モンスター女子会
定時を2時間程過ぎて戻ったところ、事務所にはまだ明かりがついていた。コンビニでコーヒーを買ってから事務所に上がると中から女性同士の話し声が聞こえる。つまり、二ノ宮さんと八戸さんだ。
うーん。事務所に入るか迷う。
2人の会話の内容は分からないけれど、盛り上がっている雰囲気は伝わってくる。まさに女子会、ガールズトーク。その中に割って入る勇気がない。
いや、しかし見積もり一本作ってから帰りたいんだよなぁ。
そんなことを思いながら1分ぐらい扉の前にいただろうか。不意に人の気配がして扉が開かれた。
「忽滑谷サン、何デ入ッテ来ナインデスカ?」
「えっ、いや、なんか盛り上がってたからちょっと気が引けて……て、最初から気付いてた?」
八戸さんの頭の蛇がシャー!と返事をする。
「熱ヲ感ジタノデ。忽滑谷サンノ体温ダッタカラスグ分カリマシタヨ」
えー!体温で個人を識別出来るの?ちょっと八戸さんの蛇、優秀過ぎない?
「はははっ──八戸さんには敵わないなぁ」
「二ノ宮サンハ15分グライ前ニ、忽滑谷サンガ帰ッテ来ルッテ言ッテマシタヨ?」
どんな能力だ!?二ノ宮は色々と謎が多過ぎる。
「……とりあえず、戻りましたー」
「「オカエリナサイ」」
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中途半端に7台並べられたOAデスク。二ノ宮さんと八戸さんは隣同士だ。
カタカタと見積もりを作っていても、静かになってしまった2人の様子が気になる。やはりお邪魔だったか。
「明日、雨らしいですよ。カッパで自転車乗るの嫌なんですよねー」
「「ヘー」」
天気ネタは鉄板の筈なのに。
「あっ、隣のビルの一階、飲食店が入るらしいですよ。イタリアンって話です」
「「ヘー」」
全然喰いつかない!ランチだよ?ランチネタふってるのに!なんなの?パスタ食べないの?
「忽滑谷クン、モンスター化シタ女ノ子ッテドウ思ウ?恋愛対象ッテ意味デ」
えっ。なにそのド直球。そんな話題で2人は盛り上がってたの?
「正直な意見になってもいいですか?今は業後だし完全に個人のプライベートってことなら答えますけど」
「ソレデイイワ」
「オークみたいにがっつり変わってしまった人は無理ですけど、そうじゃない人は個人個人の違いとしか思ってませんね。その人が魅力的なら当然恋愛対象です」
「「ヘー」」
なんだよ!めちゃくちゃ勇気を出して発言したのに!!
「よし、見積もり出来た。今日は帰ります。お疲れ様でした!」
帰り道。自転車を漕ぐ脚にいつも以上の力がこもってしまったのは言うまでもない。




