ep.4 異世界人たち
あらすじ
まずはシモンのお宅訪問
「さあ、ここが僕ら『賢者の宿』の拠点だ。みすぼらしいと思うかもしれないけどね」
徒歩一分。シモンに案内されてやってきたのは女神像が見える場所に立った平屋だ。長屋のような造りで繋がっているその拠点はコの字型で中央に玄関らしきものがある。
俺らが立っているのはその玄関の前の広場で、井戸と物干し竿以外何もなかった。
「なあ、一番綺麗でしっかりした造りってのは自虐ネタか何かだったのか?」
「残念だけれど、本当なんだよ。ここは僕ら最初の使徒が召喚されてからコツコツ大きくしたものだから、もっとも古い建物と言えるね。ちなみに二年半ほど前の話さ」
「に、二年半……」
衝撃的な事実である。たった二年なのか、そんなに長い期間戦っていると考えるべきか。たった5人から始まった村にこの拠点を建てることができたのはすごいことのように思う。
しかも、その期間に増える使徒はそれぞれ異なる世界から送られてくる訳で。
「ごめんな。苦労したんだな、シモン」
「いや、大工仕事なんてやりたくないからあまり手伝ってないよ。もっと僕に相応しい仕事じゃないとね」
「おう、前言撤回するわ」
シモンはブレずにシモンであった。
ならばこの建物は誰が建てたのだろうか? 見た感じでは素人が建てられるような造りはしていない。
それに建材はどこから持ってきたのか。見渡す限りここは荒野のようで、ここの拠点以外にも複数の木造の家やテントのようなものを見かけたが木材を調達できるような森林はおろか雑草すら殆ど生えていない。
「ここを建てたのは主に『賢者の宿』の1人さ。これから紹介するから少し待っていてね」
そういうとシモンは駆け足で玄関から建物に入っていき、少しすると仲間を連れて戻ってきた。
シモンを除くと男性二人と女性三人である。
「紹介するよ! 彼が先ほど召喚されたヒナタ君だ」
「よろしく頼むぜ、坊主。ウチに入るのか?」
「いやいや、これから三日かけて見学してもらうのさ」
「そうなのか。俺はウルガンってんだ」
初めに声をかけてきたのは髭面の男性でオヤジと呼びたくなる風貌だった。革の服を着ていて、体格はがっしりしている。なんだろう、身長は170㎝くらいあるのにドワーフ的な何かを感じる。
さらにガハハと笑いながらこぶしをこちらに向けてきた。
「俺はヒナタです、ウルガンさん」
とりあえずコツンとこぶしを合わせておく。
「おお?この挨拶を知っているとはオメ―、俺と同じ――――出身か?」
「いやぁ、違うと思いますよ。聞き取れませんし」
「そうか。この挨拶はあまり主流じゃないらしくてなぁ。いつも驚かれるんだが」
ドワー……ウルガンは少し残念そうな顔をしてこぶしを下ろす。
「そうだ、この建物は俺が作ったんだよ。どうだい、立派なもんだろ」
「ウルガンは『木工道具召喚』のスキルを持っているんだ。もともと大工をやっていたらしくてね、村中の建物や家具なんかも彼が作っているよ」
「いや、すげぇな」
思わずそう言うと、ガハハと笑いながら頭をかいて照れているようだ。ちょっと気持ち悪いのでやめて欲しい。
するとウルガンの横から女性が不機嫌そうな顔で出てきた。
「木を切り倒し、切り刻むことのどこがすごいと言うのですか? 私にはこの子達が不憫でなりません」
そう言って玄関の柱に手を添えて憂うその女性はめちゃくちゃ美人で、完全にエルフだった。
いや、気になってはいたんだ。痩身で色白で美人で耳の長い女性が出てきた時点で「エルフキター!」と叫ばなかった自分を褒めて欲しいくらいである。というかエルフがいたからこそウルガンのこともドワーフに見えたわけだが。
そんなエルフは玄関の柱に縋りつくと「救えなくてごめんなさい……」と涙を流している。見ればポニーテールのよく似合うお姉さまといった顔立ちなのに何とも残念な行動である。
