朝のコンビニ
週一定期!
休み明けの出勤。重い身体で自転車を漕ぎ、やっと会社のあるビルにたどり着いた。いくら俺が社畜とはいえ、休みの次の日は怠いのだ。
いつものようにビル1階のコンビニに入ると、いつもと雰囲気が違った。
「ねーちゃんよー、サングラス掛けたまま接客ってなめてんのか?」
うわ。無気力女店員がヤカラに絡まれてる。店員の頭には蛇がいるんだから、サングラスなんて些細な問題だろ。
「……159エンニナリマス」
「人の話を聞いてんのか!?」
無気力女店員の頭の蛇が目覚めてうねうねと動き、ヤカラを威嚇し始めた。まさにメデューサだ。
「おっ、やろうってのか?モンスター化したからって勝てるとおもたら大間違いやぞ」
無気力女店員の蛇は今にもヤカラに襲い掛かりそうだ。このままだと不味いな。よし。
「すいません。お会計まだですか?急いでるんでやめてもらえません?交番近いから警察呼んだらすぐ来ますよ?」
「なんや、にーちゃん!カッコつけとったら痛い目遭うぞ!」
しつこいヤカラだなー。俺にまで絡むなよ。酒でも飲んでんのか。
「あっ、店員さん。さっさと警察呼んじゃって」
「おま、ふざけんなよ!」
ヤカラが俺に掴み掛かろうとーー
「ヤメナサイ」
聞き覚えのある声がしてコンビニの入り口の方を向くと、二ノ宮さんがいた。いつもに増して瞳が紅い気がする。
異変を感じて向き直ると、ヤカラは焦点の合わない眼でぼんやりとしていた。さっきまでの怒気が嘘のようだ。
「モウ、イキナサイ」
「……あい」
いつの間にか側まで来ていた二ノ宮さんが命じると、ヤカラは大人しくコンビニから出て行った。その足取りは怪しいが、その内正気に戻るだろう。
「……アノ、アリガトウゴザイマシタ」
無気力女店員が俺に向かってスッと頭を下げた。
「いやー、俺は何もしてないし。結局追い払ってくれたのはーー」
「ヤルワネ、ヌカリヤクン」
「えっ、でも、二ノ宮さんですよね?あのヤカラに何かしたの?」
「タトエソウダトシテモ、イチバンサイショニ、コエヲアゲタノハ、ヌカリヤクンヨ」
「ははは。まぁ、そーかも知れないですけど。店員さん、これ」
俺はいつもの菓子パンとコーヒーをレジに出した。
「ヌカリヤサンッテ、イウンデスネ」
「ほぼ毎日顔を合わせてるのにお互い名前を知らないものね」
無気力女店員はいつも名札を付けてないからね。
「ワタシ、ハチノヘッテイイマス」
「八戸さんね」
「ヌカリヤクン、チコクスルワヨ」
さっさとセルフレジで会計を済ませていた二ノ宮さんに急かされた。
「じゃ、八戸さん、また」
別れ際、八戸さんの頭の蛇が俺を威嚇したのはどういうことだろう?




