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糞闘記

作者: 雪ん子

俺は今、猛烈にうんこがしたい。

どれくらいしたいかと言うと……いや、言葉じゃ言い表せないのでやめておこう。つまり、それほどしたいということだ。

お昼の弁当を食べすぎたのか、それとも何か悪いものを食べたいのか、理由は皆目検討つかないが、まぁそんなことはどうでもいい。

今すぐにでもトイレにヘッドスライディング……いや、ヒップスライディングしたいところだが、あたりを見渡すとだだっ広い田園が広がっていて、トイレなんて何光年先にあるんじゃないかと思えてくる。

野糞をすることも考えた、だが、一抹のプライドが俺の邪魔をしている。辺りに人の気配は全くなく、野糞をしたところで俺の人生に何の影響もないのだが、俺の人生の履歴書に野糞が追記されてしまうことに激しい抵抗がある。

そのため、自宅まで残り20分の道のりを俺は肛門に全神経を張り巡らせ、ぷるぷると足を震わせながら歩みを進ませている。

「くそ、くそ!」

決してうんこに掛けているわけではないが、俺の口からはそんな汚らしい言葉が漏れている。

もう漏らしてしまおうか、そんな反抗的な考えを抱いたこともあったが、俺の中の理性がギリギリでその考えを抑え込んでいた。

こんなところ同じ学校の人に見られたら俺のスクールカーストは地に落ちるどころが下水に流されてしまう。

周りに誰もいなくて本当に助かった。

「あれ、田島くんじゃん!」

「ふひゃ!」

ふいに後ろから声をかけられて俺はロケット鉛筆さながら飛び上がった。

人いるじゃん……びっくりしすぎて生まれて初めての声を発していた。

「どうしたの変な声だして、もしかして漏らしちゃった? なんちゃって!」

「そそそそそ、そんなわけないだろ!ははは!」

のっけからとんでもない冗談をかましてきたのは同じクラスの女子であり、学級委員長だった。

俺のような普メンと違ってスクールカーストの上位に位置する存在であり、通称人間スピーカーと言われている。彼女に伝わった情報は5G並みのスピードでクラス、いや、全校生徒に伝わることからこの異名が付けられている。つまり、俺の現状を1番バレたくない人間だ。

「い、委員長って家こっちだっけ?」

俺は平常心を装いながら会話を続ける。

「ちょっと違うんだけど、なんかこっちの方からゴシップの匂いがしてさ! 気になって来てみたら田島くんがいたってわけ!」

「ゴシップの匂いってなんだよ〜」

ジャーナリストなのこの子は? ゴシップの匂いって何!? うんこの匂いじゃなくて良かったけど。

「私のお父さんがジャーナリストでさ。面白いネタがあったら教えてって言われてるんだよね。んで、週刊誌に載せられるネタを提供するとお小遣いが貰えるってわけ! だから本気になって色々探しちゃうんだよ〜」

「へ、へ〜そうなんだ」

え、俺がうんこ漏らしそうなこと週刊誌に載るの!? そんなことになったら全校生徒どころか日本中から迫害を受けるんだけど。

そんな妄想をしている時、俺の腹からモンスターの咆哮のような唸り声が聞こえてきた。

ぐ、ぐぎゅるるるるるる。

「え、何!? 今の音!?」

委員長は目を輝かせながら周囲を見渡す。どうやらあまりに異常な音に俺の体内から出た音だとは思っていないようだ。

「な、なんだー! 今の音は!!」

俺も全力で誤魔化しにかかる。

「ね!? なんか変な音したよね!」

「ああ! とても人間から出るような音じゃないね! 特に俺みたいな奴からは絶対にでなそうだ!」

こういう時はやり過ぎなくらいがちょうどいいんだ。

しばらく2人で周囲をキョロキョロ見渡していたが、委員長は音の正体が分からず諦めたようだった。

「くそー! 一体何だったんだろうね」

くそー!とか言うのやめて。連想しちゃうから。糞がちらちら出入りしてるんだから。

「まぁ、しょうがないよ。もしかしてゴシップって今の音のことじゃないかな。もしかしたらこの辺りを調査したら未確認生命体とかいるかもしれないよ」

「それだったら凄いネタだよね。一応帰ってお父さんに伝えてみる!」

「そうした方がいいよ! 早く帰って伝えないと逃げちゃうかも!」

俺は委員長を帰らせることに必死になっていた。そう、さっきの腹の音は俺の身体が限界だという最終警報だ。後一歩でも動いたら確実にダムは決壊する。

「そうだね! じゃあ私、お父さんに知らせてくる! ありがとうね田島くん! じゃあね!」

そう言って彼女は俺の背中を力強く叩いた。

その瞬間、刺激に反応した俺の神経は一瞬気を許してしまった。

ぶりりりりりりりっ!

俺の身体から信じられないほどの轟音が鳴り響き、目からは一筋の涙が溢れた。

俺は闘った。戦い抜いたんだ。ただ、俺の負けというだけで……

そして、委員長のスマホからフラッシュが焚かれるのを確認して、俺の目の前は真っ白になっていく。

俺の人生の履歴書にうんこマンの文言が追加されたのであった。

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