勇者の首トンに思わずドキッとしちゃう魔王の話
ほう……もうこの魔王の間まで来たか……早かったな勇者。
しかしお前もここまでだ!ワシが捻り潰してくれるわ!!!
と、言いたいところだが勇者よ、お前の相手はワシではなくこの魔王軍幹部の二人『ギガデス』と『ギガリカ』だ!!
フフフ……このギガデスとギガリカはまさにワシの両腕。姫を返して欲しければまずこの二人を倒してみろ!!さあやれ!まずはギガデス!!!!
ギガデス「ギエエエエエエエエエエ!!!!!!」
勇者「すまない」トンッ
ギガデス「ギエラッ……」ガクッ
なんだと!?あのギガデスを一撃で!?
ええいただの偶然だ!ゆけギガリカ!!!
ギガリカ「ギエエエエエエエエエエ!!!!!!」
勇者「すまない」トンッ
ギガリカ「ギエラッ……」ガクッ
こいつ!!いつの間にギガリカの後ろに…………!?
なるほど……流石勇者だ……ここまでたどり着いただけのことはある……まさかこの二人が一瞬で気絶させられるとはな…………。
その力に免じてこの魔王たるワシが直々に貴様を葬ってやろう……!さあゆくぞ勇者!!ワシとお前の最終決戦だ!!
……………………ちょっと待て………お前……まさかワシにも手刀する気じゃないだろうな。なんか構えてるけど。
その……首トンってやってガクってなるやつ……さっきあの幹部の二人にやってたやつ……えっ、やっぱりお前ワシにもアレやるつもりだったの?
待って待って待って……あれって幹部の二人が邪魔だったからワシとの戦いに集中するためにお前らには眠っててもらうでー的なやつじゃないの?メイン攻撃なの?
勇者「すまない」ブンッ
うおっ…………あっぶなあああああああ!!お前今ワシ喋ってんだろうが!!!なに一瞬で後ろに回り込んでんだこのバカ!!速いんだよ!!!
てかワシの反射神経すご!!!あんなスピードでしゃがめるんだワシ!!!!!
ていうかお前マジで一旦ちょっと待て!一旦話し合おう!ね?……OK?大丈夫?もう回り込んだりしないね?ワシ喋っていいね……?
あのさ……一応ワシ魔王なわけじゃん?この世界の悪の親玉だよね。で、お前は勇者なわけで……だからこの戦いってすごい歴史に残る戦いになるわけでさ……それをお前……手刀ってお前…………せめて剣くらい抜けよお前……。
ていうかさ、たとえ手刀で倒したとしてもそれってアレでしょ?気絶してるだけなんでしょ?
それじゃあワシ起きちゃうじゃん。ダメじゃんワシ起きたら。永眠させなきゃ。
あー……まあ確かに倒さなくても姫は助けられるけど……うん、まあ、囚われの姫を助けることが王様からの命令だもんね。それで来てんだもんね。いや、理屈はわかるよ?わかるんだけどさ……せめて魔王くらいは倒せよ。
えっ、なに最近の子ってみんなそんな感じなの?クエストだけ淡々とこなせたらそれでいいみたいなスタンスなの?宝箱とか全部開けないタイプ?
なんか……こうもっと勝負にこだわったりしないの?せっかく戦えるんだからそんな気絶とかさせないで真正面から正々堂々向き合ってさ……いやまあ、夜な夜な城に忍び込んで姫を攫って人質にする戦略とってるワシが言うのもなんだけどさ。
そういえば勇者さ、魔王城に入ってきてからここまで来るのめちゃめちゃ早くなかった?魔王城に勇者来たって一報聞いてから、勇者ここに来るまで5分も経ってない気がする。一応この魔王城、ここ魔王の間がある最上階にくるまで徒歩で15分くらいかかるはずなんだけど。
ワシびっくりしたもん。勇者が来るまでに食事済ませとこうって思って炊飯器のスイッチ入れて振り返ったらもういるんだもん勇者。ギガデスとかまだあれメイク途中だったんだからね?
