死んでもいいわ。
待ちなさい冒険者!!ここから先は通さないわよ!!!!!
あたしの名前はルーナ!!!!このエリアを守るモンスターよ!!覚えておきなさい!!!!
詩人(Lv.9)「僕はしじん ことばの力で戦うよ」
し……詩人……?そういえばそんな職業があると聞いたことがあるわね……たしか、詩を唱えてその言葉を魔力に変換して攻撃する魔法使いの一種とかなんとか…………本当にこの職業選ぶ冒険者初めて見たわ…………。
詩人(Lv.9)「お月さま きれいなきれいなお月さま こわい夜にも僕らを照らす そんなきれいで優しいお月さま だけど太陽がないとかがやけない」
『ルーナに12のダメージ!』
きゃああああああああ!!!た………確かに詩っぽいわ………やるじゃない…………。
でも所詮はLv.9の詩人ね。子供っぽいし、語彙もないし、あとなんか薄っぺらいわ…………これなら私だって負けないんだから!!!
『ルーナのたたく攻撃!詩人に10のダメージ!』
フフフ……私の必殺攻撃を受けて立ってられるなんてあなたもなかなかやるじゃない…………でも次で最後よ…………はああああああああああああ!!!
詩人(Lv.9)「ぼくはお月さまを照らす 太陽みたいに なれたらいいなあ…………」
……………………。
…………。
……。
数年後。
待ちなさい冒険者!!!ここからは私が相手になるわ…………ん?あなた………もしかしていつぞやの詩人………?
†死人†(Lv.14)「黒の調べに彷徨う深淵よ 其方の悲しみに 我の血があらんことを」
な、なんか……だいぶイメチェンしたのね。その黒のコート暑くないのかしら………?ポーズ決めてるし…………ていうか前髪………シャッキーンってなってる前髪シャッキーンって。アイロンかけてんのそれ?
†死人†(Lv.14)「今宵の月が紅く染まりし時 闇の輪廻は千の雨となり其方に降り注ぐだろう!」
『ルーナに85のダメージ!』
痛い痛い痛い痛い!!!すごい痛い!!!!色んな意味ですごく痛いわよあんた!!!!!!大丈夫!?それ数年後にめちゃめちゃ恥ずかしくなりそうだけど本当に大丈夫なの!?
†死人†(Lv.14)「影の世界の旅人よ 音と光は…………」
あああやばいやばい!!次の攻撃受けたら流石に負けちゃう!!ツッコんでないで私も攻撃しないと!!!
『ルーナの切り裂き攻撃!詩人に95のダメージ!』
よし!!!このまま連続攻撃いくわよ!!!!!!はああああああああああ!!!!!
†死人†(Lv.14)「それらはやがて幻想となり 無限の世の罪人に…………」
……………………。
…………。
……。
数年後。
待ちなさい冒険者!!!!私はこのエリアのボス…………ってまたアンタかい。
詩人@エリカ命(Lv.21)「君は花 僕の心に咲き誇るから 君は鳥 僕の心をあの空へと連れていってくれるから」
あぁ……彼女できたんだ………へぇ……良かったわね。あの感じから無事卒業できて。あれもうすっごく痛かったから。
詩人@エリカ命(Lv.21)「※ 君の笑顔のためならー♪僕は死んでもいいと思えるよー♪」
『ルーナに250のダメージ!』
うわあサビに入った!!!!これ歌詞だったんだ!!!!痛い!!やっぱ痛い!!!!これはこれで別の感じで痛い!!!!痛みがリフレインしてくる!!!!
詩人@エリカ命(Lv.21)「Yo!初めてのデート繋いだ手と手!見つめ合った目と目!もう戻れないぜお前抜きの人生!欠けたパズルはお前がいて完成!」(ダミ声)
いやああああああ一人しかいないのにラップパートまで入れてるううううううう!!!!!
詩人@エリカ命(Lv.21)「ねえ今どこでなにしてる?君のいない夜は長くて寂しい 君もそうだと私は嬉しい なりたいな君の最後のピースに」(裏声)
アンサーパートきたあああああああ!!!!全部一人で歌ってるうううううう!!!いやああああああ痛い痛い痛いよおおおおお!!!!!
てか今気づいたんだけど結構HP減ってる!!!!やばい!なぜか結構ダメージ受けてる私!!!!だから痛かったのかな!?いや違うか!!
でも流石に今日は逃げよう!!なんかこれ勝てない気がするもん!!!
覚えてなさい詩人!!!!
……………………。
…………。
……。
数年後。
ついに見つけたわよ詩人!!!前回私はあなたから逃げたことでせっかく掴んだエリアボスの座を降ろされた…………だから今回はあなたにリベンジして再びボスに返り咲いてみせるわ!!!!
しじん(Lv.35)「しっぱいしてもいいじゃない かっこわるくても ないちゃっても それがあなた そのまんまがあなたなんだよ しじん」
…………あー……そっち系にいったかぁ………….なんか随分雰囲気丸くなったっていうか、心なしか顔も穏やかに……っていうかあなたこの前の時の彼女とはどうなったの?
『ルーナの攻撃!!詩人に890のダメージ!』
えっ?あっ、私今なんかした?
