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ドラゴン・クロニクル  作者: 42神 零
異界人召喚篇
5/8

04:ごちゃごちゃとうるせぇんだよ!!

同刻

アグザリオ王国・城下町





「化け物?魔物とかじゃねぇのか?」


「…あぁ、そう。…魔物、化け物、別物」




化け物というワードを聞いて首を傾げる蓮に対し、並んで歩いているアルドはポーカーフェイスで説明する。


ただ化け物という存在についてよく分からなかったが、ここが異世界である以上どんなものが出てきてもおかしくないと思ったのか、蓮はその化け物の存在についてすんなりと信じ込んだ。




「化け物、人、襲う。空、亀裂、入る」


「えっとつまり…「空に亀裂が入って穴が開いて、その中から化け物がやってきた。それでその化け物は人々を襲う」…ってことか?」




コクリと首を縦に振るアルド。

蓮の中ではその()()()()()()()()()()というものが気になるが、余計なことを考えずにただアルドの説明を待つ。




「あと、白鋼、物体。謎」


「なに?白鋼?なんだそれ」




化け物はさておき、白鋼というワードが出てきて首を傾げる蓮。

流石にそこまでは分からないようで、詳しい説明を要求してきたが、アルドはただ無言で首を左右に振るだけでそれ以上のことは言わなかった。


アルドもわからないらしい。

その白鋼の存在を。


ただわかっていることは近付いても何も起きないということ、実質無害であり新種の魔物という訳でもないようだ。


その報告を信じるか否かは人それぞれだが、アルドはただ報告を信じているらしく、引き続き調査を行っているとかいないとか。




「…着いた」




そして二人は歩みを止め、ある建築物の前に立つ。

そこは木造で、外には樽をテーブルや椅子替わりにしてビールを飲んだり、ギターを持って独自の演奏会を開いたりとやけに賑わっている場所である。


中はガヤガヤとしているようだが、その中にいる人々は全員背に武器を背負っていたり、身を守るための防具を着込んだりしている。


となれば、ここはどこなのか。

察しのいい人ならもう分かると思うが…




「ここがギルドかぁ…!!」




そう、ギルドである。

依頼を受け、報酬を貰う冒険者たちが集う場所。


そのギルドの建造物に、恐らくギルド名を書かれているのだろうが、蓮からしてなんと書いてあるのかわからないが、ゲームオタクだからか見た瞬間すぐにギルドだとわかった。




「詳しい、何故?」


「そりゃな。地球にはそれを主軸とした話が大多数で作られて…ってそんな説明どうだっていいか」




言ったところで理解し難いことだろうと思った蓮は早く早くと、まるでテーマパークにやってきた子供のようにアルドの手を握って引っ張る。


アルドは引っ張られるがままギルドへ入っていくが、相変わらずの無表情に加えて口少ない故か何も言わない。


そんな蓮やアルドより一番反応していたのが…










「お、おい!!【白風の狙撃手】アルドさんだ!!」


「な、なんだって!?」


「お、お疲れ様です!!アルドさん!!」


「おいお前ら!!アルドさんのお通りだ!!道を開けろ!!」





なによりも反応していたのが周囲の人々である。

アルドを見るや否やガヤガヤと騒いでいた酒場がすぐに静まり、ササッと綺麗に整列すると道を譲り始めた。




「え、え?なに?な、なんだよこれ?」




アルドは相変わらずのポーカーフェイスっぷりだが、誰よりも困惑していたのが蓮。


蓮にとって何を言ってるのかさっぱり分からない異国の言葉と突然道が開けたことが相まってさらに混乱する。


でもなんか普通じゃない。

他の人々の視線が敬うことから察して、アルドという人物はやはり只者ではないらしい。




「おい小僧!!なに気安くアルドさんに触ってんだよ!!」


「へ?な、なんだよお前!何言ってんのかさっぱりだ!日本語を使え日本語を!!」




アルドの前に立つ蓮の存在に気付いた男は、見るなりすぐに怒鳴り散らすが日本語ではない言葉なので意味がさっぱりである。


男からして普通に話してるのだろうが、蓮からすれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような言葉で、全く聞き取れなかった。