てか魔王城結構な数の魔物いたと思うんだけど……もしかしてここまで全部手刀で気絶させてきたの……?
えっ、門番も?ゴーレムキングも?四天王も……四人とも?えっマジで?なんなのタイムアタックとかやってんの?やめてよ人ん家でそういうことすんの。
……ごめんちょっと一つ聞いて良いかな?ワシ、そのトンってやってガクーってなる技の仕組み?というか原理?よくわかってないんだけどさ………なんかイメージ的にはツボ押しみたいな感じだよね?ツボっていういかなんか血管?腺?的なものを刺激して気絶させるみたいな……この認識で合ってる?
じゃあさ…………スライムとかどうやったの?だってあいつら血管とかツボとか……もっといえば首ないよね首。あれどうやったの。
えっあいつらツボあんの!?本当に……?えっ首すじもあんの?どこ!?……あー結構感覚的にわかるもんなんだ……あれか、料理人がどんな食材にも包丁を入れるポイントがあるみたいな…………そういう感じに近いのかな。へー…………て、あれ?勇者どこ?
勇者「すまない」ブンッ
あっっっっぶねええええ!!だからいきなり回り込んでくるのやめろお前!!ちょっと話に飽きてんじゃねえよ!!!魔王相手にめんどくさくなってんじゃねえ!!びっくりし過ぎて気絶するかと思ったわ!!
でもお前あれだな。自分で気づいてるかわかんないけど絶対手刀する前「すまない」って言うよな。ぶっちゃけあれで避けれてるとこあるからワシ。直した方がいいぞその癖。誰に謝ってるか知んないけどさ。それ直さない限り絶対ワシに当たんないよそのしゅt
勇者「……ッない」ブンッ
あぶねえwwwwwちょっとすまない我慢してんじゃねえよwwwwwwwwッないってなんだよwwww
でもやっぱ出ちゃうんだなそれ。どうしても謝っちゃうんだな。謝るくらいなら初めからしなきゃいいのに。
あの、悪いんだけどさ……この戦いだけその手刀なしにしない?
いやだって地味すぎるもん絵面が。さっきも言ったけど一応これこの世界の最終決戦だからね?それでお前、勇者が謝って魔王がしゃがんでって繰り返してるんだよ?なんかのバグじゃんもうそれ。だから普通の剣とか魔法とかなら好きに使っていいからさ、手刀だけやめて?ね?
え……魔法使えないの?剣も?……じゃあその背中に刺してる剣は……あっ、模造刀なんだ。なんで持ってんだそんなん。
てことはずっと手刀一本でここまできたってこと?ステータスも全部手刀に振って?…………えっ、アホなん?…………ああごめんごめん。
あっ、てことはその手刀めちゃめちゃ鍛えてるってこと?……ちょっと手見せてもらっていい?
うわっ!めっちゃ分厚い!手の側面だけめちゃめちゃ分厚くなってる!なんかこう……ピザみたい!!
あっ、じゃあちょっとさ……そこの壁手刀してみてよ!うん!思いっきりやっていいから!
……ん?なに?首トンってやるために鍛えた手刀だからそれ以外には使わない?
いや、その手刀の美学みたいなんはよくわかんないけどさ、とりあえず一旦それ置いとこうよ!一旦そのこだわり捨ててその壁に手刀してみてよ!お願い!一回だけ!一回だけでいいから!壁トンしてみて壁トン!
勇者「…………すまない」ガッシャーン
…………うおおおおおすげえええええ!!魔王城の壁に穴が空いた!!!!今にも崩落しそう!!!手刀一撃で!!ちょっとぐらついてる魔王城!!すげえ!!!!
いやー流石手刀だけでここまできただけのことはあるわ。すげえわ。アホだけど。
あー…………じゃあさ……手刀は使っていいからさ、首トンってやつだけ無しにしない?どうこれいい妥協点じゃない?
