モンスターと酒
ビールうま
「おっ、毎度!」
立ち飲みヤマちゃんの店主が愛想良く声をあげた。俺がカウンターに立つと、頼む前からハイボールが出された。
「つまみはどうする?」
「ポテサラとマグロの山掛けで」
アパートから歩いていける立ち飲み屋はヤマちゃんだけで、そこで晩飯を兼ねて飲んで帰るのは俺の楽しみの一つだ。今日は事務所に戻ると二ノ宮さんがやばそうだったので、営業車だけ置いて、こっそり直帰した次第だ。
「看板どうしたんですか?」
店の前の電飾看板は養生テープがぐるぐる巻にされている。
「いやー、昨日酔っ払ったお客さんが倒しちゃってね。でも暗いと休みだと思われちゃうから」
ヤマちゃんはポテサラを出しながら言った。ここのポテサラはいぶりがっことクリームチーズが入っていて酒との相性が抜群だ。
「立ち飲みで泥酔するお客さんなんて珍しいですね」
「常連のカメさんいるだろう?カメさん狼のモンスター化しちゃったらしくて」
「ええ?この前見かけた時は普通でしたよ?」
「それがさ、満月の時だけ狼になるみたいなのよ。昨日飲んでたら急に変身が始まって」
「それは大変ですね」
「狼になるとアルコールがてんでダメみたいでね。ワオワオワオって言いながら看板に突っ込んで倒れちゃった」
マグロの山掛けがポンとカウンターに置かれた。ぶつ切りのマグロだけどサシが入っていて濃厚で、長芋と絡めると絶品なのだ。
「その後救急車を呼んだんだけど、普通の病院に行くのか動物病院に行くのか揉めたみたいよ」
「あー、確かに!それは悩む」
「忽滑谷さんの会社とか、モンスター化した人いないの?」
「1人いますよ。事務の女の人がモンスター化してます」
ハイボールを飲み干すと、すかさずヤマちゃんは冷酒グラスをカウンターに置き、日本酒を勝手に注ぎ始めた。
「これ、今日仕入れたやつ。美味しいから、飲むでしょ?」
「勿論頂きます」
「で、その人は何のモンスターなの?」
「それがよく分からないんですよねー。身体はそんなに変わってなくて。目が赤くて髪が銀色になった程度で」
「えっ、本人に聞いちゃえばいいのに」
「ダメでしょー。本人気にしてるかもしれないですし、容姿にとやかく言うのはトラブルの元ですよ。まぁ、ただ、、」
「ただ?」
「前よりも凄く綺麗になってるんですよ。その人。他の男性社員とか彼女を見るとぼんやりして仕事の手が止まっちゃうぐらいに」
「そりゃー凄い!今度連れて来てよ、忽滑谷さん」
「無理ですよー!お店が回らなくなっちゃいますよ!見惚れて」
ヤマちゃんにのせられて2杯目を飲んでいると、カウンターの隣に別のお客さんが入ってきた。
「ヌカリヤサン、ヒサシブリー」
「えっと、平良さん?」
「セイカイ!!」
豚のモンスター化した人の名前が分かった理由は単純で、前と同じバッグを持っていたからだ。平良さんは元々恰幅の良い中年女性だったので、オーク化していてもそれほど違和感がない。
「タイショウ、ビールトサシミモリアワセ」
平良さんは出てきたビールをごくごくとジョッキの半分まで一気に飲み、ブヒーっと息を吐いた。
「モー、キョウモタイヘンダッタワ」
「何かあったんですか?」
尋ねた俺が悪かった。それから平良さんの独演会が始まった。
プリン体気にしていた筈なのに、、