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ep.2 命数とスキル継承

あらすじ

異世界にきた。


 ヴコールの背を見送るとシモンは大きなため息を吐いてこちらを振り返って肩をすくめる。

 その表情は「やれやれ」と言わんばかりだ。お前のせいじゃね?


「彼は無法者の山賊まがいの人物でね。僕らも持て余しているんだ。ねぇ、ディアナ君」

「貴様が奴を煽るからだろう、シモン。君はヒナタと言ったな。私はディアナ・グラルディオラだ。これから君を女神像に連れていき、祝福を授かってもらう」

「よろしくお願いします、ディアナさん。祝福というのは、いったい?」

「それは僕が説明しよう! 我々『契約と代償の女神』の使徒はこの世界に送られると同時に祝福を二つ授かるんだ。我々はスキルなんて呼んでいるよ」


 なんとこの世界はスキル制だったようだ。ただ鍛えて神と戦えというのは流石に無理があるのでありがたい仕組みである。


 そんなことよりも現在、とても大事なのはディアナ・グラルディオラさんである。なぜお腹が丸出しなのか。白くて引き締まり、うっすらと腹筋が浮いている理想的な腹回りはなんなのか。ベリーショートの髪やキツイ目つきを含めて性癖にぶっ刺さっている。

 

 俺の思考を知らないシモンはスキルの説明を続ける。


「ちなみに僕のスキルは『記憶力強化』と『植物紙生成』だよ! 正に学者としては垂涎(すいえん)のスキルだよね。早く学問を修めれるし、研究や出版に使う紙代に悩まされることはないし!」

「戦いの役に立たない上に文字を読めない人間が多いここでは需要も少ないがな」

「……本当に嫌になる世界だよ、ここは」


 実に彼らしいスキルだが、確かに戦闘で活かせる能力ではない。紙を縦にして敵をシュッとして切れば痛い。無理か。


「シモンのように頼りない能力ならばヴコールから強引な勧誘を受けることもない。その代わり、ここでは生きるのに工夫が必要だろうが」

「……その話は後でもできるよ。早く彼を連れて行こうじゃないか」

「ここは神殿ですよね? 女神像があるんじゃ?」

「神殿に見えるけれど、女神像は神殿の正面に立っているからついてきてくれたまえ」


 そう言って三人で移動するが、神殿の木の扉を開けたところですぐに女神像が目に飛び込んできた。周辺には複数の木造の住宅が雑に立っていてお世辞にも立派な家とは言えない。

 その中に立っている石造りの女神像は、まるで生きているような造りで、それでいて石よりも無機質な表情をしている。

 絶世の美女なのになぜか全く魅かれない。


 手には石板を持ち、内容をこちらに向けるように立っているがそこには何も書かれていない。


「これが女神像だよ。あの石板に紙をあてると自分の授かっているスキルや、様々な情報が浮き出てくる。僕がここで生き残っている理由だよね」


 なるほど。貧弱なシモンさんでもスキルの確認に必要な紙を作り対価を得ているのだろう。となると、殺し合いなんて経験がない俺が授かる能力によっては生き残るのが厳しくなる。世知辛い。


