悪魔の契約
ほう…………貴様、勇者か。まさか勇者にこのワシの元へ来るとはな。
フフフ……まあよい。このワシ、即ち悪魔との契約は力を求める者であれば誰であろうと可能だからな。そう、代償さえ払えば。
まあこの悪魔城にやってきた時点で理解していることではあるだろうが今一度説明しておく。この契約においてワシは貴様に望むだけの力を与える。そして貴様は望んだ力の大きさに見合う代償をワシに支払うことになる。そう、寿命だ。察しがいいな。例えば、下級魔物を退け小銭稼ぎが出来る程度の力であれば１０年。国ひとつを落とせるほどの力であれば３０年といった具合に力の大きさに応じて貴様がワシに支払う寿命の年数も増えていく。ワシが与える力に上限はない。そう、貴様が望むのであればたとえ魔王を討伐しうるほどの力でもワシは与えることができる。勿論相応の寿命を払ってもらうがな…………フフフ……さあどうする！？貴様はワシに何を望む？この悪魔に魂を売り己の寿命と引き換えにどれほどの力を求めるのだ！！！！！！
…………ん？…………魔王をワンパンで倒せるくらい？………………えっ、魔王を？ゴブリンとかじゃなくて？ワンパンで？へーあっ、そう…………ワンパンで……魔王をねえ…………あのさ……話聞いてた？貴様ワシの説明ちゃんと聞いてた？
いや言ったけど、確かに魔王を倒すほどの力もーとか言ったけど……そういうのってほら、物のたとえじゃん。現実的じゃないじゃん。あ？いやできるよ？貴様がガチで欲しいんならあげるよ？力くらいなんぼでも。
でも代償あるんだよ？ちゃんとわかってる？…………ほんとにわかってる？あーもしかしてあれか、ワシがなんか周りくどい言い方しちゃったからよくわかんなかったか。そうでしょ？いや、絶対そうだよ。貴様わかってないよこの契約のことちゃんと。よしわかった。改めてちゃんと説明するから。そこ座って。うん。いいから座れってほら。ちょっと待ってて資料とか準備してくるから。
おまたせ……あっ、コーヒーでよかった？あ、好き？ならよかった。
…………えーとじゃあハイこれカタログ。うん。弊魔のカタログ。とりあえずそれの１２ページ開いて１２ページ。んで、ここに弊魔とお客様の力の契約についてのプラン例がいくつか載ってんだけど、例えばこの一番下のライトプランだと下級モンスター（例：ゴブリン スライム）が倒せる程度の力が与えられて料金が大体５〜１０年ってとこなのよ。料金に差があるのはお客様の元のレベルに差があるからだね。そんでその上、ベーシックプランになると中級ダンジョンが攻略できて料金が１０〜２０年ってところかな。そうだね。やっぱりこのあたりのプランが一番人気があるよ。ただ絶対にこのプランの中から選ばないといけなってわけじゃなくこれはあくまでも一例でしかないので、お客様のご希望の力の大きさと寿命予算を柔軟に擦り合わせて一番バランスのいいお客様だけの契約プランを作成することができるわけ。つまりそう、お客様一人一人のライフプランに合わせた契約をご提案させていただくのが弊魔のスタイルなわけなんだけど。
で、貴様が言ってる魔王ワンパンプランになると………この次のページの悪魔の契約シミュレーターを見てもらったらわかるんだけど……ええと、貴様年齢は？１７ね。んでレベルが……１５と………となるとここだから、魔王討伐レベルだと７０年はもらわないといけないわけよ。さらにワンパンオプションを追加すると１０年プラスだから８０年だね。
つまり貴様は今魔王ワンパンプランを契約すると寿命的には９７歳の人になっちゃうわけで、これもう高確率で契約した瞬間死ぬよね。いや勿論貴様の生命力によるところも大きいんだけどさ、まあ９７なら大体死んでるよ。ここまでわかった？理解できた？アンダスタン？
オッケーオッケー。じゃあ理解できたところで改めて聞くけど、貴様はどれくらいの力が欲しいですか？うん……魔王を……ワンパンで……………………うん、あの……えっ、馬鹿なの？ワシ今これ以上ないくらい丁寧に説明したと思うんだけどなんで理解できてないの？なんで振り出しに戻っちゃうの？
