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「よし、出て行け」
「嫌ですわ」
「なんで」
「勉強をするのでしょう? 私もご一緒したいのです」
夏樹が眉をひそめる。意味が分からない、といった様子だ。
「ふんふん。なるほどね」
いつものように一緒についてきているふーちゃんが、にやにや笑いを浮かべている。これはろくでもないことを考えている顔だ。
「失礼なこと考えてない? まあいいけど。この子、夏樹と友達になりたいんじゃないかな。すっごく分かりやすい」
やっぱりか。なんとなく、そんな気はしていた。もしかすると、いやもしかしなくても、今まで夏樹に宣戦布告していたのは、少しでも繋がりがほしくて、あわよくば友達になれたら、なんて思っていたのかもしれない。
どこかのグループに入る、という目的よりも何よりも。この子に協力したいと、そう思ってしまった。
「いいんじゃないかな、夏樹」
「は?」
「草壁さんが一緒でも、私はいいよ?」
一緒に勉強をすれば、何かしらの接点が生まれて少しでも仲良くなったりできるかもしれない。そうできるかどうかは、草壁さん次第だが。
それに、だ。勉強面に関しても、成績上位二名がいてくれる。これほど心強いことはないだろう。
「まあ、春菜がいいなら……」
夏樹が渋々ながらそう言うと、
「まあ! ありがとうございます、漆原さん! あなた、とてもいい人ですね!」
「あはは……。ありがとう。えっと、よろしくね、草壁さん」
目的とは逸れてしまったが、これはこれでいいだろう。春菜が笑顔で言うと、草壁さんは少し考えるように視線を逸らし、そしてこちらもまた笑顔で言った。
「秋世で構いません」
「え?」
「親しい人はそう呼んでいますから」
それはつまり、自分のことも親しい人の枠組みに入れてもらえる、ということだろうか。いや、しかし、まだ会話らしい会話もしていないのだが。
春菜が困惑していると、草壁さんは肩をすくめて、
「あなたはなんだか、とてもいい人そうですから」
「いや、なんだよその理由」
思わずといった様子で呆れた夏樹に春菜も同意する。すごく抽象的だ。けれど、それでも、そう言ってもらえるのは、とても嬉しくもある。
「えっと……。じゃあ、私も、春菜でいいよ」
「分かりました。よろしくお願いしますわ、春菜さん」
なんとなく、二人で握手をする。特に理由はない。本当に、何となく。
そして、示し合わせたわけではないのだが、二人同時に夏樹を見た。
「…………。なんだよ」
「いえ」
「何も?」
二人の続けての発言。夏樹は面倒そうに頭をかいて、次に大きなため息をついて。そうしてから、分かったよ、と投げやりに言った。
「あたしも夏樹でいい。これでいいんだろ」
「はい! よろしくお願いしますわ、夏樹さん!」
「すごく失敗した気がする」
嬉しそうな満面の笑顔の秋世に、頬を引きつらせている夏樹。対照的な二人の様子だが、きっとこの二人はうまく付き合っていくだろう、と特に根拠もなく確信していた。
とても意外なことに、夏樹と秋世の教え方はとても分かりやすいものだった。二人に教わると、どうしてこの程度のことが分からなかったのだろうと思ってしまうほどだ。
ただ、気になることがあるとすれば。夏樹も秋世も、自分の勉強はせずにつきっきりで春菜の勉強を見てくれていることだろうか。
「あの……。二人は勉強しなくていいの?」
思わずそんなことを聞いてみると、何故か二人そろって言葉に詰まった。
「あのさ。気を悪くしないで聞いてほしいんだけど」
「うん」
「授業聞いてれば十分だ」
なんか変なこと言い出したぞこの子。
助けを求めて秋世を見る。目を逸らされた。まさか。
「その、ごめんなさいね、春菜さん。夏樹さんに同意見です。まあ、テスト前に復習ぐらいはしますけど、その程度ですわ」
「ええ……」
なんなんだこの二人は。化け物の類いか何かか。
春菜がじっとりとした冷たい視線を向けていると、二人は気まずそうに目を逸らした。
「いや、だってさ……。あたしからすると、むしろどうして分からないのか、なんだよ」
「ええ、そうです。ちゃんと授業聞いていますか?」
これはあれか。もしかして喧嘩を売られているのか。
春菜の表情が険しくなったことに気が付いたのだろう、夏樹が秋世を肘でこづき、秋世は慌てるように、
「ご、ごめんなさい、春菜さん。悪気があったわけではないのよ?」
「いいよいいよ。どうせ私は要領悪いよ」
「ど、どうしましょう、夏樹さん。拗ねてしまわれましたわ」
「うん。もうお前黙ってろ」
大きなため息をつく夏樹と、あわあわと慌てている秋世。なんだか、その様子を見ていると春菜も気持ちが楽になってきた。
秋世も悪気はないと言っているのだし、水に流してあげよう。
気を取り直して、勉強を続ける。二人が必要ないとのことで、遠慮無く甘えさせてもらおう。これに関してだけは妥協できない。なにせ、悪い成績だと、退学すらあり得るのだから。
この場合の退学は、もちろん学費が足りないがための自主退学だ。
「退学? させるわけないだろ」
「え? いや、でも、学費が足りなくなったら……」
「そんなもん、父さんに言えば出してもらえるだろ。いくらだ? 一千万か? 一億か?」
「桁がおかしい!」
コンビニで買い食いをしているわりに、夏樹の金銭感覚は微妙にずれていると思う。一億とかぽんと出せるわけないだろうに。……ないよね?
「冗談だよ。多分」
「たぶん」
「おう。春菜なら大丈夫だろ。よゆーよゆー」
「信頼してくれているのか夏樹が気楽なのか、分からない」
「おそらく気楽な方ですわよ」
だよね、と苦笑する。なんだよ、と憤慨する夏樹に秋世と二人で笑った。
・草壁 秋世
政治家の娘。お嬢様。なんか取り巻きがいる。
この子の私は『わたくし』です。
壁|w・)誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




