戦いの礼儀
魔物「死ねえええええええ!!!」
勇者「!?」
キーン!!
魔物「チッ…仕留めきれなかったか……」
勇者「不意打ちとはいえこのスピード……危うく心臓を貫かれるところだった……そうかお前は………」
魔物「ヘッ……命拾いしたな人間よ」
勇者「魔王軍四天王の一人で魔王の右腕とも称される………」
魔物「…………」
勇者「『雷鳴のレン』か」
魔物「ほう……人間如きがこの俺の名を知っているとは」
勇者「そりゃそうさ……その剣の一太刀は雷を切り裂くと言われ、かつては国一つをたった一人で落としたという伝説の魔物だからな………」
魔物「カッカッカッ!グズで愚かな人間風情にまでこの名が轟いているとは!俺も偉くなったものだ!!!」
勇者「お前ほどの男がなぜ魔王軍なぞに身を置くのか……」
魔物「フッ……貴様のような俗な虫ケラには魔王様の崇高な理想を理解はできまい」
勇者「なあ雷鳴のレン……俺はお前とは戦いたくない。お前の強さはその辺の魔物や幹部達とは桁が違う……きっと戦えばお互いにタダでは済まないだろう」
魔物「ほざけ蛆虫が!!貴様なんぞ一方的にこの俺が捻り潰してくれるわ!!いくぞクソ雑魚野郎!!今度こそ八つ裂きにしてやる!!!死ねえええええええ!!」
勇者「……ちょっと待て!!」
魔物「なんだ!?」ピタッ
勇者「…………」
魔物「なんだ!言いたいことがあるなら早く言え!!!このグズ野郎が!!!」
勇者「…………なんでお前は……もうちょっと…………こう……俺を褒めないの……?」
魔物「…………あっ?」
勇者「………いやっ、俺さ、お前のこと結構褒めたと思うんだよね!すごい認めてる感っていうかさ!」
魔物「……なに言ってんのお前?」
勇者「いやわかるよ変なこと言ってんのはわかる!敵だしね!でもこうさっ、お互い強い者同士ってこう普通褒め合うもんじゃない?『貴様ほどの男が〜』とか『こいつはかなりの手練れだ〜』とかさ!あるじゃん!色々とさ!!強敵同士でお互いの強さを讃えあう感じ!?」
魔物「なにお前急に早口で…………キモ」
勇者「キモっとか言うなよ!!そういうのやめてって言ってんの!!もっと敬意持ってよ!!俺に!!敬意を持って接してよ!!!」
魔物「いやいや意味わかんねえよ。なんで敵に敬意を持たなきゃいけないんだよ。敵だろお前」
勇者「でも俺お前のこと褒めたじゃん!敵なのに褒めたじゃん!!ちゃんと通り名で呼んで、役職も過去の実績も紹介してあげたじゃん!!どうこの大物感!!敵でもしっかりリスペクトするこの大物感!!この大物感を目の当たりにしてお前はなにも感じないの!?」
魔物「お前今すっごい小物っぽいぞ」
勇者「それはお前が俺の挨拶を無視したからじゃん!!ちゃんとお互いが相手の過去の実績を紹介しあって気持ちよく戦いを始めるのが礼儀じゃん!!!それをお前が無視してなんか酷いことばっかり言うから……でも俺だって結構我慢してたのにいつまで経っても褒めてくれないし……だから嫌だったけど注意しただけで、なんでそれで、なんか、俺が小物とかそう言う感じに………なんでそんなん言うん……」
魔物「おいお前泣いてんのかおい」
勇者「ああああああああああうるさいうるさいうるさい!!!バーカ!バーカ!!強敵!!!四天王!!!」
魔物「落ち着けって」
勇者「…………謝ってよ」
魔物「は?」
勇者「謝ってよ!俺のこと雑魚とか酷いこと言ったの謝ってよ!」
魔物「別に敵にどんな罵倒しようが俺の勝手だろ」
勇者「だって俺雑魚じゃないもん!!お前の不意打ち防いだもん!剣で!キーンって!!強いもん!!」
魔物「あーあれか」
勇者「ていうかあの時だって俺褒めたよね!?『不意打ちとはいえこのスピード……』って!!なのにさ!お前あの時なんて言ったか覚えてる!?」
魔物「なんて言ったっけ」
勇者「『命拾いしたな』って言ったの!!!なに『命拾い』って!!おかしくない!?俺が!!防いだんですけど!なにそのたまたま助かったみたいな感じそれ!!お前が不意打ちしてそれを俺が防いだんだからあの攻防においてはどう考えても俺の方が強いことしたのに、それを命拾いとか言って!!俺は褒めたのに!!褒めたのに!!なんにお前は命拾いとか言ってなんか俺の方が弱いみたいなそんな感じにしてああああああ」ダン!ダン!!