「実際には大きな植物の葉でも良いのだが、この近くには生えていないのでな。女神との契約を口頭で行った者は石板に触れると、その者にだけ内容が聞こえるらしい」

「文盲は大抵一度で覚えられないからね。石板に触れてボーっとしている人を見たら文盲の民だよ。関わらない方がいい」


 ディアナの丁寧な説明と、シモンの呼吸をするような文盲ディスを聞き流しながら女神像に近づく。


「さあ、祝福を得る時だよ、ヒナタ君。最初の一枚は僕からのサービスだ。気に入った新人じゃないとしていないサービスだけどね」

「親指から血を流せば受けることのできるサービスだ。気にしなくていい」


 調子のいいシモンが懐から出した紙を受け取り、ディアナの助言通り気にせずに使用する。

 石板に押し付けた紙に文字が焼き付けられるように浮き上がってくる。



―――――――――――――――――――――



名前:霧島 日向

年齢:21歳

命数:300

スキル:『高速思考』『スキル継承』


高速思考:集中力に応じて体感時間を極端に長くすることができる。

スキル継承:両者の合意の元でスキルを継承させることができる。命数:10。



―――――――――――――――――――――



 高速思考はスポーツでよく聞くゾーン感覚のようなものだろうか? 上手く使えれば戦闘に活かせるかもしれない。

 そしてスキル継承。なかなか物議を(かも)すスキルのような気がする。


「思っていたよりも年上なんだね」

「えっ、ちょ、見ないでくださいよ」

「いいじゃないか。案内人の特権さ」


 自分が授かったスキルを把握しようと紙を眺めていたら横からシモンが覗いてくる。

 いや、それよりもこのステータス(?)には一つ気になることがある。


「命数……?」

「ああ、それはね。文字通り君の命の日数だよ」

「もう少し具体的に教えてやれ」


 「わからないの?」という顔のシモンにちょっと手が出そうになってしまった。


「日が昇るたびに命数は一つ減る。ゼロになったら()()()()()んだよ」


 【速報】余命が決定した件について。


「……じゃあ、せっかくこの世界で生き返ったのに300日で死ぬってことですか?」

「他者から貰ったり、他の神の眷属を殺せば増えるんだ。僕らがここで生きていくためには戦士が命数を稼いで流通させないといけないってことだね。

 それと、命数が101以上残ったまま死ぬと命数100と引き換えに神殿で復活できる。この領域の外は一度や二度死んでもおかしくない世界だから、余裕をもって生きていかないといけないよ」


 これは、結構シビアでは?

 お金の代わりに命の日数をやり取りしているはずで、水や食料など必要なものがタダで手に入るとは思えない。更に、『スキル継承』の説明欄に『命数:10』と書かれているのは、命数を消費して発動するスキルという事ではないだろうか。


 復活できるのは嬉しい仕組みだが、現時点で二回しか復活できない。ゲームであれば残機が少ないと嘆いているところだ。


「まさに契約と代償(・・)の女神だよね。まあ、女神像の周辺に他の神の眷属はあまり寄ってこないし、見回りもいるから安全だよ」

「ではヒナタ。君のスキルを教えてもらおうか。ここではスキルを開示するという取り決めがあるんだ」

「わかりました」


 本当かどうかわからないがここで拒否はしたくない。決してディアナの白いお腹に逆らえなかったわけではないのだ。


 説明したがりのシモンをさりげなく引きはがしながらディアナが紙を受け取る。


「高速思考、これは有用そうなスキルだ。しかし、このスキルは……」

「スキル継承ねぇ。実はスキルは女神に命数を捧げることで追加で授かることができるんだけど、それも命数100が必要なんだ。しかもどんなスキルを授かるかわからない。

 両社の合意が必要とはいえ命数10で、能力のわかっているスキルを手に入れられるというのはかなり、いやとんでもなく有用だね」

「……取り合いになるな」

「正直、是非とも僕のギルドへ来て欲しいよ」

「それは私も同じだ」


 二人が難しそうな顔をして唸る。やはり特殊なスキルだったようだ。

 というか地味に重要な情報をシモンは言っている。女神に命数100を捧げてスキルガチャとは、なかなか射幸心を煽ってくれるじゃないか。

 破産しかけてやめた課金の日々の記憶が蘇ってくる。


 早速命の課金をしようかと考えていると、相談する二人の元へ一人の青年が走ってきてディアナに話しかける。


「団長! ここにいたのですか。もしや、その方は?」

「ああ、新たなる使徒のヒナタだよ」

「やはり……。ここへヴコールの一党が数人で向かってきております。新人を無理やり引き入れるつもりかと」

「無理やりとは人聞きが悪いですなぁ」


 建物の陰から声が聞こえ、ヴコールを含め5人の男たちがこちらへ歩いてきた。


「お初にお目にかかります。私はギルド『赤槍の獅子』に所属しているアラリコと申します。以後、お見知りおきを」


 アラリコと名乗った男は痩身で歳は30半ばくらいだろうか? 見るからに胡散臭いなりをしている。

 ヴコールの横から一歩前に出て慇懃無礼に頭を下げる男は、こちらを嘗め回すように見て厭らしい笑みを浮かべるのであった。



連載続けられるように頑張ります。

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