だが雰囲気で怒っているとわかったのか、蓮は通じないことぐらい理解しつつ言い返すも他の人々も蓮を見るなり怒鳴りまくった。




「こいつら…好き勝手言いやがって…!!」




一方的に言われてムカついたのか拳を握る蓮だが、そこへアルドが前へ出る。


一歩歩いただけで人々は一瞬にして静まり返り…










「…俺のお客だ。邪魔をするなら射抜くぞ」




ただ小さく。

よく耳を澄ませばやっと聞こえるほどの声量でそう呟いた。


それだけだと言うのに人々は手のひらを返したかのように蓮に対して謝罪し始めた。




「な、なぁ今なんて言ったんだ?」


「………」




異国語だったので何を言ったのか分からず、日本語で翻訳して欲しいと頼んだが、アルドはそれをスルー。


気にしないでくれ。

ポーカーフェイスながら目でそう言っている…気がする。












そして事が一旦落ち着くと、人々はいつものようにビールを浴びるように飲みながら、依頼を受け始める。


アルドにとってはいつも通りの光景。

蓮にとっては地球にはない光景を見て目を輝かせている。


今二人は酒場内にある武具屋に来ている。

とはいえ、外にある工房とは違い、金貨で気楽に交換出来るもので魔物の素材を渡して武器を生産するほど巨大な施設ではない。


今回の目的は蓮の武器と防具について。

ここは地球とは違い、魔物という存在がいる以上護身用の武器や防具が必要だと思った蓮は自分一人だけでも守れるようにと購入を決定したらしい。


ただしここは別世界。

文化が違うこの世界では、もちろんのことだが地球の金なんて意味が無い。


なのでここは仕方なくアルドの金貨を貸してもらっている。




「お、これがいいな」




規模は小さいとはいえ、大剣、槍、弓などいかにもファンタジーとも呼べる武器が並ぶ中、蓮はあるものを見て手に触る。


それは小柄のボウガン。

片手で軽く構えられるので、二本でひとつの武器らしい。


蓮はそれを取るや否や試し斬り、もしくは試し撃ちのために設置されたマネキンの前に立つとなんの迷いもなく引き金を引いた。


左右の手に持つ小型ボウガンから矢が発射され、二つのマネキンに直撃すると二本とも頭に突き刺さった。


周囲の人間は誰でも出来ると呟き、その様子をなんの驚きもなく見ていたが、言葉が通じない蓮はそれを無視してリロードしてさらにもう二本撃ち込む。


するとどうだろうか。

先に突き刺さった矢を貫通して、()()()()()()に突き刺さったのだ。


いやそれだけじゃない。

三本、四本、五本と連続で撃ち込み、それら全てが同じ箇所に命中して、二つに裂けた矢がドサドサと落ち、山のような形で積み重なっていく。




「「「……………」」」




馬鹿にしていた人々は口を開けて絶句。

面白いことに衝撃的な光景を目の当たりにして驚いているようだが、相変わらず蓮はそれを無視して会計へと回す。




「…素晴らしい、扱い」


「まぁな」




無表情のままパンパンと手を叩いて拍手をするアルドに、ふふんと自慢げに笑う蓮。


二人の他に会計のおばさんもニッコリしていて、それ以外は誰も言わず動かなかった。


そして肝心な防具だが、ボウガンを扱う以上鎧より動きやすい革服の方がいいというアドバイスを貰い、蓮は羽根の着いた三角帽子とマフラーのようなコートが特徴的な戦闘服を購入。