そうそうそう。首以外だったら全部OK。顔面もいいよ。スネもあり。全然あり。
首はどうにもなんないけど他の部分だったらワシ結構まだ耐えられるし、こう見えて結構体鍛えてるしワシ。
それでいて多分ギリ勇者勝つと思うわ。うん。ギリ死ぬワシ。
どう!?これよくない?これでいこうよ!ワシも勇者のその手刀を全身で受けてみたいし!…………よし!じゃあルール再確認ね。手刀の使用は認める、首トンは反則。OK?
じゃあ…………いくぞ勇者よ!!その鍛えられし手刀をもってこの魔王を倒してみよ!!!
うおおおおおおおおおお!!!
姫「二人ともやめてええええええええ!!!」
えっ、姫!?いつの間にここに!!!
姫「お願い勇者様……魔王を傷つけないであげて……。私、ここに囚われてはいたけど決して酷いことはされていないの。割と高待遇だったの……」
姫…………。
姫「だから私は魔王さんが傷つくところも……そして私を助けに来てくれた勇者様が傷つくところも見たくないの…………だからどうかここは安易な暴力に走らず穏便に話し合いでの解決を図っ」
勇者「すまない」トンッ
あっ
姫「ギエラッ……」ガクッ
お前勇者バカお前!!何やってんだよ!!!!!今いいとこだったろ!!なに姫に首トンしてんだよ!!!!…………恍惚の表情やめろお前!!出すもん出してスッキリしたみたいなその顔やめろ!!久しぶりに気持ちよく手刀できたからって喜ぶな!!!お前が今やった相手姫だぞ!!!首トンできりゃ誰でもいいのかお前!!
とりあえずお前……その姫片付けろよ…………始末しろって意味じゃないぞ?どっか安全な場所にどかせって言ってんの。その壁際とかに置いとけよ。嫌そうな顔すんなお前が気絶させたんだろ。かわいそうに姫エグい声出してたぞ気絶する時。
……………………。
えー……ちょっと中断したけど……続きやるか……うん。せっかくだしね。姫には悪いけど。
ゴホン……えーそれでは…………勇者よ!!その手刀でこの魔王を倒してみよ!!!
『パラ……パラ……』
……ん?なにこの音……?……あっ!!!!そこの壁!!!姫置いてるとこ!!さっき勇者が手刀した壁!!!!!!やばい!!崩れる!!!!!!うおおおおおおおおおお!!!!!!!!
姫「ギエッ」
『ガッシャーン!!!!!』
……………………。
……ハァ……ハァ……痛ッてて…………うん……なんとか大丈夫……姫も無事だと思う……ワシが思いっきり覆い被さっちゃったからまたエグい声出しちゃってたけど…………。
勇者「すまない」
えっ!?………………ああびっくりした普通に謝っただけか。このタイミングで首トン食らうのかと思って焦ったわマジで。
ふー……いや、勇者が謝ることじゃないよ。この壁に手刀させたのワシだし。姫ここに寄せとけって言ったのもワシだし。うん。ほんといいから、修理代とかも全然。気にしないで。
まあでも……流石になんかあれだね…………なんかもう戦う感じじゃあないよねこれ。うん。壁一つ無くなっちゃったしね、よくまだ立ってんなこの城。
うーん……今からこれ……どうしようかこれ…………。
『ピー!!ピー!!』
!?この音は!?今度はなんだ!?
『炊飯が終わりました。炊飯が終わりました』
あっ、ご飯炊けたのか。そういや早炊きにしてたわ。
あの……勇者さ……もうお昼食べた?あっ、まだ?…………あれだったら食べてく?……ほら、ワシもお腹空いたし……なんかもう戦う感じじゃないし……嫌だったら全然いいんだけど…………。
勇者「すまない」
えっ。
勇者「いただきます」
………………………………いやだからそれドキッてするからやめろってお前ー!!!




