勇者キラレオナルドとEpisode.0
新入り「先輩、さっき朝礼で言ってた勇者避難訓練ってなんですか?」
先輩「ああ?あーそうかお前は今年来たばっかだからなあ。まあそのまんまだよ。勇者が来た時のための避難訓練」
新入り「いやおかしいでしょ。なんで勇者が来たのに魔物が避難するんですか?倒さないとダメでしょ」
先輩「お前、今の勇者パーティのレベル知ってっか?全員60オーバーだぞ60オーバー」
新入り「え!?本当ですか!?じゃあ…………」
先輩「そうそう、俺たちってみんなレベル15くらいじゃん。だから今勇者なんか来られたら皆殺しってわけよ」
新入り「えぇ……でもなんでそんなダンジョンがまだ勇者に潰されてないんすか?」
先輩「あーなんかうちのダンジョンってメインストーリーとあんま関係ねーらしいんだわ」
新入り「衝撃の事実」
先輩「強いて言うならボスの内臓……?かなんかが素材として価値があるらしいけど、よっぽどのマニアじゃないといらねえっしょそんな素材。キモいし」
新入り「…………じゃあウチのダンジョンって勇者たちに見逃してもらってたから今日も営業できてるってことですか」
先輩「まあそんな感じじゃね?」
新入り「なんなんですかこのダンジョン。存在価値ゼロじゃないですか」
先輩「えーでも別にいいじゃん?もう勇者もこのダンジョンの存在なんて忘れてるだろうし、ある意味魔王城より安全じゃねここ?マジラッキーだわ俺ら」
新入り「ハァ………やる気なさすぎですよ先輩…………で、結局勇者避難訓練って何するんですか」
先輩「あぁそれな……えーと年に一度やんだけどさ、一日のどこかのタイミングで非常ベルを鳴らすのよ。んで、ダンジョン全体に緊急放送を流すわけよ『勇者が来たぞ』って感じで」
新入り「こっちはどうしたらいいんです?」
先輩「えー放送を聞いたらとりあえず物陰に隠れて勇者をやり過ごす。そんで安全が確認できたらグラウンドに集まって点呼って感じ?」
新入り「もうそれただの避難訓練じゃないですか」
先輩「だから避難訓練だって言ってんじゃん。天災と一緒だもん勇者なんて」
新入り「ていうか隠れて勇者をやり過ごすって、実際にいる訳じゃないのにどうやるんですか?」
先輩「ああそれは毎年持ち回りで魔物の一人が勇者役をやることになってて………えっと今年は誰だっけな……たしか…………」
ジリリリリリリリリリリ!!!!!
新入り「!?」
先輩「おっ、始まった!ウェーイ」
新入り「なんで楽しそうなんですか」
先輩「なんか気分上がるじゃんこういうイベントって」
『緊急放送緊急放送。勇者パーティ襲来。皆さん机の下など安全な場所に身を隠してください。慌てずに『おかし』を守って行動しましょう』
先輩「よっしゃ!じゃー俺はこのタンスの影に隠れるからお前はそっちな!その本棚の裏!」
新入り「なんですかおかしって」
先輩「落ち着こう、隠れよう、喋らない」
新入り「小学生みたいですね」
先輩「シッ!勇者役に見つかる!姿勢を低くしろ!ほら早く!!」
新入り「見つかったらどうなるんすか?」
先輩「見つかった奴は勇者パーティにされてさ、一緒に隠れた魔物を見つける役になんだよ」
新入り「何それちょっと楽しそう」
先輩「だろ?」
ガタガタ……ガタガタ…………。
先輩「おっ、来た来た。ドアの鍵開けようとしてるわウケる」
新入り「あれ?いつの間に鍵なんて」
先輩「訓練があるからかけといたんだよね。鍵必死に開けようとしてる勇者とかウケるっしょ?」
新入り「ハァ……この人は……」
魔法使い「オラアアアアアアアアア!!!!!」ドガーン
先輩「!?」
勇者「お前……開け方どんだけ乱暴なんだよ。蹴破るなよ………借金取りかよ」
魔法使い「うっさいわね。こんなチンケなダンジョンさっさと全滅させて金目の物全部奪ったら帰るわよ」
勇者「山賊みたいなこと言うな」
新入り(ちょっ、先輩!ドア蹴破られちゃいましたよ!誰なんですか今年の勇者役の人達!めっちゃ乱暴なんすけど!)