購入するや否やすぐに誰もいない場所で着替えると外で待機するアルドに近付いた。




「なぁ、これ似合うか…?」




着慣れない服装なのかどこか恥ずかしそうな表情をする蓮。

対してアルドはコクリと頷くだけで何も言わなかった。


ただ単にアルドは口数が少ないだけで、感想を求められても何を言っていいのかわからないらしい。


だから蓮はアルドを見ても「おぉ、そりゃよかった」というだけでそれ以上の追求はしてこなかった。




「…本当、受ける?」




しかしアルドは心配していることが一つある。

それは()()()()()()()()()()というものだ。


蓮の射撃能力は群を抜いている。

アルドだってそれぐらい理解しているだろう、食事処で見せた投げたナイフの時や、先程のダブルボウガンの扱いだって一般人と比べればプロレベルだから。


だが一般人は一般人。

戦争も何も無い世界からやってきたとなると、生物の一匹殺したことの無い蓮を危険地帯である場所に出すなど心配する他ない。




「仕方ねぇことさ。この世界に来た以上、自分で身を守る術を身につけなきゃ行けねぇし、オレって頭悪いから勉学で稼ぐことも出来ない。こういうギルドの方がオレに合ってるのさ」


「…しかし」


「危険なのはオレが一番知ってるよ。死と隣合わせの仕事なんてやった事ねぇし、正直不安だらけだ。でも、アルドや竜也がいる。二人のためならオレだって頑張れるさ」




「それに、アルドへの借金もあるしな」と、蓮は二ヒヒと笑う。


その笑みを見てアルドは目を瞑り「そうか」というだけでそれ以上のことは言わない。


同時にこう思ったんだろう。

「蓮のいう()()()()は恵まれている」と。




「いらっしゃいませ!あ、アルドさん」




そして二人はギルドの受付に着く。

カウンターの奥でせっせと働く受付嬢らの一人が笑顔で出迎え、アルドを見るや否やでドンッと依頼者を置く。


余程の有名人なのだろう、周囲の人々も何を受けるのかとワラワラと視線を突き刺してくる。


蓮は正直その視線が嫌いだった。

まぁそうだろう、言葉の意味はわからないが小馬鹿にしてきたのに変わりない輩を嫌うなど当たり前だ。




「志願者のレンだ。試験依頼はあるか?」




途切れ途切れの日本語をやめ、異国語で話す。

世界線が違うとはいえ、多種の言葉を使い分けるその様は、どこかエージェントらしさを感じられる。




「レンさんですね。ではこちらを」




蓮を見ると笑顔を絶やさずに一枚の依頼書を手渡してきた。

言葉が聞き取れない蓮は何を言ってるのかさっぱりだが、行動的に受け取れと言ってるように見えたのかなんの迷いもなく、手渡された依頼書を見る。


…が、言葉もそうであれば文字も同じ。

漢字に英語を足したような、全く見た事のない文字がズラッと並んでいた。




「な、なんて書いてあるんだ…」




目をグルグルと回しながら必死になって解読を試みるもいきなり読めるはずもなく、にらめっこ状態がしばらく続く。


そのさなか、アルドが手を伸ばし半ば無理矢理蓮から依頼書を抜き取り、自分で文字を読む。




「あっ!!ちょ、おまっ!!」


「…ゴブリン、三匹、討伐。場所、ユーラウス森林」




勝手に取られて取り返そうと蓮は腕を伸ばしたが、その前にドンと目の前に依頼書の紙を見せびらかし、内容を日本語で伝えるアルド。


無表情ながらも、その声はどこか優しそうに聞こえた。

蓮は少し恥ずかしくなりながら「あ、ありがとう」と伝えると依頼書をギュッと大事そうに握り締める。




「ふふっ。初めてのクエスト、応援してますよ」


「な、なんか馬鹿にされた気が…」


「…気の、せい」




その様子が面白かったのか、受付嬢は再び笑みを作り、短く笑う。


笑顔はともかく、何かバカにされた気がしてならない蓮は頬を膨らませていたが、アルドはフォローして出撃口であろう扉へと向かう。


開けるとそこには馬と馬車が用意されている。

なにやら見慣れないおじいさんが先に座っているようだが、どうやらこの人が目的地まで運んでくれるようだ。


二人はそのおじいさんに一言挨拶を交わしてから馬車に乗り込み、それを確認すると紐を引っ張って目的地であるユーラウス森林へと向かっていった。










この時、ギルド…いやアグザリオ王国は気付いていない。

既にユーラウス森林は例の化け物たちの巣窟になっていることに。















同刻

ユーラウス森林




そして残念なことに…。

ユーラウス森林はアグザリオ王国の近辺に存在する場所。


知恵と本能を持つ化け物…ドラゴンらは、不運ながらもその王国の存在に気付いたようだ。


そしてその森にある生態系の頂点に達した、亀型のドラゴンが周囲のドラゴンらに天高く吠える。


同時にドラゴンらは空高く羽ばたいた。

きっとだが、いや確実にこう命令したのだろう。





