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ep.7 検証と得た力

あらすじ

『スキル継承』は劣化コピーだった


 あれから3時間くらい検証に付き合わされることになった。

 一度継承して結果を確認する度に二人は議論を交わすので無駄に時間がかかる。


 好奇心旺盛な二人には辟易させられたが、全部で10回にも及ぶ実験で『スキル継承』の能力について分かったことがある。


・『スキル継承』そのものは他人に継承することができず、ウインドウが浮かんだまま。

・元々『魔力生成』を所有している人間に継承しても何も起こらない。

・一度継承したスキルは重ねて継承できず、やはりに何も起こらない。

・ミティとカティに『記憶力強化』を継承したところどちらも『記憶力強化3/10』だったが、エロイに継承すると『記憶力強化4/10』だった。

・エロイに『植物紙生成』を継承すると『植物紙生成1/10』で消費命数が10に増えていた。

・俺に『塩生成』を継承したところ『塩生成5/10』で最高値。ちなみにシモンは『塩生成2/10』だった。

・双子が『高速思考』を欲しがったので継承すると二人とも『高速思考4/10』だったので双子が継承する能力の劣化幅は同じになると予想。


 合計で命数120の消費である。120日の余命を対価にして得られた結果としてはやや不満足だ。

 重ねて継承できれば命数はかかるが完璧にスキルをコピーできたというのに。


「いやー興味深い結果が得られて満足だよ。まだまだ調べたいことはあるけれどね」

「実験の結果とはいえ新たなスキルを得ることができましたし、収穫ですね」


 ホクホク顔の2人に比べ、双子はやや不気味な気配を発している。


「楽して記憶力げっと」

「簡単に思考速度あっぷ」


 満足そうで何よりである。


「そういえば、随分と命数を使わせてしまったね。僕とエロイ君で60ずつ補填するから右手を出しておくれよ」

「握手、か?」


 シモンが握手をするように右手を差し出してきたので握り返す。命数の受け渡しの作法だろうか?


「ヒナタ君に命数60を譲渡するよ」


 シモンの宣言とともによくわからない感覚が右手から体中に入ってくる。エロイとも同じ儀式を行い、ステータスを確認すると



―――――――――――――――――――――


名前:霧島 日向

年齢:21歳

命数:300

スキル:『高速思考』『スキル継承』『魔力生成3/10』『塩生成5/10』


高速思考:集中力に応じて体感時間を極端に長くすることができる。

スキル継承:両者の合意の元でスキルを継承させることができる。命数:10

魔力生成3/10:常時魔力を生成し、一定量を貯蔵する。貯蔵量は本来の能力の10分の3。

塩生成5/10:命数と引き換えに塩を生成する。命数2。


―――――――――――――――――――――



 しっかり増えている。命数だけでなくスキルも増えているのでタダでスキルが貰えた結果だ。


「ありがとな。俺のスキルの検証なのに全部二人持ちなんて」

「村に有益な能力の検証ができたんだからいいさ。僕も念願の魔法を使えるからね」

「むしろ、消費命数10のスキルを使用してもらっているのだから手数料としては少ないのではないでしょうか?」

「そうだね。しかし、無理に継承しようとすると命数を消費して何も起こらないなんて損した気分だね」


 そう、継承の重ね掛けをしようとすると命数を消費するだけでスキルは変わらなかったのだ。『スキル継承』を継承しようとすると「スキルを選択して継承を行ってください」の文字が浮かんでいるだけだった。


「ところで、この命数のやりとりは右手じゃないといけないのか?」

「……そうだよ。右手を失うと命数の取引ができなくなるから気を付けてね。一度死んで復活すれば生えてくるけど、復活に必要な命数がないと誰からも貰えずに死を待つか片腕で戦いに行かなきゃならなくなる」


 シモンは少し暗い顔を見せ、エロイも悲しそうな表情になる。もしかしてそんな死に方をした人物がいたのだろうか。だとすれば悪いことを聞いてしまった。


「弟子よ」

「ん?なんだ?」

「弟子のくせになまいきな口きいてるね」

「弟子じゃないからな」

「お礼あげる。カティたちは楽して力をえたから」


 そう言うと小さな右手で俺の右手を握る。「命数20譲渡。お姉ちゃんのぶんまで」と言って譲渡を行うとミティのところへ戻っていく。良く分からんが貰えるものは貰っておこう。これで復活回数が3回になったし。


