白雪姫
昔々あるところに、とても美しい女王がおりました。
ある日、世界の理の全てを知っていると言われる魔法の鏡を手に入れた女王は、鏡に向かってこんな質問をしました。
女王「鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのはだあれ?」
白雪姫「…………」
鏡「はい。歴史上最も美しかったのは楊貴妃、クレオパトラとされています。そこに小野小町を加え、世界三大美女と呼ばれることもあります」
女王「フフフ……じゃあ次よ!えーと………じゃあねー……世界で一番高い山はどこ?」
鏡「はい。火星に現存するオリンポス山です」
女王「まぁ!エベレストじゃないのね!!鏡さんはとっても物知りさんなのね!!ありがとう鏡さん!!」
鏡「お役に立てて何よりです」
女王「ねっ!?すごいでしょう!ほらユキちゃんも何か質問してみて!ほらほら!!」
白雪姫「……いやぁ……私はいいかな……うん」
女王「あらそうなの?遠慮しなくていいのに……。まあいいわお茶にしましょう」
白雪姫「いただきます」
女王「どう?おいしい?」
白雪姫「うん。美味しいわ。ありがとう姉さん」
女王「ふふふ。よかったわ。今日はユキちゃんが来るから張り切って東洋から一番いい茶葉を仕入れたんだもの」
白雪姫「あの、姉さん………」
女王「あっ、ちょっと待って!せっかく素敵な時間なのに静かなのも寂しいわね!鏡さん、いい感じの音楽を流してちょうだい!」
鏡「はい。プレイリスト『夏のカフェで流れるボサノバ』を再生します」
女王「まぁ素敵!静かな王室があっという間に海辺のカフェに様変わりよ!ねえユキちゃん!」
白雪姫「姉さん」
女王「なあに?ユキちゃん」
白雪姫「あのね、とっても言いづらいんだけど…………それ、スマート家電よ」
女王「…………ダージリンよ?」
白雪姫「紅茶の話じゃなくて!それ!!その鏡!!!」
女王「……この魔法の鏡のこと?」
白雪姫「そうよ。それはね、魔法の鏡でも何でもなくてスマート家電なの。もっといえば大型のスマートスピーカーよ」
女王「あらあら、なにを言ってるのかしらユキちゃんったら。いい?この鏡はね、人間とコミュニケーションが取れるのよ?」
白雪姫「やってみせてよ」
女王「ふふふ。いいわ。鏡さんおはよう!」
鏡「はい。おはようございます。今日もいい天気ですね」
女王「今日は暑くなるかしら!」
鏡「はい。本日のアルトコロ地方は最高気温が摂氏32°、最低気温が摂氏16℃となっております。水分と塩分をこまめに摂り熱中症にお気をつけください」
女王「ねっ!ほらほらすごいでしょう!?こんなことまで教えてくれるのよ!魔法よね!」
白雪姫「間違いないわ。これスマートスピーカーよ完全に」
女王「まあユキちゃんったら強情っぱりね!あのね、この子は設定すればアラームだって鳴らしてくれるしこの部屋の照明だって自由につけたり消したりできるのよ。これが魔法じゃなくてなんだって言うの!!」
白雪姫「科学って言うのよ!!」
女王「お話できる家電なんてあるわけないじゃない!」
白雪姫「ボサノバ流し始める魔法の鏡のがないわよ!!てか何よボサノバって!!こんな神聖な女王の間を海の家みたくしてんじゃないわよ!!」
女王「こ……この子はWi-Fiにだって繋げるしスマートフォンとも連動してるのよ!!」
白雪姫「それがスマート家電の最たる証拠じゃああああああい!!!」
女王「そんな」ガーン
白雪姫「またしょうもない物売りつけられたのね姉さん……」
女王「ウッ……ウッ……まさかそんな……だってお姉ちゃん、商人さんに魔法の鏡だって言われたから……」
白雪姫「はぁ……姉さん、一応聞くけどそれいくらしたの」