「あのそびえ立つ国を滅ぼせ」、と。

















同刻

アグザリオ王国・城下町




傷も完治した竜也は医療施設から出て城下町をほっつき歩いていた。


幸いにも施設で働く人はお礼の金貨なんて要らないと言われた(ように見えた)らしいが、それでもお礼にとこの世界では使えないであろう五百円玉を手渡した。


通貨は違えど金に違いない。

ちょっとしたお礼をし終えたあと、フラフラした足取りで城下町を彷徨うように歩く。


周囲の人々の言葉も、店に書かれている文字も、売られている商品も、何もかもが見たことないものばかりで竜也にとって新鮮な光景だった。


だが少なくとも竜也は楽しんでいない。

彼は悩み続けている。


どうやって蓮を探すか。

どうやって元の世界に戻るか。

どうやって世界の滅びから回避するのか。


悩めば悩むほど頭が痛くなる。

それに今の自分にはカリンが言っていたシグルズという謎の腕輪(ガントレット)がくっ付いている。


これからどうしよう。

竜也はひとつため息をついた。


地球で言うなら、行きたくもない海外に放り投げられ、置き去りにされたような、そんな感覚だ。


文字も読めない、言葉の理解も出来ない。

せめてものカリンのように同じ言語で喋れるような人さえいれば…。





『もう知らない…!!』




脳裏にカリンの姿が浮かぶ。

あの時のカリンは泣いていた、自分が期待を裏切ったからだ。


深いという訳では無いが、少し罪悪感を感じていた。




「けど…俺には出来ないな」




人を救うのは勇者がやること。

相手が人ならまだしも、人ならざる化け物だったら話が変わってくる。


だから竜也は断った。

ドラゴンとは戦わない、戦っても死ぬだけだと。





「…ん?」




そう思いつつ歩いていたら何やら一箇所に人溜まりが出来ていた。


通行していた人々は一度足を止め、その中央に視線を向ける。


わからない。

だが何かが起きている。


野次を飛ばすつもりはないが、行ってみようと竜也は足を運ばせる。





だが案の定というかなんというか。

なんとなく竜也が想像していた光景が現実となって広がっていた。




「おら坊主!!ごめんなさいは?」


「や、やめてください…!!このお金は母さんの…母さんの薬を買うためのもので…!!」


「うるせぇ!!坊主のママなんて知ったこっちゃねぇ!!」




そう、喧嘩である。

いや喧嘩という表現より、まだ七から八歳ぐらいの青髪の少年がスキンヘッドの大人三人に囲まれて脅されているような、そんな状態である。


地球でもよくありそうな光景だが、唯一違う点を上げるなら周囲の人々だろう。


普通こういう時は誰かが警察に通報したりするべきだが、通信手段のないこの世界ではそんな簡単に呼べるはずもない。


そもそもこの世界に警察と同じ役割を担う人間がいるかどうかすら怪しい。


だがどうだろうか。

見つめている人々はただ黙って見ている。


心配そうに見ているから悪気はないのだろうが、何よりも目立つのが高級そうな服を着て偉そうに「やれやれ!!」と叫ぶ男女の集団だろう。


彼らは貴族かなにからしく、野次を飛ばすも誰も止めるつもりなどなく、むしろ見て見ぬふりをしている。


そんな光景の中にいる竜也はどこか胸糞が悪かった。

自分は関わっていないのに、少年や大の大人三人がそれをいじめるように囲んでる光景がどうも憎かったようだ。


今からでもいい、飛び出して止めに入りたい。

だが覚悟が出来ていない。


この世界に来たばかりだ。

下手に首を突っ込めば何をされるのかわかったようなもんじゃない。


それに喧嘩の強さを比べるのもどうかと思うが、竜也の強さは五分五分だった。


勝てる時もあれば負ける時もある。

負けた時はあっさりと敗北を認め、ペコペコと相手に頭を下げる、これが普通だった。


だが今はただの竜也ではない。

腕輪がある、あの時のようにあの鋼鉄の鎧があれば何とかなるのかもしれないが、だからといって勝てる見込みなんてない。




ここはスルーしよう。

自分も見なかったことにする、そうしようとした。







しかし、ここで憎いことに。

脳裏にあの優斗の顔が浮かんできた。


仮に今の自分が優斗なら間違いなく首を突っ込んでいる。


それに優斗は諦めの悪い性格だ。

何度も何度も首を突っ込んで、無理矢理にでも人を助けるだろう。


時にその喧嘩に巻き込まれたこともある。

…それのおかげで()()()()()()()()()()が。


けど違う。

巻き込まれても周囲の人間はいつも自分ではなく優斗しか見えてない。


蓮は除くが、喧嘩に巻き込まれた竜也なんて最初からいなかったかのように。




「………」




そう思うと心の奥からフツフツと何かが煮込まれたような感情が湧き上がってきた。


怒りだ。

怒りがフツフツと吹き出て来た。







_ドカァッ!!


