八戸さん
週一定期!
リクルートスーツにサングラスをかけた八戸さんの表情は良く分からないけれど、緊張しているようだった。頭の蛇も静かだ。応接室のソファーに浅く座り、背を伸ばしている。コンビニで働いている時の無気力さは感じない。
「あれ?どこかで会ったことあります?」
社長はあまりコンビニを利用しないから、うろ覚えらしい。一度見たら忘れないと思うけどなぁ。
「シタノ、コンビニデ、バイトシテマス」
「ああ!やっぱりそうだよねー。見たことあると思ったんだよ。ね?忽滑谷くん」
「私はすぐ気付きましたよ!いつもお世話になってます」
「コチラコソ、センジツハ、アリガトウゴザイマシタ」
「えっ、何!?2人は仲良しなの?」
社長が好奇の視線を向けてきた。
「ああ。この前、コンビニに変な客がいたんですよ。運悪く他の店員さんも居なかったみたいなので、ちょっとお手伝いしたんです」
「タスカリマシタ」
八戸さんがちょっと笑った気がした。
「やるじゃないか、忽滑谷くん!それでこそ我が社の社員だ!困っている人を見つけたら、すぐに行動する。これはウチの仕事でも非常に重要なんですよ」
「ハイ。ワタシモ、ソウオモイマス」
「八戸さんはなんで弊社を希望されたんですか?」
「モンスターカシテシマッタノデ、オナジキョウグウノヒトノ、キモチガワカリマス。オヤクニタテル、ノデハナイカト、オモイマシタ。アト、イエカラ、チカイノデ……」
「おお、近所なんですね。やっぱり職場は家から近い方が良いですよねー。私も自転車で通えるのでウチに就職したようなもんですし」
「ええっ!そうなの?忽滑谷くん!リフォーム業界に興味があったんじゃないの?」
「今は凄く楽しいですけど、入社前はそんなこと分かりませんよ!」
「……ショックだ」
「フフフ」
社長と俺のやり取りを見て八戸さんは笑い、それまで目を瞑って静かにしていた頭の蛇達がむくりと起きた。
それから幾つか社長からの質問があり、その後に勤務条件などを説明して八戸さんの面接は終わった。
「忽滑谷くん。どうだろう?八戸さんは良いと思うんだけど」
「私もいいと思いますよ。落ち着いていて接し易いですし」
「ただ、ちょっと気になることもあるんだよねー」
社長が腕組みしながら首を捻った。
「サングラスのことですか?」
「いや、八戸さんの給料って1人分でいいんだよね?蛇の分は考えなくていいよね?」
やっぱり社長はケチだった。