魔物「わかったわかったから足ダンダンすんな。頭ぐしゃぐしゃ掻きむしるのもやめろ怖いから」
勇者「普通ああ言う時は『ほう……この俺の死角からの攻撃を防ぐとは流石は勇者と言ったところか………』が基本だから!!気をつけて!!!」
魔物「めんどくせえなお前なんだよ基本って」
勇者「あと俺のこと人間って呼ぶのもやめて!!勇者って呼んで!!」
魔物「いやだって人間は人間だろ。俺お前らの見分けつかないし」
勇者「俺お前のこと魔物って呼ばないじゃん!ちゃんと『雷鳴のレン』って呼んでるじゃん!!だからお前も俺のことちゃんと勇者って呼んでよ!もしくは通り名の『疾風怒涛のまさひろ』って呼んでよ!!」
魔物「なにそれすごいダサい」
勇者「ダサいとか言わないで!!覚えて!!とにかくもっとちゃんとリスペクトして!リスペクト大事!!」
魔物「わかったよ今度からそうするよ」
勇者「じゃあもう一回はじめからね」
魔物「えぇ……やだよめんどくさい」
勇者「ダメ!こういうのはちゃんとやらないと!!ほら、準備して待っとくから早く不意打ちして不意打ち!!」
魔物「それもう不意打ちって言うかな」
勇者「よっしゃ来い!!」
魔物「ハァ…………オラあああああ!!」
キーン!
勇者「クッ…………不意打ちとはいえこのスピード……危うく心臓を貫かれるところだった……そうかお前は魔王軍四天王の一人で魔王の右腕とも称される男………雷鳴のレンか!!」
魔物「えっと……この俺の死角からの攻撃を防ぐとは流石は勇者と言ったところか………か?」
勇者(…………ウンウン!)コクコク
魔物(嬉しそうだな)
勇者「雷鳴のレン……その剣の一太刀は雷を切り裂くと言われ、かつては国一つをたった一人で落としたという伝説の魔物………」
魔物「よく知っているな……流石は………えっと……流石は……なんとかまさはると言ったところか……」
勇者(………?)
魔物(ゴメン……!通り名なんだっけ!)
勇者(……疾風怒涛!)パクパク
魔物(だめだ口パクだけじゃわからん……)
勇者(疾風!疾風怒濤!)パクパク
魔物「…………流石はあの……『一風堂のまさはる』……だな……?」
勇者(ちがっ!!ちがうよバカ!!疾風怒濤!!そんなラーメンブロガーみたいな名前じゃない!!)
魔物 (えーもうわかんなーい)
勇者「…………ゴホン!!エッフン!!!ゲホッゲホッ!!」
魔物「えっ、おっ、おい大丈夫か」
勇者「いや、大丈夫……ちょっと喉が……ゴホン!ゲフッ!シップ!………シップゥ!!」
魔物「なにその咳。変わってんなお前」
勇者「おまっ……!ゴホン!!シップゥ!!ゲホン!!ドトゥ!!シップゥ!!ドトゥ!!ゲホッゲホッ!!」
魔物 (あっ……なるほど)
勇者(そう!)コクコク!
魔物「そうだ……お前は……『湿布ドドンとまさはる』だ!!」
勇者「誰それ!!」
魔物「もー無理ーわかんないー正解教えてよー」
勇者「もう!!なんで!!!忘れちゃうの!!!!ちゃんと覚えてって言ったじゃん!!!なに湿布って!!ていうかまさひろだし!!誰なのまさはるって!!!」ダン!ダン!
魔物「あーもうやめろってそれ」
魔王「おいさっきからダンダンダンダンうるさいぞ」
魔物「魔王様!?」
魔王「下の階のワシの部屋まですごい響いてる」
魔物「す……すいません魔王様!!今のはこいつが……!」
魔王「ん……?貴様は…………」
勇者「こ……これが魔王…………」
魔王「ほう……貴様は………小さな田舎町の生まれであるにも関わらず伝説の勇者の血を受け継ぐ存在として国王から認められ、たった一人で旅を続け数多のダンジョンを攻略し魔王軍の刺客を返り討ちにし、幹部達すらも退けついにこの魔王城まで辿り着いた恐ろしき勇者か……」
勇者「…………!!」
魔王「ん?」
勇者「これ……これめっちゃ求めてたやつうううう!!!魔王わかってるうううう!!」
魔物「嬉しそうだな」
勇者「ちょっとレンちゃんも見習ってよこれ!これが本来の強キャラの仕事!!」
魔物「誰がレンちゃんだ」
魔王「貴様ほどの男を人間にしておくのはもったいない………どうだ、我が魔王軍に入らぬか?貴様になら世界の半分をくれてやるぞ」
勇者「うわぁめっちゃ嬉しいその提案ー!!認められてる感すごいいいいい!!」
魔物「喜んじゃダメだろ」
勇者「だってもう自己肯定感がこれ!すごい上がってこれ!!!」
魔物「立場的に俺が言うのもアレだけど魔王様に自己肯定感上げてもらっちゃダメだろ勇者が」
魔王「さあ選ぶがいい!!勇者!!いや…………『喰いタン早上がりのまさし』よ!!」
勇者「…………ん誰それ!!」
魔物「すっごい小物っぽいね」




