お客様
さくさく供養
ウチは水回りのリフォームをメインに行っている会社だ。今日のお客様はトイレリフォームの相談だったのだが。。
「モット、ベンザガオオキイノナイノ?」
豚のモンスター化した奥さん、つまりオークさんはパンフレットを見ながらそう聞いてきた。元々はウォシュレットが故障したから交換という話だったのだが、モンスター化で要件が変わってしまった。
「ちょっとウチでは取り扱ってないですねー。お相撲さん用の特注品じゃないと無理かもしれませんねー」
「アナタ!バカニシテイルノ!?」
「えっ、いえ。そんなことはないのですが、、」
「バ、バ、バカニシテ、シテ、シテイルルルル!」
オークさんが突然ソファーから立ち上がり襲い掛かってきた!
ワイシャツの襟首を掴まれて身体が宙に浮く。苦しい。やばい。俺は咄嗟に右手に持っていたボールペンをオークさんの耳に刺す。
「ピギギャャャー!」
そんな声だすの?解放された俺はとりあえずリュックだけもって玄関に走る。
「マテエエエ!」
やばい怖い!靴履いてる時間はない。俺は靴下のまま外に出て、社用車に飛び乗る。よし、エンジン始動!
「バカニシタナナアアア!」
「事実を言っただけですよー!」
アクセルベタ踏みで飛び出し、バックミラーでオークさんの様子を確認。足は遅いようで直ぐにその姿は見えなくなった。
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国道沿いのショッピングモールまで車を走らせ、やっと一息ついた。ババアとオークさん、モンスター化した人はちょっとしたことで激昂して襲い掛かってくるようだ。二ノ宮さんも怒らせたらやばいのかも。ますます会社に戻り辛いな。
自分を見直すとワイシャツはくしゃくしゃだし、何より靴がない。ちょっと恥ずかしいけれど、靴下でショッピングだ。
駐車場のちょっとした小石を踏んでは飛び上がりながらショッピングモールに入ると、客はまばらだが大体の店はやっていた。
大手チェーンの靴屋さんも営業中。恐る恐る入ると、大丈夫。店員は全員人間のままのようだ。ホッとしながらビジネスシューズのコーナーに行き革靴を物色する。2足まとめて買うと安いのか。うーん、また今日みたいなことがあるかもしれない。思い切って2足買うか。そう思った時だった。
「サイズガナイダト!?」
「申し訳ありません。30センチまでしかウチには置いてないです」
トカゲのモンスター化した男?が女性店員に詰め寄っていた。
「サガセバアルダロ?カクシテイルノカ?」
「いえ、本当にないんです」
便座と同じパターンだ。見かねた男性店員が二人に割って入る。
「お客さん、無いものは無いんです。そもそもトカゲが靴を履く必要あります?」
「ナンダトオオオ!」
リザードマンが男性店員の胸倉を掴んで引き寄せた。大口を開けて今にも喰いつきそうだ。女性店員は腰を抜かしている。このままでは靴を買うどころではないな。俺はリュックからバールのようなものを取り出し、リザードマンの背後についた。そして床に垂れ下がっている尻尾の先をめがけてバールのようなものを振り下ろす。
「ゲギギョョョー!」
そんな声だすの?リザードマンは男性店員を投げ捨て、ゆっくりこちらに振り返る。怒りに震えているのがわかる。よし、逃げよう。
「マテエエエ!」
今日は追いかけられたばかりだな!客のまばらなショッピングモールは走りやすいがそれは相手も同じ。振り返ると前傾姿勢でリザードマンが走っている。さっきのオークさんより明らかに速い。人気のないゲーセンコーナーに逃げ込み、しゃがんで息を潜める。
「ドコダアアア!」
リザードマンが声を荒げ、何かのゲーム機をバンバン叩いている。怒りはまだおさまっていないらしい。
「デテコイイ!」
うーん。マズイ。このままでは見つかる。余計なことするんじゃなかったかなぁ。でも靴買いたかったし。
「オキャクサン!ナニヤッテルンデスカ!ゲームキヲユラサナイデクダサイ!」
リザードマンとはまた違う声がした。ゲーセンコーナーの店員か。
「ウルサイイ!」
「ユラスナヨオオオ!」
潜望鏡のように顔を上げると、リザードマンと牛のモンスター化した男が喧嘩を始めていた。2人ともガンガン殴りあっている。チャンスだ。俺はゲーセンコーナーから這い出し、急いで靴屋さんへ。
「さっきは助かりました!ありがとうございます!」
男性店員はそう言い、随分と割引してくれた。どうやら店長だったらしい。リザードマンの行方を聞かれたので答えると、指示された女性店員が何処かに電話をしていた。警察だろうか。
ようやく靴をゲットした俺は時計を見て焦る。やばい、次の訪問の時間が近い。何度も頭を下げる店員を尻目に駐車場へ急いだ。