女王「……60万円」
白雪姫「たっっっか!!姉さんちょっとあんたほんと馬鹿じゃないの!?そんなんね今時5000円も出せば買えるわよ!何ちゃらデー的なセールなら1000円で投げ売りされてるわよ!!」
女王「せっ………せんえん……」ガビーン
白雪姫「まあ物にもよるけど、とにかく60万は高すぎるわボラれてるわよ姉さん」
女王「ウゥ……ユキちゃん……お姉ちゃんまた騙されたのかしら……グスン……」
白雪姫「はぁ……姉さん。姉さんは優しすぎるのよ。孤児だった私を拾ってくれて、プリンセスとしてここまで立派に育ててくれて、私本当に姉さんには感謝してもしきれないくらい」
女王「ユキちゃん……」
白雪姫「やっぱり私、またこのお城に帰ってこようか?姉さんが心配だもの」
女王「ううん!それはダメよユキちゃん!せっかく素敵な旦那様と出会えてこの城を出たんだもの!お姉ちゃんは二人の邪魔にはなりたくないの!」
白雪姫「……わかったわよ。でも、もうあんまり変なもの買っちゃダメよ」
女王「うん!任せて!」
白雪姫「全然説得力ないなあ……」
しかし、白雪姫の忠告もむなしく数日後……。
白雪姫「姉さん……なに、それは」
女王「フフフ……どう?ユキちゃん。素敵でしょうこのランプ」
白雪姫「なんなのそれは」
女王「あのねユキちゃん、これは魔法のランプっていってね」
白雪姫「知ってる。昔、姉さんに絵本で読んでもらったもの。こすると魔人が出るのよね」
女王「そう!その魔法のランプが!これです!ここに本物があるのです!!ジャジャーン!」
白雪姫「はあぁぁ…………姉さんあのね、それは絵本の中のお話で現実には魔法のランプなんて」
女王「フフフ……ユキちゃんはこれを見ても同じことが言えるかしら?」キュキュキュ
モクモクモクモク♪
白雪姫「えっ!?なにこの煙!まさか本当に!?」
魔人「……お呼びでしょうかご主人様」
女王「きゃー!!!魔人よ!みてみてユキちゃん本物の魔人よ!!どう?ねえどう?すごいでしょう!?」ぴょんぴょん
白雪姫「わかったわかった。わかったから女王がそんなに跳ねないの。でも、本当に魔人が出てくるなんて……」
女王「この魔人はね。どんな人の心の中でも読めちゃうの」
白雪姫「……ん?願いを叶えるとかじゃなくて?心の中が読める?なにそれ読心術?」
女王「フフフ……百聞は一見にしかずよユキちゃん。お姉ちゃんがやってみせてあげるわ。さあ魔人さん!心を読んでちょうだい!」
魔人「……かしこまりましたご主人様。あなたが今思い浮かべている人は架空の人物ですか?」
女王「いいえ!」
白雪姫「あっ」
魔人「……ではそれは男性ですか?女性ですか?」
女王「男性です!」
白雪姫「姉さんこれ知ってるわ私」
魔人「……ではその人は……」
白雪姫「姉さん聞いて」
女王「いいえ!」
白雪姫「聞きなさいって」
女王「どちらかといえばそう!」
魔人「……その人は……ラーメンブロガーくいだおれ二郎ですね?」
女王「きゃー!!!すごいわ!!!当たってる!!ねえユキちゃん今の見た!?」
白雪姫「なんてもん想像してんのよ」
女王「こんな数年前に更新が止まったままの閲覧数二桁マイナーブロガーのことまで知ってるなんて!!本当に魔人の力には驚かされちゃうわ!!」
白雪姫「一国の女王がそんなの知ってる方が驚きよ」
女王「ねえユキちゃんどうだった!?すごいでしょー!!これがあのランプの魔人よ!!本物よ!本物なのよ!!」キラーン
白雪姫「……姉さん。すっごい目ぇキラキラさせてるとことっても言いづらいんだけどね、これもう流行ったの10年くらい前よ」
女王「えっ……はやっ……えっ?」
白雪姫「なんならアプリにいるわよこいつ」