先輩 (あ………ああ…………)ガタガタ
新入り(先輩?なに急に震えてるんですか?)
先輩(ヤベェ……あれ……本物の勇者だ……あの服装といい剣といい間違いねぇ………)
新入り(ええええ!?本当ですか!?)
先輩(隣にいるのはこの世を金と暴力で支配する恐ろしい魔女だ…………間違いねぇ……ヤベェ……)
新入り(完全にこっち側の人じゃないっすかそれ)
先輩(もうダメだマジ死ぬ……俺たちマジ死んだこれ………あああああ無理無理マジ無理……)
新入り(落ち着いてください先輩!ともかくボスに知らせないと!!)
先輩(あっ……あぁそうだな………ボスなら勇者達相手でも追い払ってくれるかもしれねえ……)
騎士「お二人とも待ってくだされー!この『ボスの十二指腸』めちゃめちゃ重いですぞおおおお」
先輩&新入り(ボスうううううう!!!)
勇者「ああ悪いな騎士。よしここからは俺が持つから………って重っ!やばいなこれなんかぬるぬるしてて気持ち悪いし」
騎士「そうでしょうそうでしょう。はぁ……疲れましたぞ」
魔法使い「全くだらしないわねあんた達。ほらとっととこの部屋も漁るわよ」
勇者「お前が実験に使うからってこんな素材欲しがったんだろうが」
先輩(アハハハハハ………もうダメだわボスやられちゃってるもん……まじ死んだわ俺……)
新入り(と……とにかく落ち着いてください先輩!こんな時の為の訓練だったんでしょ!とにかく隠れてやり過ごしましょう!ほらっ!『おかし』思い出して落ち着いて!!)
先輩(終わった………確実に終わったこれ………切り刻まれるんだ俺ら………)
新入り(おかき!!!!!!)
勇者「ん?誰かいるのか!?」
新入り(ヤバい!)
魔法使い「ネズミがこそこそ隠れているようね………あのタンスの方かしら………」
先輩(ああああああヤベェヤベェヤベェ!!!こっちくる!!もうダメだあああああああ!!!)ガタガタガタガタ
新入り(先輩…………)
…………………………。
……………………。
…………。
……。
先輩『あ?お前が新入りか!?じゃあとりあえずジュース買ってこいよ』
そうだ……ここで先輩に出会って………………。
先輩『おいお前も食えよこれ、美味ぇだろ?この饅頭さっきボスの部屋からパクってきたんだけどさあ………』
沢山のことを教わって……………………。
先輩『おい新入り!週末合コンやるからお前女の子集めろよ!!ああ!?うるせえ先輩命令だ!』
そして…………………。
先輩『ウェーイ!!おいもう一軒行くぞもう一軒!!酔ってねーよ大丈夫だよ!!えーご通行中の皆さーん!一発芸の尻文字やりまーす!!!あソーレ魔王の魔の字はどう描くの!?こーしてこーしt………ああ?なんだてめーら。警察!?あっ、おいちょっやめろ!離せよ!!!』
…………………うーん全然大した思い出なかったな!見捨てようかな!!スクランブル交差点で尻出すような人だしな!!