「さて、女神像の前に長居してしまったね。外で戦闘をしてきた荒くれ者たちと顔を合わせたくないからさっさと帰ろう」

「そう言わずに。彼らがいるから私たちも安全に暮らせているのですから」

「野蛮な彼らにまで優しいなんてエロイ君は本当に人格者だねぇ」


 ハハ……と乾いた笑いを漏らすエロイは本当に人格者である。しかし真の人格者ならばしっかりと諭すのではないだろうか。つまり面倒なので何も言わない俺は人格者ではないということだ。


「少し早いけど夕飯の準備をしておこうか。と言っても赤い実と山菜はレイラに貰えるから荒くれ者たちから肉を分けてもらう交渉だけだけどね」

「その役目はいつも私なんです。戦闘で破損した武器防具の修繕もそこで請け負えますからね」


 エロイがそれでは、と手を振って『賢者の宿』の拠点とは別の方向に歩いて行った。

 拠点に帰る道中で双子が俺の横を固める。こいつらは何がしたいのか。


「命数さえあれば楽してさいきょう」

「塩胡椒であらかせぎ」


 ろくでもない作戦が耳に入ってくるので聞こえないふりをする。折角の異世界なので最強の座は俺が狙いたい。楽して。

 そうこうしているうちに拠点に着くが、お客さんが一人いる。


「おう、嬢ちゃんたち!今日も塩と胡椒を貰いに来たぜ!」

「おつかれパシリ」

「おつかれしたっぱ」

「……その呼び方やめてくんねぇかな?」


 情けない顔をしている男はこちらに顔を向けると「おっ」と声をあげ話しかけてくる。


「お前さんが噂の新人のヒナタってやつか」

「噂?どんな?」

「なんでもとんでもねぇ便利スキル持ってるとかなんとか。ああ、俺は『赤槍の獅子』のクリスだ。よろしく頼むぜ?」

「仕事は雑用とおとり」

「あだ名は逃げ足のクリス」

「余計な事教えてんじゃねぇよ!ったくこの双子は……」


 ぶつぶつ言いながらも仕事を果たすようで「塩を10回分、胡椒を5回分頼むぜ」と諦めた顔で言った。


「今日から値上がり」

「ひとにぎり命数3」

「なんでだよ!?」


 きっと「楽してさいきょう」作戦の一環だろう。俺は悪くないがクリスには涙を呑んで二人の糧になって貰おう。

 シモンが困った顔で双子に注意する。


「ダメだよ、塩と胡椒は一回命数2というのはギルド間の取り決めだからね」

「ざんねん」

「けいかくが」

「ビビらせんなよ……。怒られんの俺なんだぞ?最近ヴコールの旦那がピリピリしてんのに」


 私利私欲であっさりと値上げする双子に生命線である塩を生成する能力を預けるのは危険な香りがするな。俺なら利益は出ないが命数2で塩を提供することができる。双子に恨まれるだろうからしないけど。

 ミティが掌の上で生成する塩は、一握りと言っていたが大体50グラムくらいだろうか? 小瓶の塩と同じくらいに見える。


 残念そうに塩と胡椒を生成して袋に詰め、クリスから命数を受け取った双子は庭に向かう。


「魔法の修行するよ、新人」

「師匠のカティがおしえる」

「お?お前さん魔法使いだったのか?ますますウチに入ってくれそうにねぇなぁ」

「まあ、そんな感じかな」

「ウチだって悪いギルドじゃねぇんだぜ?ライオネルの兄貴が怪我しちまってから変な感じだけどよ……。明後日は『赤槍の獅子』にくるんだろ?またな」

「ああ、その時はよろしく頼むよ」


 塩と胡椒の入った袋を持つとクリスが帰っていくが、その背中は中々小物感が溢れている。なんとなく部下に欲しい感じだ。焼きそばパン買って来いよ。

ロリが手のひらで生み出す塩。価値は高い。

クリスは雑魚キャラです。


お読みいただきありがとうございます。

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