女王「でもこれ……魔人さんこれ……本物よ……?……本物よね?」
白雪姫「あのね姉さん。本物のランプの魔人は願いを叶えてくれるの。この魔人はなにができるの?心に浮かんだ人名当てるだけでしょ?魔人が具現化してんのはすごいけど何の役にも立たないわよこいつ」
女王「パ……パーティの主役になれるわ……」
白雪姫「今更こんなので誰もおどろかないわよ!!こんなの社交会で披露してご覧なさい!部下に好かれたくて若者の流行を調べてきた上司みたいでとっても痛々しいわよ姉さん!まるで親戚のおじさんよ!中年の教師よ!生暖かい目で
見られて愛想笑いされちゃうわよ!!」
女王「お……おじ……」ガビーン
白雪姫「はぁ……今回も一応聞くけどこれいくらしたの」
女王「……180万円」
白雪姫「高いんじゃぼけエエエエエエ!!!!おどれどんだけボラれりゃ気が済むんじゃあああああ!!!」
女王「ウッ……ウッ……ごめんなさいまたお姉ちゃんやっちゃった……魔人さん見たら舞い上がっちゃって……グスン……」
白雪姫「あのね、姉さん。姉さんが思うほどこの世界はいい人ばっかりじゃないの。姉さんの素直で人を疑わないところはとっても素敵だけど、それにつけ込んでくるような人だっているんだから」
女王「ウゥ……ユキちゃん……」
白雪姫「私、姉さんのこと大好きよ。国民だってみんな姉さんを慕ってくれているわ。だからこそ、姉さんには他人に甘いだけじゃない、立派な女王になってもらいたいの」
女王「うん……お姉ちゃんがんばる……」
白雪姫「あと、今後10万以上の買い物は禁止」
女王「そんな」ガビーン
白雪姫「当たり前じゃい!!」
しかし、その後も姉のうっかり浪費(10万以内)は続きました。
数日後……。
女王「ねえほらユキちゃん見て!あんなに分厚かったのにこの魔力装置であっという間にペッタンコになるの!!叩くとカッチコチでペンペン音が鳴るわ!ほら!ペンペン!」
白雪姫「姉さん……それは布団圧縮袋よ……」
女王「でも……押し入れの収納スペースが確保できるのよ……?」
白雪姫「城に布団用の押し入れなんかないわ!!」
数日後……。
白雪姫「姉さん……腹が動いてるわ……」
女王「フフフ……気づいたのねユキちゃん……ジャーン!!」ゴウンゴウン
白雪姫「ためらいなく服をめくるな。腹を出すな。女王が」
女王「なんとこの魔道具はね!何とその波動により一分間で腹筋6000回分の効果が」
白雪姫「金魚運動器の時もロデオマシーンの時もそんなこと言ってたわ姉さん」
女王「で……でもこれは筋肉隆々の世界的アスリートが推奨していて……」
白雪姫「女王がそんな腹筋バキバキになってどうすんのよ」
数日後……。
白雪姫「姉さん、さっきメイドから聞いたんだけどさ……なんか先週姉さん宛に大量のCDが届いたって」
女王「な……何のことかしら」ギクッ
白雪姫「しらばっくれてもダメよ姉さん」
女王「ほ、ほんとよ!本当にお姉ちゃんなにも……」
白雪姫「催眠学習か」
女王「ヒッ」
白雪姫「聞き流すだけで呪文が詠唱できるようなる系のやつか、あれか。あれ買ったのか」
女王「あああああごめんなざいいいいいぃぃぃ」
白雪姫「はぁ〜………でもまあその様子だと今回は流石に自覚あるみたいね」
女王「ウッ……ポチった直後に……あっ、やばいかもこれ怒られるかもって……グスン……でもお姉ちゃんキャンセルとかよくわかんないし……ウッ……グスン……」
白雪姫「よし、もうネットショッピング禁止な」
女王「そんなああああああああ」ガビーン
心を鬼にした白雪姫によるネット禁止令の甲斐あって、それからしばらくの間女王はなんとか買い物を踏みとどまることに成功しました。
そんなある日、久しぶりに白雪姫が城へと招かれました。