「か、彼女は……?」
「彼女はレイラだよ。エルフという種族で百歳を超えていると言うのだけど、どうにも未だに信じられないよ」
「エルフって長寿で弓と魔法が得意で森と調和して生きるっていうエルフであってる?」
「おや、知っているのかい?」
知っているも何も定番中の定番ですし。
そんなエルフのレイラは俺が「森と調和して生きる」と発言した瞬間にグルンッと音がするような勢いで振り返りこちらに迫ってきた。
「そのとおりです人の子よ。あなたはエルフと森の大切さをよくご存じのようですね。見て御覧なさい、ウルガンなどという野蛮人に切り刻まれた木々の痛ましい姿を。可哀そうだとは思いませんか?」
「はぁ、まあ」
「誰が野蛮人じゃい」
特に思いませんけど圧が強すぎるので頷いておく。間近で見るレイラの顔は恐ろしいくらいに整っているが、鬼気迫るその表情が台無しにしている。
「人の子、ヒナタと言いましたか。エルフのことをご存じであればエルフがどれだけ木々を大切に思っているか分かっているのではありませんか?」
「まあまあ、新人にそんな勢いで話しかけては驚いてしまいますよ?」
「出ましたね鉄弄り」
鉄弄りと呼ばれた男は高身長で茶髪の柔らかい笑みを浮かべた知的なイケメンである。魔法使いのようなローブをまとっていてやんわりとレイラを遠ざけてくれる。
「私は錬金術師のエロイと申します。この村では主に鉄製品の加工をしています」
「よろしくお願いします、え、エロイさん」
エロいとな。人の名前で笑ってしまうのはかなり失礼に当たるので我慢しなければならないが、見るからに真面目で優しそうな青年がエロいとは。いや違う笑ってはダメだ。想像するな自分よ。
「鉄弄りめ。私が森の偉大さを広めようとしているのに邪魔をしないで欲しいですね」
「その呼び方はどうにかして欲しいんですがね……。彼女は精錬に木炭を使う鉄を毛嫌いしているので私のことを鉄弄りと呼ぶのですよ」
「錬金術で木炭を使うんですか?」
「いえ、使わないと何度も説明しているのですが……」
エロいよりも鉄弄りの方が俺としては助かる呼び方である。エロいだと一体何を弄ることになるのか。やめろ俺考えるな失礼だぞ。
レイラが二人に喧嘩を売り、ウルガンが言い返し、エロイがなだめる。その光景はおそらくいつも起きていることなのだろう。
「すまないね、ヒナタ君。僕の仲間たちは癖が強いだろう? 僕も難儀しているけれど、みんな知識が豊富な人材ばかりなんだ。じゃあ、残りの二人を紹介するよ」
「姉のミティ。16歳。好きなことは食べること」
「妹のカティ。16歳。嫌いなことは働くこと」
やる気のない二対の目でじっとこちらを見ている二人は無表情系双子ロリ。それが彼女らの属性で、年齢よりも3歳くらい幼く見える。
姉のミティは濃い青の髪色で、妹のカティは薄い空色。見分けることは簡単だがあまりにもそっくりな顔と表情は何を考えているか全くわからない。
「彼女たちは双子の姉妹で、優秀な魔法使いだよ。あまり働いてくれないけどね」
「よろしく、新人」
「よろしく、後輩」
あまり多くを語らない二人だが、明らかに俺の上に立とうとしている。なんだ?権力が欲しいのか?
「これで現在所属している『賢者の宿』の仲間は全員だよ。さあ、中に入って。君の重要な能力、『スキル継承』について検証しようじゃないか。それに、この村のことも教えてあげるよ」
そう言って双子とともに玄関に入っていく。外で言い合いをしている三人は放置するようだ。
なかなか賑やかなギルドだけど、ここに入ると疲れそうだなぁ。
一気に登場させすぎたかも?
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