ってんのかよ」



 プルルルルル!


男「もしもし」


メリー「私、メリーさん。今、諦めの境地にいるの」


男「おいバカどうした何やってんだよ」


メリー「途中でチェーンが外れてどうしようもないの。自力で直そうとしたからお手手真っ黒なの」


男「お前不器用だもんな」


メリー「なんかもうどうでもよくなってきたの。少々やってらんないの。なんでこんな日にメリーさん一人こんなボロボロになんなきゃいけないの。寒いし。全て世の中が悪いの。メリーさん悪くないの」


男「おい……お前本当にそれでいいのか?前のバイトもそうやってバックれて辞めたんだろ?また仕事失うぞ?お前借金あるんだろ」


メリー「あーあーあーあーなの」


男「現実逃避するな!返済額から目を背けるな!お前このままだと人生やばいぞ!」


メリー「まだ枠が残ってるカードが2社あるの!」


男「キャッシング枠は預金残高じゃねえんだよ!!」


メリー「ウッ……なの……」


男「なあメリー。今ならまだ間に合う。ここで逃げたらお前は一生嫌なことから逃げ続けることになるぞ」


メリー「……そうなの?」


男「本当のお前はそうじゃないだろ?むしろ相手を追い詰めて、逃がさない、そんな怨霊じゃないのか?」


メリー「そうなの」


男「これはチャンスなんだよ!お前はきっと変われる!今の酒と借金に溺れて自暴自棄になってしまったお前じゃなくて本来のお前の姿を取り戻せよ!お前はやればできる子だ!」


メリー「メリーさん……できる子なの?」


男「そうだ!お前はすごい!本当のお前はこんなもんじゃない!まだ本気出してないだけ!そうだろ!」


メリー「……そうなの!メリーさんは頑張れるの!なんだか自己肯定感上がってきたの!チャリンコ捨ててダッシュでバイト行くの!!」


男「おう!待ってるぞ!」


 プツ。ツーツーツー。


男「なんか……適当なこと言ってみただけなのにあいつ急にやる気になったな……単純な奴だな……」



 プルルルルル!


男「もしもし」


メリー「私、メリーさん」


男「おいコラお前今どこだ」


メリー「メリーさんはあなたの心の中にいるの」ジャラジャラ


男「なに完全に諦めてんだよ!さっきまでのやる気はどうしたんだお前!」


メリー「……ええと、あの、ほら、あれ、おばあちゃんが亡くなったの」ジャラジャラ。トゥイントゥイン。


男「嘘つくなよ。お前自体がそもそも死んでんだろうが」


メリー「い……や……嘘……じゃ……なの」ジャラジャラジャラジャラ。リーチ!


男「おい!なんかそっち騒がしいぞ!お前どこにいるんだよ!」


メリー「新台入れ替えなの」


男「はぁ!?」


メリー「聖夜のイベントデーなの。激アツなの。仕方なかったなの」


男「おい!待て!」


メリー「ほなの」プツッ


 ツーツーツー……………。


男「クソッ切りやがった…………はぁ……はい、そうっすね。あいつ多分……いつものパチンコ屋っすね……」


 

 プルルルルル!


メリー「なんなの」


男「おい、メリー。お前に最後のチャンスをやる」


メリー「今確変中だからそういうのは後にしてほしいの」


男「お前は本当にこのままバイトをバックれるんだな?ギャンブルでこさえた借金が400万超えてて、利子を払うためにまた別の消費者金融から借金を繰り返してるお前が」


メリー「……メリーさん、今1時間で3万勝ってるの。きっと才能があるの。このままパチプロになるの。パチンコで借金返してパチプロライターになって地元の奴らを見返すの。メリーさんには時給3万円の価値があるの。あんなクソ店長の元で1000円足らずの時給でこき使われる人生なんてもうクソ喰らえなの。店長にクソ喰らわせてやるなの」


男「…………お前の気持ちはよくわかった」


メリー「お前に先月借りた五万もそのうち返してやるなの」


男「なあメリー…………店長、今お前の後ろにいるよ」


メリー「……………………へ?」


店長「よう」


メリー「い、い、いやああああああああ出たあああああああ!!化け物なのおおおおおお!」


男「化け物はお前だろうが」


メリー「ごめんなさいなのおおおおお嘘です嘘です嘘ですなのなのなのなの」


店長「ガミガミガミガミ」


男「うわあ電話越しでも聞こえるくらい怒られてる」


メリー「痛い痛い痛いなのぉおおおお」


店長「ボコボコボコボコ」


男「霊なのに多分物理的にボコボコにされとる」


メリー「ちょちょちょ助けて!助けてなの!お前!メリーさんを助けてなの!黙ってないでなんとか言えなの!」


男「メリー…………クリスマス」プツッ


メリー「いやああああああなのおおおおおおお」



 ツーツーツー………………。


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― 新着の感想 ―
やばい。 メリーさんかわいい。 大好き。
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