立ち飲み屋とウワバミ
「新メニューのイカの肝あえ」
そう言って立ち飲みヤマちゃんの店主、ヤマちゃんはカウンターに小鉢を置いた。パッと見はイカの塩辛だ。作り方が塩辛とは違うのか?素人には分からない。
「八戸さん、苦手なモノある?」
「無イデス。何デモ食ベマスシ、何デモ飲ミマス」
「おお、頼もしい。じゃ、大将。オススメの日本酒を2つよろしく」
あいよっと返事があった後、見たことのない日本酒の瓶がカウンターに置かれた。ラベルには女性のイラストが描かれている。
「これ、福井の酒なんだけど、有名なイラストレーターとコラボした限定品なんだって。記念に飲んでって」
グラスに並々注がれた日本酒に口を持っていき、溢れないように啜る。横を見ると、勝手に酒を飲もうとする頭の蛇を八戸さんが追い払っていた。
「お酒、好きなんだね」
「日本酒ニ目ガナクテ」
それは蛇の話?それとも八戸さん?
「しかし、企画会議通って良かったね。アイデア料貰わないと」
そう。今日は八戸さん考案の肛門熱探知式ウォシュレットが企画会議を通ったことのお祝いなのだ。
「フフフ、ソウデスネ」
ちょっと酔っ払ったのか、八戸さんの表情が緩い。
「ウチの社長、あのトイレメーカーの出身なのよ。だからあそこの営業とも距離が近くて」
八戸さんは酒を飲みながらウンウンと頷く。グラスはもうほとんど空だ。
「大将、八戸さんにおかわり」
あいよっと、空いたグラスに日本酒が注がれた。今度は蛇にも飲ましている。
「八戸さんがウチに入ってくれて良かったよ」
「本当デスカ?」
「本当だよ!みんな良い子が入ったって言ってる。何事にも積極的で」
「嬉シイデス」
「コンビニで働いてた頃はボンヤリした子だなーって思ってたんだよね。実は」
「コンビニノ頃ハ、凄ク眠カッタンデス。他ノバイトト掛ケ持チシテテ」
「ええっ!そうだったの?ごめんごめん。ボンヤリとか言って」
「平気デス。実際、ボンヤリデシタシ」
話している内に酒がなくなってしまった。美味い酒はこれだから困る。
「大将、別のオススメある?」
あいよっと出されたのはまたもや見たことない日本酒だ。
「これはロックで飲む日本酒なのよ!味の変化を楽しんでね!」
ロックグラスに注がれた日本酒は氷でまろやかさが増したようで美味い。
「ソレ、私モ飲ミタイデス」
もう飲み干したの?八戸さんが空いたグラスをカウンターに置くと、ロックグラスが代わりに出てきた。
「ワァ、美味シイ!」
今日1番の笑顔だ。
「いやー、本当によく飲むねぇ。お姉さん。見てて気持ちいいよ!」
「ハイ!有リ難ウゴザイマス!」
「忽滑谷さん、毎回お姉さんを連れて来てよ!」
「ははは。考えときます」
ぉぉぉおおおぉぉ!財布!!
「今日ハ御馳走サマデシタ!」
すっかりご機嫌の八戸さん。歩いて帰れると言うことで店の前で別れることにした。危なくない?と尋ねるのは野暮だ。
「明日遅刻しないでねー」
「フフフ。平気デス。今日ハ控エマシタカラ」
普段はどんだけ飲むの!?その笑顔に戦々恐々としながら帰路に着くのだった。




