やはり現実
さくさく供養
やはり現実だ。酔っぱらって幻覚を見たわけじゃなかった。
壊されたままの玄関を見て昨晩のことをトレースする。ババアがモンスター化して意外と臭くなかった。あれ?何か抜けている?まぁいいか。驚くほど罪悪感なかったし、あれはモンスターだし、正当防衛だし。
そんなことより目覚まし代わりのテレビが喧しい。
"人類がモンスター化!!"
知ってる知ってる。すぐそこにまだ死体が転がって、いないな。血溜まりごと綺麗さっぱりなくなっている。誰かが処分してくれたのだろうか?
ニュースが映し出すモンスターは様々で豚のモンスター化していたり牛のモンスター化していたりなんでもありだ。1番のトピックは国のトップがモンスター化したことのようだ。嫌いな奴だったからどうでもいいが、河童化していたのには吹き出した。
食い入るようにテレビを見続けていたらもう7時半。ここで問題になるのは、俺は今日会社に行くのか否か?だ。
世界は大パニックに思えるが、会社は休みにしますなんて連絡は入っていない。社長にメッセージを送っても音沙汰なし。移動中だろうか?
もう何年も無遅刻無欠勤で有給休暇すら取っていないのに、今日休んでしまうのはちょっと勿体ない気がする。会社までは自転車で20分ほどだ。休みなら休みで帰ればいい。行ってみるか。
窓から外したカーテンを玄関に打ち付けて修繕完了。別に盗まれるものもないし、後で管理会社に連絡しておけばいいか。
包丁に鍋蓋、そしてバールのようなものをビジネスリュックに入れて自転車に跨る。あちこちで悲鳴が聞こえるが、それはそれ。俺は俺。日本のビジネスマンだ。レッツ社畜。会社へゴー。
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会社はビルの3階で1階はコンビニだ。いつものようにコンビニで菓子パンとコーヒーをピックアップ。レジに向かおうとするがどうも様子がおかしい。
いつもの無気力女店員がいつものように髪を弄っているが、よく見るとその髪は蛇だ。目が合うと石になるかもしれない。俺は足早にセルフレジに向かい、会計を済ませてビルを駆け上がった。
「おはようございます!」
俺はわざとらしいくらいに元気な朝の挨拶をした。これは社畜イストとして当然の振舞いだ。朝から全力で会社に忠誠心を伝えるのだ。
「オハヨウ」
1番入り口に近い二ノ宮さんから挨拶が返ってきたが、ここでも様子がおかしい。おかしいというか、もう完全に別物。髪は銀色で瞳は紅く染まっている。もともと綺麗な人だったけどちょっとレベルが違う。怪しい雰囲気を纏った人外の美しさだ。
うちは俺も含めて社員6人の小さな会社だが、モンスター化したのは二ノ宮さんだけのようだ。社長以下、みんな人間の姿で出勤している。いやー、会社来てよかった。二ノ宮さんですら来ているのに俺が休んだら社畜の名折れだ。
しかし二ノ宮さんは落ち着いているな。アパートのババアと違って襲い掛かってきたりしない。そういえばコンビニの無気力女店員もいつもと変わらない様子だった。アパートのババアは元々狂っていただけなのかもしれない。
「あの、二ノ宮さん」
「ナニ?」
「えーと、体調は大丈夫ですか?」
「チョット、ノドガカワクグライヨ」
「あー、そうなんですね」
これは難しい。容姿のことでとやかく言うのは現代社会ではタブーだ。仕事が出来るならモンスター化していても問題ないのか?社会人としての度量が試されている気がする。周りを見渡すとみんな様子を伺っていて無言だ。本人が普段通りだと周りもそれに釣られて普段通りになってしまう。なんだか会社にいるのも気不味いな。
「ちょ、ちょっと早いですけど、予約のお客様の所へ行ってきます!」
俺はコンビニの袋を持ったまま会社を出た。