「あがぁっ!!」




その瞬間、人々は言葉を失った。

野次を飛ばしていた人も、心配そうに見つめていた人も、大笑いしていた貴族たちも、三人のうち二人グループの取り巻きたちも、被害者である若い少年も。


気が付けば竜也は野次の中にいた。

それだけでなく、三人グループの一人を殴り飛ばして。


殴られた男は余程のダメージを受けたのだろう、残った二人組の足元まで転がると白目を向いて悲惨な表情をしながら伸びている。


死んではいない。

その証拠にぴくぴくと少し動いている。




「ヒーローになるつもりなんてねぇが…テメェら一旦殴らせろ」




殴り終えた体勢から立ち直り、両手でポキポキと鳴らす。


目が笑っていない、真剣そのものだ。

怒りと胸糞の悪さに耐えきれなかったのか、とにかくその現況である三人グループを殴り倒すことに決意を抱いたようだ。




「お、おいなんだてめぇ!!」


「殺されてぇのかぁ!?」




殴られた男はさておき、男ふたりは指を鳴らすと腕あたりに魔法陣が展開された。


その中から剣が出現する。

輝きや周囲の人々の息を飲むような声からしておもちゃとかではなく、本物のようだ。


だが竜也は動じない。

怒りの勢いで怯まないのもそうだが、あの森にいた亀型のドラゴンと比べればただのネズミにしか見えないようだ。




「そこの少年、危ないから離れてろ」




言葉は通じないと分かっている。

だが言ってる意味がわかるようで少年はそそくさと人混みの中へと避難していった。


対して男二人組はただ竜也を睨む。

少年なんてどうでもいい、今は竜也だけが夢中のようだ。




「変な髪色しやがって。しかも言葉の意味がよくわかんねぇなぁ?」


「なんでもいい、急に出てきたと思えばぶん殴りやがって…絶対に許さねぇ!!」




何やらブツブツと二人で話していると一人が剣を振りかぶって襲いかかって来た。


動揺のない動き。

見るからに人を殺した経験があるようだ。




「!!」




対して竜也はというと、右腕を構えたと思えば即座に例の黒鋼の鎧を形成して纏わせた。


前とは違い、今度はちゃんとした人間サイズなので周囲の被害はない。


その腕を前に構えて盾代わりにして剣の刃を受け止める。


…いや、訂正しよう。

受け止めるはずだったが、あまりの強度があった故か、触れた瞬間剣がボロボロになって木端微塵に吹き飛んだ。




「なあぁっ!?」




突然体に鎧のようなものがまとわりつき、襲いかかって来た男は目を見開いて驚く。


男だけでない。

周囲の人間は「なんだあれは!?」と貴族平民関係なく驚きの声を上げる。




「ごちゃごちゃとうるせぇんだよパンチィ!!」




そして動揺している隙に竜也はもう片方の腕で相手の顎を捉える。


アッパーカットだ。

ネーミングセンスはともかく、威力が強すぎたせいか、直撃した瞬間男はクルクルと高速回転して空へと飛んでいく。


残された男は鼻水を垂らしたまま口を大きく開けて絶句していただけで何もしてこない。


そして数秒後。

空へ打ち上げられた男はそのまま頭から落ち、ズドンと地面に衝突する。


土煙が舞い、それが晴れると上半身が突き刺さったままで下半身は綺麗に伸びきった状態で動かなかった。


いや微かに動いている。

辛うじて息はあるようだ。




「まずは一人…いや二人…」




鎧を纏った腕を握って開いてを繰り返し、ゆっくりと残った一人に近付く。


