44 子供ですか、貴方達
「ふぁあああああ、もうお腹いっぱい! ごちそうさま」
「あぁ、ごちそうさまでした」
昼食はどれもこれも美味しく、最後のデザートに至っては満腹だったはずなのに別腹だと言わんばかりにするすると食べてしまった。
あのアップルパイはシナモンたっぷりでしっとりと甘く、程よい酸味でマリーリの大好きなフィーロ家の味だ。
「ジュリアスは我が家のアップルパイ食べるの初めてでしょう? どうだった?」
「あぁ、とても美味しかった。我が家のは砂糖がたっぷり使ってあって結構甘めなんだが、フィーロ家のアップルパイはちょうどいい甘さで口当たりもいい」
「そうでしょう、そうでしょう? 気に入ってくれたのならよかった。うちのは特製の蜂蜜を使ってて、舌触りも滑らかになって程よい甘さになってるの」
「なるほど、蜂蜜か」
「えぇ。それにしても、あー……本当にお腹いっぱい。だんだん眠くなってきちゃったわ」
ふぁああ、と大きな欠伸が出るのを手で口を隠す。
きっと家族やミヤに見られていたらはしたないと怒られてしまうほどには大きな欠伸であった。
「だったら昼寝するか? まだ日は高いぞ」
ジュリアスの提案に心が揺れる。
正直とても眠いが、ここで寝てしまったらきっと太るような気がして、誘惑に負けずに首を振った。
「いえ、大丈夫。確か、釣りもしなきゃですもんね! 次こそは私が勝つからね!」
「はは、随分と威勢がいいな。では、また勝負といこうか。せっかくだ、負けたほうが勝ったほうの言うことを聞くというのはどうだ?」
「いいわね。面白そう!」
「では、それで決まりだな」
「えぇ、負けないからね!」
マリーリが食事の後片付けをすると、いそいそと釣り道具を取り出してくるジュリアス。
ここまで気が利く旦那様などいるのだろうか、いやジュリアスしかいないのではないか、とマリーリは密かにジュリアスのことを素敵な旦那様だと誇らしく思い、きゅんとまた胸が高鳴った。
(あぁ、ますます私ばかり好きになって……。ジュリアスも私のことを同じくらい好きだったらもっといいのに)
「ほら、準備できたぞ!」
「はーい、今行きます〜」
いつの間にか、バルムンクとアルテミスは仲良く寄り添って眠りについている。
それを見て微笑ましく思いながら、マリーリはジュリアスの元へと駆け寄った。
◇
「相変わらず競争するのは構わないんですが、限度を考えてください、限度を。子供ですか、貴方達」
「申し訳ない」
「ごめんなさい」
お互いに釣果を持ち帰ったのはいいのだが、その量があまりに多いとミヤに怒られるマリーリとジュリアス。
つい熱中してしまい、イワナやノーザンパイク、グレーリングなど小型から大型まで次々と釣り上げてしまい、結果合計二十五匹という度肝を抜くような量になってしまった。
もちろんすぐに食べられるはずもないので、これらはまた領民に配らねばならず、手間が増える! とミヤが怒るのも無理はなかった。
「本当もう二人は張り合うと碌なことにならないんですから!」
「ごめんってば、ミヤ」
「いくらマリーリさまに甘々な私でも、今日は怒りますからねー!」
「うぅぅぅう」
さすがのミヤも今日は許してはくれないらしい。
可愛らしい顔からは怒りのオーラがダダ漏れしていて、ジュリアスでさえも大人しくしているくらいだ。
「とりあえずまずは湯浴みなさってきてください! 二人共泥だらけですよ。お湯はすぐ張りますからちゃっちゃと入ってきてくださいね! ……なんだったら二人で入ってきていただいてもかまいませんよ? そのほうが手間がかかりませんし」
「もう、またすぐミヤはそういうこと言って……」
「そうだな。では二人で入るか」
「ねぇ、ジュリアスも……って、えぇぇぇええ!?」
ミヤの軽口を困ったものだと同意を得ようとしたのに、まさかのジュリアスの発言に戸惑うマリーリ。
けれどすぐさま、「あ、もしかしてジュリアスの冗談かしら」と思い直して「もう、ジュリアスもミヤの冗談に付き合わなくていいわよ」と軽く諌める。
「いや、本気だ」
「はい?」
「先程の釣りの勝者は俺だからな。言うことを聞かせられる権利は俺にある」
確かに先程の釣りの対決は、ジュリアスが十六匹に対してマリーリは九匹と完敗であった。
特にマリーリは久々の釣りにも関わらずこうもたくさん釣れて自分でも驚いたほどである。
だが、勝負は勝負。
数で言えば圧倒的な差でジュリアスに負けていた。
「それ、今日の私のワガママ一個で相殺は?」
「ダメだ。却下」
「何で!」
「それは甘えるに該当しないからだ。よって却下だ」
「なにそれ! ずるいーーー!!」
「ずるくない。というわけだ、これ以上侍女達の手間をかけさせるわけにはいかないから、ちゃちゃっと入るぞ」
どうやら冗談で言ってるわけではないらしい、と気づいてマリーリは羞恥心やら何やらで頭がいっぱいになる。
そして、
「あ、逃げた」
ジュリアスの不意をつきマリーリは一目散に逃げ出すのだが、
「俺に足の速さで勝てると思っているのか?」
なんなく追いつかれると、そのまま浴室へと連行されるマリーリ。
それを微笑ましい温かい眼差しで見つめるミヤ含むメイド達であった。




