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12 似合うな

 食事を終え、食後のティータイム後はそれぞれの時間とばかりにグラコスとフィリップはボードゲーム、マーサとネルフィーネはおしゃべりに行ってしまい、残された二人は仕方なく庭園で時間を潰すことにした。


「すまなかったな」

「ん? 何のこと?」


 不意にジュリアスから謝られて首を傾げるマリーリ。

 謝られることなどあっただろうか、と思案していると「先程、母が聞いたことだ」と言われてジュリアスとのことを根掘り葉掘り聞かれたことを思い出す。


「あぁ、別にいいのよ。どうせあの二人には聞かれるだろうなーとはなんとなく思ってたし。まぁ実際、あんなにぐいぐい根掘り葉掘り聞かれるとは思わなかったけど」

「……すまない」

「だから謝らないでってば。別に嫌なわけでもなかったし。ちょっと恥ずかしかったけど」


 あれからマーサとネルフィーネの二人はマリーリの話をキャアキャアと色めき立ちながら聞き、そのあとはお互いの恋愛の暴露大会と化した。

 両家の父親達が黒歴史とも呼べる過去の行いを晒され、非常に気まずい表情をしていたのは記憶に新しい。

 マリーリもまさか自分の両親の恋愛のあれこれを聞かされるとは思わず、聞いても大丈夫なの、これ? というようなことまで酔いの勢いもあって喋りまくる彼女達に、思わず苦笑せざるを得なかった。

 きっとジュリアスも同じ気持ちだったのだろう、終始死んだような顔をしていてせっかくの晩餐会だというのにマーサとネルフィーネの勢いに押されて、ただひたすら彼女達の会話を延々と聞かされながら食事を楽しむ会となってしまったのはちょっとだけ後悔だ。


「ところで、あの、何だ……さっきの話だが」

「さっきの話?」

「あぁ、その……俺に対しての気持ち、というは本当なのだろうか?」

「うん? あぁ、さっき言った話? えぇ、本当。そもそも嘘を言ってもしょうがないでしょう?」

「そ、そうか。そうだよな」


 随分と歯に詰まったような物言いをするな、と思いつつ、マリーリは綺麗に咲く花々を眺める。

 この庭園はネルフィーネが力を入れていて、彼女の好きなたくさんの薔薇が咲き誇っていた。

 種々の薔薇があり、色や見た目もそれぞれ違っていて、どうやら品種改良も検討しているらしく、棘のない薔薇を作るのが目標だそうだ。


「綺麗ね」

「あぁ、母さんがだいぶ力を入れているからな」

「お母様もいつもネルフィーネさまのローズティー楽しみにしてるわ」

「そうか。あのローズティーは市販してもいい、と豪語しているくらいには力を入れているくらいだからな。夫人がそう言っていたと知ったら喜ぶよ」


 ジュリアスが赤い薔薇に手を伸ばす。

 そして一本手折ると、黙々と棘を外し始める。

 何をしているのだろうか、とぼんやり見つめていると、おもむろにジュリアスが全ての棘を外した薔薇をマリーリの耳にかけた。


「え?」

「似合うな」


 目を細めて笑うジュリアスにドキッとする。

 だんだんと見慣れてきていると思っているが、それでもやはり整った顔というのは緊張してしまう。


「もう、からかってるでしょう!」

「そんなことない。マリーリに似合っているよ」


 つい恥ずかしくなって反抗するように口を開けば、まさか否定されるだなどと思わず口籠もる。

 いつもだったらこういうときは肯定して軽口を言い合うというのに、なんだか調子が狂ってしまって、マリーリはどう反応したらよいかわからなかった。


「そ、そう? 本当に?」

「あぁ、マリーリには赤が似合う。そのストロベリーブロンドの髪にピッタリだ」

「あ、ありがとう……」


 正直、この髪の色はマリーリにとってはコンプレックスであった。

 人とは違う髪の色。

 しかも血のような赤みがかったこの色を忌み嫌う人は多かった。

 両親であるグラコスとマーサはブラウンとブロンドでそれぞれ一般的な色をしているのに対して、マリーリだけがこの色で生まれたため、幼少期はよくよからぬ噂の対象としてよくヒソヒソとされていたことを今でも覚えている。

 だからこそ、髪を褒めてもらうのは嬉しいのだが……。


(そういえば、キューリスも初めて出会ったときにこの髪を褒めてくれたのよね)


 初めて夜会であったときのキューリスはマリーリの髪を見るなり、「まぁ、綺麗なピンク色!」と一際大きな声で駆け寄ってきて、素敵だ綺麗だとマリーリを褒めた。

 戸惑いつつも褒められて嫌な気持ちになるはずもなく、それからキューリスと交流を深めたのだが。


(あれも全部嘘だったのよね)


 キューリスとの思い出をいくつも引っ張り出してきて、あれは全部嘘なのかと思うとキュっと胸が苦しくなって悲しくなってくる。

 そうしてぼんやりと過去の記憶に囚われていると、不意に髪に触れられて思わず「ひゃぁ」と素っ頓狂な声を上げるマリーリ。


「な、何してるの」

「ぼんやりしていたから、つい」

「ついって、もう」

「マリーリの髪は柔らかいな。まるで絹のようだ」

「さっきから褒めてくれるけど、何も出ないからね」

「残念。期待してたんだがな」

「何を」

「さぁ、何だろう」

「何よ、全く。適当なことばかり言って」


 お互い適当なことを言い合えるこのやりとりにちょっと心が救われる。

 特に最近のマリーリは難しく考えすぎることが多く、しょっちゅうミヤにお叱りを受けていることばかりだったから余計だ。


「そういえば、ジュリアスも叔父さんになったのね」

「ん? あぁ、兄さんのことか」

「えぇ。甥っ子くんは見に行ったの?」

「いや、まだだ。最近忙しくて見に行く暇がなくてな」

「そう。でも、そのうちこちらの方に戻ってくるのでしょう?」

「あー、その前に俺たちがブレアの地に行くことになりそうだから恐らく入れ違いになるだろうな」

「そうなの? 残念」

「なんだ、見たかったのか?」

「だって、私は兄弟もいないし、友人もあまりいないから、赤ちゃん見る機会なんてなかなかないし。きっと可愛いんでしょうね。どっち似かしら。男の子は母親に似るというから奥様かもしれないわね」

「そうだな。ということは、マリーリが男の子を産んだらマリーリそっくりの息子が産まれるということか」


(ジュリアスとの子供……)


 想像してぼふん、と頭から湯気が出そうなほど顔が赤くなる。

 でも、そうか、結婚したらゆくゆくは子供が産まれるのか、と思うとちょっと感慨深くなるマリーリ。


「何を想像してるんだ」

「べ、別に……って、ジュリアスの顔赤いわよ?」

「気のせいだろう。というか、マリーリのほうが赤いぞ? まるでタコのようだ」

「何よ、失礼ね!」


 そんな微笑ましいやりとりを母達に見られているとは気づかず、二人はしょうもない言い合いを続けるのだった。

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