対して男はカタカタと震えて涙目になり、握っていた武器をカランと地面に落とした。




「お、覚えてろよおぉぉーっ!!」




次に男は武器を捨て、見事なまでの捨て台詞を言った後、足元に転がってる男を引きずり、地面に突き刺さってる男を抜き取っては担いでと猛ダッシュで逃げる。


人二人分の重さを背負っているというのにそのスピードは凄まじく、逃げるのにその必死さがよく伺える。


残った竜也は追うつもりなんてないらしく、纏っていた右腕を元に戻し、腕輪(ガントレット)の中へと収納した。




「…ふぅ」




怒りがスーッと完全に抜け切ると一呼吸置いて落ち着きを取り戻す。


鬱憤が晴れたのか、清々しいまでの表情を作り、何事も無かったかのように再びほっつき歩こうとしたが…




「お、おい!!あいつナニモンだ!?」


「すげぇ!!かっこいい!!」


「一瞬で鎧を纏うとか聞いた事ない!!」


「い、いくらだ!?いくら欲しい!?我のボディガードにならぬか!?」




盛大な拍手、そして異国語ながらの歓喜の声。

正義のつもりでやったわけじゃないというのに周囲の人々から賞賛の声を浴びる。


竜也は怒りで我を忘れていたが、騒ぎを起こしたことに変わりないと悟ったのか、恥ずかしくなってそそくさと逃げるようにその場を後にする。




「………」




だが竜也は気付いていない。

その人混みの中に、先程説明をしてくれたカリンの姿があることに。












「こ、ここまでくりゃもう大丈夫だろう」




場所は変わって人気(ひとけ)のない路地裏。

竜也はさっきまでしていた行いを思い出して恥ずかしがっている。


怒りで我を忘れていたとはいえ、騒ぎを起こしてしまった以上、人の前に居づらくなってしまった。


人助けが出来たのはいいものの、自分で自分の首を絞めているような気分が拭えず、両手で頭を抱え、下へと俯く。


恥ずかしかった。

言語が違えど人に褒められることが。





「お、お兄さん?」


「うわっ!?」


「ひっ!?」




俯いてて前が見えなかったこともあってか、急に異国語で話しかけられ、また驚く竜也。


それにつられて話しかけてきた少年も驚いて思わず尻もちを着く。


どこか同じやり取りをしたことがある気がするのだが、そこは触れないでおくとしよう。




「あ、あぁお前か…。さっきは大丈夫だったか?…って言っても、通じないよな…」




日本語が通じないのは分かっているが、人との会話で日本語を使ってしまう癖が抜け出せないのか思わず使ってしまう。


通じない証拠に少年は首を傾げているだけで何も言ってこない。




「さ、さっきはありがとうございます。お兄さん、かっこよかったよ」




言語は通じずともどこか褒めているように聞こえた竜也は恥ずかしさを加速させる。


頭をお辞儀している辺り、お礼でも言ってるんだろうが、竜也は照れながら「そんな事ない」と言わんばかり片手でブンブンと左右に振る。




「何かお礼をしたいのですが…あっ」




そんな竜也を他所に少年はポケットに手を突っ込んであるものを渡す。


それは小さな瓶で、中には緑色の綺麗な液体が入っているものだ。




「これは…回復薬か?」


「薬草を粉末状にして作ったものです。僕が作ったものなので効くかどうか不安ですが…良ければ使ってください」




竜也はゲームオタクなのでその緑色の液体がなんなのか言われる前に察して答えた。


偶然にそれは正解で、正体は少年が採取した薬草で粉末状にして作った薬だという。


