ep.26 黒騎士
あらすじ
カッコ良く登場した兄貴
骨が散らばる荒野、そこに赤槍を構えた兄貴が笑いながら仁王立ちしている。
血が流れて鈍った頭でその光景を見ていると体から力が抜けてしまった。安堵感で胸がいっぱいだ。もう大丈夫、自然とそう思えた。
「この敵は一筋縄ではいかないぞ、ライオネル」
「んなこた分かってんだよ、嬢ちゃん。この俺が負けるわけねぇだろ」
「いや、そんな問題では……」
雑な動作で黒騎士に近寄るライオネル。その歩みは大胆不敵にして自らの武に相当の自信があることの表れだ。
盾を構え警戒心を露にする黒騎士にニヤリと笑いかけたかと思うと残っている左手に持った赤槍でコンッ、と盾を叩く。
「おいおい、ビビってんのかよ?半年振りの復帰なんだ、楽しませろよ」
『ガァ……ォォオオッ!』
不気味な声を上げた黒騎士が突撃槍を振りライオネルを薙ぎ払おうとするが、赤槍でカチ上げられ空を切る。素早く槍を戻したライオネルが槍の持ち手を突き刺す。しかし、乾いた音をを出して貫通した槍に黒騎士は何の反応も見せない。
「チッ、中身は骨か?中心外しただけで当たらねぇとはな。めんどくせぇ奴だな、お前」
『カカカッ!ォォオオ!!』
「だがドン臭ぇ。そんな動きで俺を捉えられるかよ」
圧倒的だ。確実に兄貴が押している。一撃毎に黒騎士の鎧が剥げ落ち、中の白い骨が剥き出
しになっていく。
黒騎士も巧みな盾さばきで攻撃を回避していくが間に合っていないようだ。もはや右手に持った突撃槍は邪魔以外の何物でもない。左手一本でこの連撃。兄貴はもしかして人間ではないのかもしれない。獣人だけどさ。
兄貴は20合も打ち合ったところで距離をとって息を整える。流石の兄貴もアンデット相手に体力勝負はしないようだ。
「テメェは俺一人で充分だな。でもな、嬢ちゃんはしっかり見て行けよ?」
「な、何故だ?確かに盾を奪われた因縁はあるが、ヒナタを離脱させなければ」
「俺の弟はそんなヤワじゃねぇよ。…………気付かねぇか、こんなもん持ってたんじゃあな」
離脱したいです。めちゃんこ痛いので。俺を介護しに来てくれたディアナに支えながら兄貴の方を見る。
そんな俺の視線を感じる事すらなく兄貴はスケルトンに向かって走り、あろうことか突撃槍に向けてドロップキックをかましたのだ。
「げほっ、な、何やってんだ兄貴!?」
「怪我のせいで気が狂ってしまったようだな。君の義兄弟が1日でああなってしまったことは残念だが、早く逃げて墓でも作ってやろう」
「気狂い扱いしてんじゃねぇ!ほら見とけよ、腰の剣を抜くぜ」
「剣……?それがなんだと――――――――ッッ!!??」
片手に剣を持ち、神盾を構える黒騎士。所々骨が見えて邪悪ではあるが、間違いなくあの構え方はディアナと同じものだ。
「そ、そんな――――まさかっ!?」
「ああ、元団長様だろうな。誇り高い騎士様が何てザマだよ?なぁ――――答えてみろッッ!!ガウェインッ!!」
『………………』
怒鳴るライオネルに対する無言の黒騎士――――ガウェイン、だったモノ。不思議なことに突撃槍を持っていた時よりも威圧感が増している。
「だんまりか?そうだよなぁ、愛弟子ぶっ殺して自分の村に攻め込んでんだ、口が利ける立場じゃねぇよなァ!」
「い、いや、団長だとしてもスケルトンになってしまって喋れないのではないのか……?」
『確かに、私は人の理を外れ弟子に槍を向けた』
「喋れんのかよっ!?」
思わずツッコんでしまって傷口が開いた。痛すぎ。
その声は不気味な声色をしているが、その芯に感じられる意思の固さは本物だ。
『ああ、名も知らぬ若者よ。この獣人に痛めつけられて靄がかかっていた様な思考が晴れたのだよ』
「都合のいいこと言ってんじゃねぇぞ。降参でもするか?」
『私が貴様にか?面白くない冗談だな』
「団長っ!スケルトンをお止めください!何があったかは後で……」
『悪いな、ディアナ。これは骨どもの総意だ。そして私も総意の一部。今は偶然、生前の意識が表に出ているに過ぎない。なぜなら、そうしないと勝てないからだ』
「勝てないって……」
『私は生前を知っているだけの、亡者だ。貴様らに感傷などない。生あるものを滅ぼすだけだ』
ゴスッ!っと地面に赤槍が突き刺さる。青筋を浮かべ分かりやすく赫怒しているライオネルが吠えるように叫ぶ。
「その亡者はお喋りしに来たのかァ!?滅ぼすならかかって来ねぇかッ!!」
『片腕だというのに元気だな、獣人。言われずとも滅ぼしてやるとも』
「テメェも骨だけになって鈍くなったみてぇだがな!!」
怒りそのままに槍を振り上げ飛び掛かるライオネル。しかし、意思を取り戻したガウェインは冷静かつ確実に攻撃を捌いていく。
攻勢に出る兄貴は、片腕でかなり動き辛そうにしている。先程には感じさせなかったハンディキャップが二人の攻防に大きな影響を与えている。
『生前、貴様と決着をつけられなかった事が心残りだった。この手で縊り殺せると思うと嬉しくて堪らないな』
「寝惚けたこと言ってんじゃねぇぞ!死んで性根まで腐っちまったか!?」
激高したライオネルは荘厳な盾に吹き飛ばされて地べたを転がる。不気味な笑い声を上げながら止めを刺そうとするガウェインの目の前に、ディアナが立ち塞がる。
「これ以上、団長の死後を汚させるものかっ!」
ディアナに支えられていた俺は地面に崩れ落ちる。
こうしてガウェインとの戦いは、佳境に差し掛かっているようだった。
黒騎士よりも黒ギャルが好きです。
カッコ良く登場したのに転がる兄貴!
一体どうなってしまうのか!?
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