ep.25 英雄
あらすじ
すごい盾もった黒騎士
元騎士団長ガウェインの盾といえばドラゴンブレスにも耐える神の盾だ。その力は魔槍にも劣らない。湿地でディアナが殺された時に失くしたその盾を黒騎士はまるで自分の物かのように掲げて見せる。もう片方の手には真っ黒の突撃槍だ。
周囲のスケルトンは黒騎士に近づいてこない。黒騎士が恐れられているのか、それとも俺に危険を感じていないのか。
『コォォ……』
漆黒の瘴気が体から溢れ出している。見るからに強キャラの予感だ。
しかし、こいつを倒せば残りは雑魚。ディアナや兄貴が何とかしてくれるだろう。最悪、俺が死んでも復活が可能だ。アンデット相手にゾンビアタックできるくらいには命数が余っている。
俺は馬上の黒騎士に向かって槍を向ける。
「上から見下ろしてんじゃねぇ!気に食わねぇんだよテメェは!」
ムカつく。ディアナが大事にしていた盾を持ったコイツが。俺に感情を向けることのない強者が。
ムカついて堪らないんだ。
「貫けぇッ!」
『ォォオオオオ……』
ドラゴンすら貫いた魔槍が盾に弾かれる。
「――――ッァアア!!まだだッ!」
突く。薙ぐ。払う。叩く。押込む。
何をしても盾を突破できないし、簡単に捌かれる。槍の技量が足りないこともあるが、黒騎士の技術は尋常じゃない。まるで達人のように俺の動きを予想して防御しているのが分かる。
黒騎士の乗る骨の馬から距離を取って息を整える。使い慣れない槍よりも刀の方が良いかとも思ったが、あんな盾に切りつけたら刃が一発でオシャカだ。
撤退を視野に入れて考えていると後方から足音が聞こえる。
「若ァ!生きてますかい!?」
「馬鹿野郎!迂闊に近寄るんじゃねぇ!」
スケルトンの集団を薙ぎ払ってこちらに飛び出す両手剣を持った『赤槍の獅子』の男は、一目散に黒騎士に向かって行くと、それに合わせたかのように骨の馬がその男に向けて駆け出す。
「オラァ!殺すぞァ――――っあ?」
『…………』
威勢のいい男を無言で薙ぎ払った黒騎士。男は槍の腹で叩かれただけなのに体をくの字に折り曲げて吹き飛ばされていく。その方向にはスケルトンの集団が待ち構えているので助かる見込みはない。
願わくばヤツの命数が101以上あらんことを。
「――――隙ありィィッ!!!!」
滑稽な囮を気にすることなく全身の筋肉を使って背後から槍を突き出す。卑怯とか言うなよ? 悲しいけどこれ、戦争なのよね。
そんな全力の一撃も黒騎士の槍に弾かれてしまう。だが、そこで終わる俺じゃない。
弾かれた槍の勢いを利用して馬の骨盤を貫く。上にいられると攻撃が届きにくいから引きずり降ろしてやればいいのだ。
骨盤を砕かれた馬は後ろ足を折り倒れてくるが、黒騎士は何事もなかったかのように飛び降りてくる。
早まったかもしれない。こいつ、馬から降りても動きが遅くなるどころか軽快に近づいてくるぞ。
「寄るなよ!気持ち悪いんだテメェ!」
『コォォ……!』
俺の拙い槍を盾で弾きながら徐々に近づいてくる。突撃槍は流石に重すぎるのか振り回さずに構えたままだ。
つまり、俺は片手で全ての攻撃を受け流されている。
「く、そ、がぁっ! ――――ッ!?」
無造作に振るわれた突撃槍。『高速思考』のお陰で反応し、槍の柄で受け止めようとしたがあっさりと押込まれて脇腹に突き刺さる。
「ッグ、オオオオオオ!!!!」
浅く突き刺さった突撃槍から逃れる為に後ろへ転がるようにして飛び退く。
「あ、がぁぁっ!? い――――」
痛すぎる。傷口が灼けるように痛い。21年間生きてきてこんなに痛かったことは無かった。
傷口を見れば赤い血がドロドロと止まることなく流れ出している。うずくまった体勢のまま血を止めるために左手で抑えるが、触った痛みでまた呻き声を上げてしまう。きっと今は情けない顔をしているだろう。叫ばなかった代わりに涙が出てくる。
セシリオってこれより酷い怪我をしながら喋ってたのか。すげぇな。
「――――ヒナタぁっ!」
ディアナの声が聞こえる。涙で霞む視界の中ではいつの間にか駆けつけていたディアナが黒騎士に飛びかかっているところだった。お互いが盾を上手く使って一進一退の攻防を繰り広げている。
情けない。俺には何もできないのだろうか? できねぇな、こんなに痛いなんて聞いてない。
「立てッ、ヒナタ!そこにいると死ぬぞ!」
「あ、ぐぐ……!」
分かってんだよそんなことは。やっと痛みに慣れてきたところだ、なんなら良いとこ見せてやる。心で強がっても言葉が出てこない。
赤槍を杖にして立ち上がろうとするが手足が震えて上手く立てない。
もうダメかも。そう思った時、後ろからとんでもない風切り音が聞こえディアナと戦う黒騎士の右足に粗末な槍が凄い勢いで突き刺さった。
その衝撃で体勢を崩して転びそうになるが熱くて男臭い何かにぶつかって止められる。
「――――よお、遅くなったな兄弟」
「まだ、早いぜ……兄貴」
「口だけは元気か。それでこそ俺の義弟だ。この槍、やったばっかで悪ぃが借りてくぜ?」
「……やっぱ似合うな」
「だろ」
槍を受け取ると静かに俺を寝かせ、立ち上がるとこちらを睨むように立っている黒騎士を見て笑う。
「辛気臭ぇ騎士様だなァおい。地獄に送り返してやろうか?」
頭上で槍を振り回してピタリと穂先を黒騎士に向けて構える姿は、正に英雄だと思った。
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