先輩『俺さ………今はこんなだけどさぁ、世界が平和になったら結婚しようと思ってんだよね………へへっ……』
でも…………先輩…………。
先輩『だから女紹介してくんね?いるっしょ?大学の同期とか。今度連れてこいよ』
いや、やっぱ見捨てよう。うん。
だって、どうせ先輩は…………。
…………………………。
……………………。
…………。
……。
魔法使い「さぁそこのタンスの裏に隠れてるネズミちゃん出てきなさい……今なら苦しまずに殺してあげるわよ」スタスタ
騎士「悪魔のセリフですな」
先輩()ガタガタ
新入り(…………ハァ………いつもあんなに偉そうなのに子猫のように震えて………まったく………世話のやける先輩ですね…………)バッ
勇者「誰だ!?」
新入り「すいません!!この通りです勘弁してください!!!!!」
先輩(新入り!?)
魔法使い「あら、本棚の方にいたのね」
騎士「珍しく当てが外れましたな」
新入り「この部屋にはもうアイテムもありませんし他の魔物もいません!!お願いです見逃してください!!!」
騎士「とのことですぞ」
勇者「なんか………魔物に土下座されて命乞いされるのって複雑だな…………」
魔法使い「正直に出てきたのね。いい子」
新入り「あ……ありがとうございます!」
魔法使い「ご褒美に、殺した後のあなたの素材も新薬の実験材料として存分に使ってあげるわ」
勇者「悪魔だ」
騎士「人の形をした魔王とはこのことですな」
魔法使い「うっさいわね」
新入り「……あ………あ…………」
魔法使い「さぁ、もうこの世に未練はないかしら。じゃあ目を瞑りなさい。なに、一瞬よ。痛みすら感じないわ」
新入り「ウッ…………」
魔法使い「じゃあいくわよ…………ダークネスエクストリームクライd」
先輩「うおおおおおおおおおおお!!」ドーン!
魔法使い「キャッ!!!」ズザー
新入り「先輩!?」
勇者「おおっ、アメフト選手ばりのタックルで魔法使いが吹っ飛んだ」
騎士「いやこれは見事見事」パチパチ
勇者「うん。大したもんだ」パチパチ
魔法使い「あんたら………後で覚えときなさい…………」
新入り「先輩!!どうして!!!」
先輩「へへっ……新入りを身代わりにする先輩がどこにいるってんだよ!」ガクガクブルブル
新入り「先輩……セリフに反してめっちゃビビってる…………」
先輩「全く俺はバカだぜ……一番大切なものがこんな近くにあることに今まで気づかなかったなんてよ……」
新入り「えっ…………」
先輩「俺は……お前のことが好きだ!!」
新入り「先輩!………実は私も先輩のことが…………嬉しい!!」ガバッ
先輩「新入り!!!」ギュッ
勇者「おー急展開」パチパチ
騎士「これはめでたい」パチパチ
勇者「メスだったとはな」
騎士「そこですか」
勇者「魔物って見分けつかねえもん」
騎士「やめなされ」
先輩「なあ新入り……前に話した俺の夢、叶えてくれねえか?」
新入り「それって…………」
先輩「あぁ、この戦いが終わったら……結婚しよう」
新入り「先輩!」ガバッ
先輩「新入り!」ギュッ
勇者「おー急展開」パチパチ
騎士「これはめでたい」パチパチ
先輩「あっ、どうもどうも」ペコペコ
勇者「でもこういうのってフラグだよね」
騎士「やめなされ」
魔法使い「あんた達………和んでんじゃないわよ……」
勇者「ほら早速死の回収人が来た」
先輩「出たな悪の魔女め!俺は負けねーぞ!!愛のために!!」
新入り「先輩……頑張って!!」
勇者「負けるな先輩!!」
騎士「先輩なら勝てますぞ!!」
先輩「みんな……!!!」
魔法使い「なんで私が悪役なのよ」
勇者「まあまあいいじゃないか魔法使い。せっかく結ばれたんだし見逃してやろうぜ」
魔法使い「あらちょうどいいじゃない。お祝いにあの世で永遠に愛し合わせてあげるわ」
騎士「そういうところが悪役なんですぞ」
