事件
"昨夜午前0時頃、○○市の路上で男性が襲われる事件が発生しました。男性は何者かに首筋を噛まれた後、意識を失って倒れているところ通行人に発見されました。男性の命に別状はありません。警察は──"
「○○市って、ここじゃん」
通勤前、いつもの習慣で付けていたテレビから随分と身近な話題が聞こえてきた。吸血鬼を思い浮かべるような事件だ。
「って、急がないと、遅れる!」
ついつい見入ってしまったが今日は寝坊してかなりやばいのだ!慌ててテレビの電源を切り、外に出る。
いい歳の大人が自転車を立ち漕ぎするのはなかなか恥ずかしいものがある。が、遅刻するより遥かにマシだ。
ヘルメットを被った自転車通学の中学生をごぼう抜きにする。いつもは20分かかるところを10分に短縮し、息を荒くして事務所に飛び込むと、当然のように俺以外は出社していた。
「忽滑谷君、珍しいね!ギリギリに出社なんて」
何故か社長は嬉しそうだ。
「すみません。寝坊した上にテレビのニュースが気になっちゃって」
「あっ、あのニュース?男性が首を噛まれたっていう」
あっ、やばい。この話を社長に振っては駄目だ。
「あれ、やっぱりモンスター化した人が犯人なのかね?忽滑谷君、どう思う?」
俺に聞くなよ!
ちらりと二ノ宮さんと八戸さんをみる。二ノ宮さんはポーカーフェイスでPCのモニターを見ているが、八戸さんとはサングラス越しに目が合った。
「モンスター化シタ人ガ犯人ダト思イマスヨ」
八戸さんがさくっとインターセプトしてくれた。なんて大人なんだ。
「首ニ噛ミ付クノハ、普通ノ人間ニハ無理デス。モンスター化スルト、衝動ニ引ッ張ラレル事ガアルンデスヨ」
「へー、そうなの?」
社長が阿呆のように聞く。
「ハイ。マァ、普通ノ人間ニモ有ルデショウケド」
「確かにねー。ウチの近所に下着泥棒が入ったのと同じだね」
なんか違うよ!社長!!
「ソンナ感ジデス」
はぁ。八戸さんが良い子過ぎて辛い。助けを求めるように二ノ宮さんを見ると、相変わらずカタカタとPCに向かっている。
そういえば最近は二ノ宮さんが社長や他の営業に何かすることはなくなった。モンスター化したての頃はいつも事務所にいる人をトロンと魅力していたのに。
八戸さんがいう、衝動をコントロール出来るようになったのか?それとも何処か別のところで発散しているのか?
社長が黙ると、二ノ宮さんのタイピングの音がやけに事務所内に響いた。