白雪姫「きたよー姉さん」
女王「ユキちゃんいらっしゃい!座って座って!」
白雪姫「今日は……流石になにも買ってないみたいね」
女王「うん!もうお姉ちゃんは反省しました!だから今日は今までのお詫びも兼ねて一緒にお茶でもって思って呼んだの!」
白雪姫「まあちょっと買い物するくらいならいいんだけどさ、姉さんはすぐ人に騙されちゃうし心配なんだよ。昔から無駄な買い物はよくしてたけど、それにしても最近の姉さんはちょっと買いすぎだったし」
女王「……お姉ちゃんね。もしかしたら寂しかったのかもしれない……ユキちゃんがいなくなって」
白雪姫「私が?」
女王「うん。だから最初は話し相手が欲しくて魔法の鏡さんを買っちゃって……」
白雪姫「なるほど……」
女王「でも鏡さんが家電だってわかっちゃったから、お姉ちゃんの心を理解してくれる魔人さんのランプを買っちゃって……」
白雪姫「それで寂しさのあまり布団圧縮袋に腹筋グッズに呪文ラーニングCDまで買ったと。ほうほう」
女王「その辺はマジすみませんでした」
白雪姫「フフフ冗談よ姉さん。でもそうね、今はもう姉さんの家族は私だけなのにこの城に姉さんをひとりぼっちしちゃったのは良くなかったと私も思うの。やっぱり今からでも戻って……」
女王「ううんそれは大丈夫!もうお姉ちゃんは寂しさを乗り越えたから!これからはしっかりと女王らしくなるわ!!甘いだけじゃなく時にはビシッと鞭を振るってみせるわ!!」
白雪姫「えーほんとかなあ」
女王「女王様とお呼び!」
白雪姫「なんか違うよそれ」
コンコン♪
メイド「女王陛下、失礼します」
女王「あらっ、アップルパイが焼けたようね」
白雪姫「えっ!アップルパイ!」
女王「フフフ……ユキちゃん子供の頃から大好きだったもんね。これは私からのお礼よ。さあ食べて食べて!」
白雪姫「ありがと姉さん!!じゃあ早速……いただきますっと……」
女王「えぇ……どうぞ召し上がれ……とっても甘くておいしいおいしい林檎よ……白雪姫……」
白雪姫「モグモグ……まあこの前も言ったけどさ……この世界はいい人ばかりじゃないんだから……モグモグ……優しい顔して人を騙す魔女のような人だっているんだしさ……」
女王「えぇ……そうねぇ……」コポコポ
白雪姫「あぁ紅茶注いでくれてありがとう……それでね、姉さんもこれからはもっと女王としての自覚を………ウッ!?こ……これは……!?」
女王「フフフ……」
白雪姫「こ……この林檎は……姉さん……」
女王「ごめんなさいユキちゃん……お姉ちゃんは嘘をついてしまったわ…………」
白雪姫「こ……この味……は………………超寒冷地方でしか採れない幻の林檎『ウルトラスーパーゴールデンアップル』じゃん!!!どうしたのこれ!!!」
女王「ごめんねえええええ!!!買っちゃったのおおおお!!!ポチっちゃったのおおおおおおおお!!!」
白雪姫「んもおおおお姉さんほんと馬鹿!これめちゃ高いのに……もうバカァ………美味しい……あまぁい……」
女王「だってだって今日ユキちゃんが来るって言うから!!ユキちゃんが一番好きな林檎買いたくて………」
白雪姫「ネットショッピング禁止って言ったのに!」
女王「…………ユキちゃん怒ってる?」
白雪姫「まぁ……その……今回だけは…………許してあげよう…」
女王「やったあああああ!」キラリーン
白雪姫「はぁ〜……」
その後も女王は、洗濯機買いに行ったはずがなぜかウォーターサーバーまで契約してしまいキレられたり、路上で画商から購入したラッセンがレプリカだと知って泣いたり、クレカを取り上げられて土下座したりしつつもまあなんやかんや白雪姫に甘やかされて幸せに暮らしましたとさ。