魔法使い「こっちはタックルされてんのよ。殺さないと気が済まないわよ」
勇者「だいぶ釣り合ってない気がするけど…………君らどうする?戦うと言っても見たところ君らじゃウチの魔法使いには多分勝てないけど」
先輩「…………すいませんこの通りです……見逃してください…………俺、やっと一番大切なものが出来たんです。こいつを一生かけて守っていきたいんです」
魔法使い「…………」
新入り「魔法使い様!!私からもお願いします!もうこのダンジョンも攻略されましたし、これからはここを出て人間の迷惑にならないように二人で静かに暮らしますので!!」
勇者「だってさ」
騎士「ですぞ」
魔法使い「ハァ……わかったわよ…………」
先輩「本当ですか!?」
魔法使い「これで殺したら流石の私も目覚めが悪いもの…………攻撃なんかできないわよ。もういいわ」
先輩「魔法使い様!!ありがとうございます!!!!」
勇者「おー衝撃の展開」パチパチ
騎士「まだ僅かに人の心が残っていたんですなあ」パチパチ
魔法使い「代わりにあんたら殺すわよ」
先輩「あ……あの、魔法使い様!!見逃していただいたお礼と言ってはなんですが…………」
魔法使い「何よ?」
先輩「俺にはアイテムもお金もないからこんなことしかできないので…………俺の一発芸で感謝の気持ち伝えます!あソーレ『魔法使い』の魔の字はどう描くの!こーしてこーしt」
魔法使い「なにいきなり尻出してんのよオラアアアアアアアア!!!!」ドガーン
先輩「ぐえええええええ!!」
新入り「先輩!!!!!」
勇者「おい蹴り飛ばすなよ可哀想だろ5メートルは吹っ飛んだぞあいつ」
騎士「なんの躊躇いもなく攻撃しましたな」
魔法使い「あれくらいじゃ死なないわよいくらなんでも。まあこれでタックルぶんはチャラにしてあげるわ。さあこんなダンジョンさっさと出て森の方へ向かうわよ」
勇者「じゃあ俺らもういくからお幸せになー」
騎士「見事な尻でしたぞー」
先輩「あ……ありがとうございました…………ぐふっ………」
新入り「先輩死なないでー!!」
……………………。
新入り「先輩大丈夫ですか?」
先輩「ああ、なんとか…………尻はすっごい腫れてるけど」
新入り「まぁ……これくらいで済んでよかったかもしれませんね。あんなことして」
先輩「どうして蹴られたんだろう………最大限の感謝の気持ちを伝えようとしただけなのに………」
新入り「普通、尻で感謝を伝えられて喜ぶ人はいないです」
先輩「ええ!?マジで!?」
ダダダダダダ!!!!
新入り「えっ!?また誰か来る!?」
先輩「ま、まさかまた勇者パーティが!?やっぱり気が変わって俺達を殺しに!?」
新入り「そんな………!」
先輩「クッ……………!!」
偽勇者「キエーーー!!待たせたでゲスね!!おいらが勇者でゲスよ!!悪い魔物はいねーでゲスかー!?」
新入り「あぁなんだ。ダークシャドウさんか」
先輩「そうか……今年の勇者役こいつだったな………」
偽勇者「あれ!?二人とも勇者避難訓練の最中でゲスよ!隠れてないとダメでゲス!!」
新入り「ええと……もう訓練どころか本物がきてこのダンジョン攻略されて……ボスもやられちゃってます…………」
偽勇者「えぇ!?ホントでゲスか!?」
先輩「お前すごいな。気付けよ」
偽勇者「くそー勇者パーティめ許さないでゲス!!どこに行ったでゲスか!?」
新入り「ええと確か森の方とか言ってたかも……でももう追わない方が………」
偽勇者「この近くの森と言えば『偽りの森』でゲスね!!よーし二人とも待っていてくれでゲス!!このダークシャドウが仇を取ってきてやるでゲスうううう!!!!」ダダダダダ
新入り「待ってダークシャドウさん………!ああ、行っちゃった……絶対勝てないのに………なぜあんなに嬉しそうに………」
先輩「あいつノリ良いからなあ」
ダークシャドウの末路は第七話『勇者キラレオナルドと偽りの森』で読めます。