しじん(Lv.35)「…………ぼくたちはね かこをふりかえっちゃいけないんだ それはいまのじぶんをひていすることになるからね たいせつなのはさやしさと」
フラれたんだ?
『詩人に1560のダメージ!!!』
しじん(Lv.35)「な……なかないんだ ぼくはもうなかないって…………」
ほらほらどうしたの!さっきの穏やかな顔は!?今回はラップないの!?ていうか泣いてもいんじゃなかったの!?
『詩人に2212のダメージ!』
しじん(Lv.35)「うわああああああああああああああ!!!」ダッ
あっ、逃げた……流石にちょっと言いすぎちゃったわね…………。
……………………。
…………。
……。
10年後。
おやおやこんなところまでどんな冒険者が来たかと思ったら………………ずいぶん久しぶりね詩人…………詩人?
1000101001101001(Lv.68)「110110000010111 100111011011000 11000001000100 11000001011111」
えぇ………ちょっ……なにがあったのよ……なにがどうなったらそうなるのよアンタそれ…………。
1000101001101001 (Lv.68)「1000101000000000 11000001001000 11000001101010 11000001000100」
『詩人の攻撃!!!!ルーナに10010のダメージ!』
グッ……ちょっとなに言ってんのかさっぱりわかんないけど強くなってんのは確かね。もはやこれ詩でもなんでもないと思うけど。
でもね詩人、私はもう魔王軍の幹部の一人よ。あなたと同じように私も強くなってここにいるの。それくらいじゃ怯まないわよ。
次は私の番!!!!
『ルーナのメテオレイド!!!詩人に13657のダメージ!!』
1000101001101001(Lv.68)「101010000011011 11000001001100」
ギルガメイドクラッシュ!!!
1000101001101001(Lv.68)「101100101111101 11000001001101」
なんの!!ソウルイートレクイエム!!!!
1000101001101001(Lv.68)「110000100011011 11000001010111 11000001100110 11000010001011」
……………………。
…………。
……。
30年後。
フフフ…………よくきたな冒険者…………いや、詩人よ!!!!!!
あなた……じゃなかった貴様の相手はこのわたs…………我輩!新魔王ルーナ様だ!!!!!…………ちょっと普通に喋っていいかしら……?慣れないのよこの魔王トーク。
………ええと………なんだか久しぶりね詩人。どうかしら魔王となった私のこの姿は。恐ろしいでしょう?
詩人(Lv.100)「美しい…………」
えっ!?
詩人(Lv.100)「世界の果ての絶望に揺れても 朝の小鳥のさえずりに涙を落としても 人の胸に寄る心は一つ 世界は美しい」
あぁ……そういうあれね……そうねあんたもうレベル100だもんね………何周か回ってそういう感じなったのね。
詩人(Lv.100)「なれど幾星霜を経て 気付くは 不可思議なる己のこの心の揺らぎ」
あなたとはもう何度もやり合ってきたけどこれで最後ね。下級モンスターでしかなかった私は今は魔王。そしてあなたは世界最強の冒険者であり詩人。今日のこの戦いがこの世界を決める。あなたが私を倒して世界を平和にするか、私が勝って世界を支配するか。二つに一つよ。
詩人(Lv.100)「そして この夜空を照らす光に誘われ 私はまたここに立っている」
空…………あぁ……素敵な満月ね…………最後の戦いにふさわしいわ。
さあ詩人………決着の時よ。
詩人(Lv.100)「流麗に千なる言葉を降らせても 情の一つも伝わぬ 詩い人の愚かさ」
はあああああああああああ!!!!!!!!
詩人(Lv.100)「これも宿命 致し方なく…………」
……………………。
…………。
……。
数時間後、死力を尽くし戦った詩人とルーナは、二人とももう動くことすらできずに仰向けに倒れていた。
ハァ……ハァ…………ねえ……詩人………あなたの勝ちね。だって私はもう指一本とて動かすことはできないもの…………こうして声を絞り出すだけで精一杯。そしてこの声ももうすぐ…………。
詩人「……………………」
そっか………あなたも…………やっぱり私達、最後まで決着をつけることはできなかったわね。でもなんだろう、不思議な気持ち。痛いし苦しいし、勝てなくて悔しい筈なのに辛くはない。こんな感覚になるなんて…………。
詩人「………………………」
……詩人、今だから言うけどあなたの言ってることはいつもわけわかんなかったわ。フフ……ごめんなさい。でもね、わけわかんないはずなのにあなたの色んな気持ちが戦う度にわかったの。言葉って不思議ね。
詩人「………………………」
そんなあなたと何年も戦っているうちに敵であるはずのあなたに不思議な想いを抱くようになってしまって……でも、私は魔物だから………この気持ちをあなたに伝える言葉がわからない………詩人、あなたならどんな言葉で表現するかしらね…………。
詩人「………………………」
ねえ、詩人…………私は生きたい。1秒でも長く、誰よりも強く、そう思って今日まで戦ってきたわ……でも、今は……今はね………なんでだろう……あなたとなら、私は……わたし……は…………。
詩人は黙ったまま震える手で空を指さす。私はぼんやりとその先を見つめる。
緩やかに閉じていく意識の中、彼は私に最期の魔法を唱えた。
掠れた、優しい声で。
「月が……綺麗ですね……」