いや理解できてないじゃん！理解できてないからアホ丸出しで魔王ワンパンとかほざいちゃうんじゃん貴様さあ！ワシはいいよ？寿命80年貰えるんだから別にこの契約したっていいのよ？でも貴様はどうなんの？貴様すぐ死んじゃうんだよ？ワシはそれを心配してやってんの！わかる！？
『それでもいい魔王が倒せるなら』じゃねえんだよ！魔王倒せねぇって言ってんだよ！契約した段階で９７歳なんだから魔王と出会う前に寿命来ちゃうよ！なんなら契約直後に死ぬよ！……いや３年あればってなんで貴様１００歳まで生きる前提なんだよ。そんなのは貴様超レアケースだよ。まず普通の人じゃあ無理よ。
あのさ………せめてレベル上げない？そうレベル上げすんの。魔物倒して。貴様の元のレベルが上がればそんだけ代償も減るからさ。わかる？同じ魔王ワンパンの力を与えるにしてもレベル１５の人とレベル５０の人に与える力の大きさは変わるよね？大丈夫？ついてきてる？……………だから貴様が５０くらいまで貯レベルしてから契約すればそこまで寿命払わなくてもよくなるんだよ。これ業界では頭レベルって言うんだけどさ。だから、頑張ってレベル上げてある程度頭レベル貯めようよ？ね？…………めんどくさいじゃねえよ勇者だろ貴様。レベル上げは勇者の義務だろうがめんどくさがってんじゃねえよやれよそんくらい。
うーん……じゃあせめてワンパンオプション外しません？これだけで１０年浮くから。寿命。うん。どう？えっと…………仮にだよ、仮にさ…………ちょっと電卓使わせてもらうけど……えー仮に頭レベル６０だとしてワンパンオプ無しで計算すると…………えー出ました３２年。どうこれ？いい落としどころじゃない？貴様が今から１日８時間のレベル上げを週5〜6日でやってレベル６０に到達するのがまぁ大体３０歳くらい？だとしたらそこから３２年寿命払っても６２歳よ？これならまだまだ現役バリバリでしょ？なんなら年金すら支給されてないくらい現役よ。最低でも１０年は生きられると思うわ。そのタイミングで契約してちゃっちゃと魔王倒したらあとは英雄として１０年でも２０年でも生きたらいいじゃん。どうよこのプラン？かなりよくない？
んんんんんんなんでそんなに難色示すの？なにが気に入らないの？ワシ、結構いいプランを貴様にご提案できてると自負してるんだけどなんでそんなに頑ななの？あっ、もしかしてあれか…………今すぐに魔王を倒さないといけない深刻な理由があるのか。恋人をさらわれたとかそういう……あ、ないのね。即答かよ。じゃあいよいよなんで貴様そんな生き急いでんだよ。
じゃあ一旦さ、一旦持ち帰ってよ。ね？一旦家に持ち帰ってもらって、このカタログと、あと契約書も渡しとくからよく読んで。頭冷やして。おうちの人ともよく相談して。そしたらきっと考えも変わると思うから、その時はまた連絡して？いい？…………えーじゃあこの紙袋にカタログと、契約書と、ワシの名刺と、あと今配ってる弊魔オリジナルのハンドタオルも入れとくからよかったら使ってね。今年は虎さんの柄だよ。
はいじゃあ悪魔城の外までお見送りしまーす。はいこれ、ちゃんとおうちの人と読んでね。んで決まったら名刺に携帯の番号書いてるから直接そこに電話して。何かわからないことがあったらアドレスの方にメールしてくれたら可能な限り質問にもお答えするので。はい、はい、じゃあね。はーい。ありがとうございましたー。ちゃんと考えろよー！
はぁ……大丈夫かあいつ………………。
数日後
プルルルル。
はい悪魔。はいそうです。はい。
……ん？…………あぁ先日の！どーもどーも！はいはい。それでいかがなさいます…………？
はい………あぁ……できれば魔王を………はぁワンパンで…………はぁ………あの、その……資料読まれました？ちゃんとご家族で話合われました？わかってます？魔王を倒す力って…………そう、寿命が…………うん……そう…………えっ、なんでそこまで理解しててそう言う結論に貴様らは…………はーもうわかりました。もう一度ちゃんと説明いたしますのでご都合よろしい日に息子さんと一緒にご来城ください！！お母さん！！！！！！