ただ手作りなので効き目があるかどうかは不明だが、いざと言う時に使って欲しいと少年は言う。


不安とはいえまだ小学生のような見た目をして薬を作り出す。


それだけで才能を感じる。

地球にいたら間違いなく将来ノーベル賞受賞をしているだろう。




「じゃ、じゃあ僕はこれで…!!」


「あ、おいちょっ…」




ぺこりともう一度お辞儀するとそのまま走ってどこか行ってしまった。


傷口に塗るのか、それとも飲むのか。

正しい使い方についてジェスチャーでもいいから教えて欲しいと引き留めようとしたが、聞く耳を持たずに走っていった。




「ったく…。勝手なやつだ」




貰ってしまった以上仕方ないと革服に備わっていたポーチにしまい、人の顔を合わせないようにと路地裏から___





「へぇ、いいとこあるじゃん」


「どわぁっ!?」




…出ようとした瞬間、突然後ろから声を掛けられ、驚きながらも振り返る竜也。


そこには誰もおらず…というわけではなく、屋根の上から見覚えのある人物が降りてきた。


その人物が綺麗に着地するとコツコツと足音を立てて竜也に近付くと光が差し込み、顔が映し出された。




「な、なんだ…お前か…」


「ちょっ、なんだって何よ。せっかく来てやったのに」




特徴的な赤黒髪の持つ少女、カリンだった。

だが以前のことについてまだ引きずってるのか怒ってると思えば優しい笑みを作っている。




「ちょっと見直したな。アンタのこと」


「いや、なんか腹が立ったから殴っただけ…っつーか…なんつーか…」




思い立った行動だったので何と説明すればいいのか分からず、言葉が上手く出てこない竜也。


それが面白かったのか、カリンは笑った。

対して竜也は不満だったのか恥ずかしそうに「なんだよ」というだけで何もしない。




「それにしても、アンタ普通に戦えるじゃない。なんで断ったのよ?」


「馬鹿言え。相手が人間だったから何とかなったんだよ。それが化け物相手なら話が変わってくるだろ?」




竜也は何度でもドラゴン相手では太刀打ちできないと言うが、カリンはそういう風には思えないらしく、一人納得出来ない様子だった。


だが竜也の言うことも分からなくもない。

ドラゴンと戦う、それはつまり分かりやすくいえば()()()()()()()()()()()()()ような状態だ。


仮にシグルズのような鎧があったとしても生き残れる可能性なんてない。


ライオンで例えたがそれだって同じ。

鎧を着ただけでライオンの攻撃に耐えられる保証なんてない。


竜也は不安だった。

人間誰しも死にたくない、こんな訳の分からない世界に飛ばされてしまったら不安しか残らない。


それだったら何もしなけりゃいい。

触らぬ神に祟りなし、自分から何もしなくても何とかなると竜也は思った。




「…まぁでも、気持ちは分からなくもないかな。私だって最初はそうだったし」


「なに?」




そんな竜也を見兼ねてカリンは過去の自分を言い始めた。




「あんまり覚えてないんだけどね、でも初めて無理矢理戦場に立たされた時の恐怖は覚えているよ。殺すのも嫌だし、殺されるのも嫌だ。人は誰だって争いを望まないからね」


「だったら尚更___」


「でもね。時としてやらなきゃいけない時だってあるの。例えそれが他の人を…大切な人を殺すことになっても…」


「…カリン、お前…」




竜也はあることに気付いてカリンに声を掛けた。


カリンが泣いている。

