オレまた何かやっちゃいました? ~いまさらそんなこと言われてももう遅い。追放されたけど、復讐するために牙を研ぐ~
オレの名は、「名礼名井 太郎」。夢多き10代の若者だ。
……もちろんペンネームで、年齢も自称だけど。
職業は、専業書籍化作家。今日も新作の出版社からの声掛かりを期待しつつ、新作小説の執筆に励んでいる。
商業作家としてやっていくためには、最近の流行を分析することが重要だ。そして、最近の流行。
「何かやっちゃいましたか?」「もう遅い」「追放された」。そして定番の「異世界転生」「無双」「美少女ハーレム」「下剋上」または「復讐」。
うん、これらをうまく取り込もう。そしてエロは必須。以前ちょっとやり過ぎて、18禁サイト送りにされてしまった作品もあったから、そっちはあくまでお色気程度に。書籍化されたら限界突破するつもりだ。
え? オレのこれまでの活動の実績?
PVも評価ポイントもそこそこだ、と自負している。過去最高評価の作品は書籍化もしている。……ノクタ送りになった後、書籍の方も一巻打ち切りになったけど。せっかく知り合いの作家の作品に評価を付けるという条件で、たくさん評価を返してもらったのにもかかわらず、ノクタ送りのせいでそれも全部消えてしまったから執筆意欲も減衰して、エタったけど。とはいえ一作でも書籍化した以上、「書籍化作家」と言っても誇張にはならない。
現在全年齢サイトでは13作品並行連載しているけど、過去二ヶ月で更新したのは、うち二作品だけ。もっともこっちのPVも伸び悩み、更新するたびにブクマが剥がれていっているのが現状だ。
ここでテコ入れすべく、新作を投入することとした。
タイトルは、『歌の力で世界を救う! ~「戦場でいきなり歌い出したら気が散る」といわれてパーティから追放されたけど、オレの歌声で美女美少女はメロメロさ。唄って美少女といちゃついて無双する転生者の、努力しない下克上~』。
流行を全て取り込んだ、自信作だ。プロットは、「歌を唄う事で、その歌の世界を部分的に再現できる能力を持つ主人公が、戦闘中に不条理世界を展開して無双する。この能力の真価を理解出来なかった勇者パーティから追放されたけど、むしろソロの方がこの能力を活かせることに気付き、色々な町を旅する。主人公の歌を応援してくれるファンが増えることで、主人公の能力はブーストされる。だからどんどん女の子のファンを増やし、エッチなことをして、楽しく無双する」。
そして、連載を開始する。最初の10話は連続投稿。追放シーンなんて見ていてだれるだけだし、読者が読みたいのはいちゃラブと無双なんだから、そこまでは一気に掲載する。
その後も毎日更新は当たり前、可能なら一日に2話3話更新して、ランキング上位に駆け上がる!
一ヶ月が過ぎた頃、PVも評価ポイントも上々で、ランキング上位に食い込んでいた。もう少しで表紙に入る。そんな時。
作者のホーム画面に「新着メッセージが1件あります」の表示が。ちなみに「感想が書かれました」の表示は無視している。感想を読んで一喜一憂したり、返信したりする余裕があったら執筆に力を入れたいから。けれど、メッセージ。おぉ、もう書籍化打診、か?
そう思ってメッセージボックスを開いてみると、「送信者:運営」「件名:小説家になりたい運営です」。何事かと思って見たら。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ユーザID:0000000
名礼名井 太郎 様
(このメッセージは小説家になりたい内メッセージボックス・登録メールアドレスの両方に送信されています。)
いつも小説家になりたいをご利用頂き、ありがとうございます。
小説家になりたい運営です。
本日、名礼名井 太郎 様が投稿されている作品内におきまして、利用規約第14条1項に抵触する部分を確認致しました。
■当該小説
Nコード:NxxxxAA
タイトル:歌の力で世界を救う! ~「戦場でいきなり歌い出したら気が散る」といわれてパーティから追放されたけど、オレの歌声で美女美少女はメロメロさ。唄って美少女といちゃついて無双する転生者の、努力しない下克上~
当該小説を確認致しました結果、
・他者が権利を有する楽曲等の歌詞の転載
以上の点におきまして、当該小説1点を法で認められた引用に該当しない歌詞等の転載であると判断致しました。
つきましては権利を侵害しない形での改稿を行なわれるか、削除を行なって頂きますようお願い致します。
▼ガイドライン – 歌詞転載に関して
https://syosetu.com/site/song/
なお、当該小説に関しましては、複数の部分にて歌詞の転載であると判断される描写がございます。
作品の改稿を行なわれる場合には、それら全ての描写を改稿して頂きますようお願い申し上げます。
また、初動対応と致しまして当該小説に対し、開示設定の設定変更を行なわせて頂きました。
問題部分の修正が行なわれない状態での設定解除はご遠慮ください。
もし×月×日を経過しても対応が見られない場合は、当該小説の削除を行ないます。
なお名礼名井 太郎 様は過去にも複数回の規約違反の警告が為されております。今後も同様の規約違反が確認されました場合、ユーザID削除等のより厳しい対応を行なうこととなりますので、ご注意ください。
今後とも小説家になりたいを宜しくお願い致します。
---------------------------------------------------
※このメールアドレスは送信専用です。
返信を行なわれます際は小説家になりたいお問い合わせよりご連絡頂きますようお願い致します。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
……何、だと?
オレ、著作権侵害しちゃいましたか?
仕方がない。ならすぐにも修正を、って、ほぼ全頁修正が必要じゃん! しかも設定の根幹部分じゃん!
なに? 全曲自分で作詞しろって? そんな才能があったら作詞家になっているよ。
でも、取り敢えずは公開停止処分を解除してもらわなければ、どうしようもない。なら。
「静かな湖畔の森の影から もう起きちゃ如何とカッコウが鳴く」
↓
「静かな湖畔の樹の向こうから 男と女の声がする」
こんな風に、歌詞を修正していく。多少の描写の調整も必要になるけれど。
よし、これでひとまず問題はないはずだ。
対処完了を運営にメールして。
……運営、返事が遅いのはいつもの事。対処完了の報告メールを送ったのは、対処期限(×月×日水曜日)の前の週の金曜日の午後。そして土日を挟み、更に月曜日は祝日だったせいもあり、返事が来たのは火曜日の夕方。つまり期限の前日。内容は。
「権利者の許可を得ない替え歌の掲載に関しましては、翻案権・同一性保持権の侵害として対応対象となります」。
……これも、駄目? この修正に、期限ぎりぎりまでかかったというのに。あと一日足らずで、どうしろと?
こんなタイミングでダメ出しされても、もう遅い。結局手も足も出ずに、期限を迎えてしまった。
判決、ID削除。
こうしてオレは、「小説家になりたい」という無料小説公開サイトから、めでたく追放されてしまったという訳だ。
その後のオレは、別の、出版社が運営する無料小説公開サイトに活躍の場を移し、こちらで作品を発表している。出版社直営サイトなら、書籍化もスピーディに行われることだろう。
そう、オレを追放した「小説家になりたい」運営に復讐する為に。
オレが大作家になってから、「小説家になりたい」運営が「どうか戻ってきてください」と縋り着いてきたときには。
「いまさらそんなことを言っても、もう遅い」
って、鼻で笑ってやるんだ!
(3,030文字:2021/02/15初稿:2021/02/15予約投稿 2021/02/16 03:00掲載 2021/02/16衍字修正)
【注:童謡「静かな湖畔」。作詞:山北多喜彦(1968年没)(著作権全放棄)】