ただ静かに、声を荒げずに、スーッと目から頬に掛けて冷たい涙が地面に落ちる。


様子からして昔何かあったのだろう。

一部とはいえ、記憶が抜かれているカリンが泣くほどの、重い記憶が。




「あれ…?なんで泣いてるんだろ、私…」




自分でも気が付かなかったらしく、ボロボロのコートで自分の涙を拭うカリン。


竜也は何も言わない。

というよりなんと声を掛ければいいのか迷っていた。


前にも言ったが、竜也は異性との交流など皆無に等しいほど無縁のものだった。


だから何も言わない。

慰めたところで変にされるのも嫌だろうと思い、カリンを見ないようにと背を向ける。


だが竜也の心の奥底で何かが動いた。

自分の言いたいこともわかる、けどカリンがいうやらなければならない時がいずれ来る。


それがいつ、どこだとしても、必ず。

だからカリンはここまで来た、どんな犠牲を払ってでもここまで生き残った。


そう思うとなんだか自分が情けなく感じる。

…竜也は握る拳を見つめ、自分の愚かさを悔やんだ。




「わかったカリン。…俺も戦う」


「え?」


「別にヒーローとかそういうのになりたい訳じゃない。けど、世界を滅ぼされちゃ俺も蓮も困るしな」




ニヤリと苦笑いする竜也。

彼本人はヒーローやら英雄にやらなるつもりもなければ興味もない。


けどこの世界にドラゴンがいる以上、滅びがいつ起きるのかわからない。


数時間後か、十年後か。

いつ来てもおかしくない滅びの運命を待つのなら自分から動いてやるとそう決意したらしい。




「リューヤ…」




決意が固まった竜也を見て、カリンはキョトンとする。

さっきまで弱気になっていた人間がこんな短時間で別人のように見えるようだ。


竜也は本気だった。

ただ腕輪(ガントレット)が付けられている腕を握って、自分の拳を見つめている。


ここまで切り替えられるのなら相当の精神力を持っていると伺える。


正直、竜也は覚悟なんてまだ出来ていない。

けど逃れられる滅びが迫ってる今、時間なんてない。


それなら抗おう。

奴らを絶滅させる、その時まで。










_カーン…!!カーン…!!


その時だった。

危険を知らしめる、鐘の音が街全体に響き渡るのが。




「っ!!」


「な、何だこの音?カリン、何か知ってるか?」




竜也は鐘の音についてよく分かっていないようだが、カリンは腕輪(シグルズ)を見て目を見開いていた。


カリンの様子が普通じゃないと察したのか竜也はその腕輪(シグルズ)に展開された光を覗き込むように見つめる。


何やら赤い点のようなものが中央にある矢印マークに向かってきているのがわかる。




「来る…!!」


「え?な、何が…?」




竜也は何が来るのか理解出来てないが、なんとなく嫌な予感がするのか額から冷たい汗が流れ落ちた。


いやまさか、そんな馬鹿な…。

何度も心の中でそう言い聞かせ、祈り続ける。







_グオオォォォォッ!!!


だが祈ったところで何も変わらない。

遠くにいると分かっていながらも耳元まで聞こえてくるその重い咆哮が街全体に響き渡る。


街の賑わいは一瞬にして消え失せ、不安の声ばかりが聞こえてきた。


ここまで来てしまったら間違いない。

奴らが…この街にやってきたのだ…。







「ドラゴンが…この街に来る…!!」

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