ep.24 吶喊
あらすじ
山賊のリーダーみたいになった
周囲は感じたことのない緊張感で包まれている。お粗末な連携しかしていなかったスケルトンが整然と隊列を組んで迫ってきているからだ。
『赤槍の獅子』は幸いにして馬鹿が多いので大きな混乱は起きていない。一部の小心者は逃げ出そうにも逃げられない。村を失えばそこで終わりだからだ。
「お頭はまだかよ!」
「うるせぇな! お前が呼んで来いや!」
馬鹿が多いので喧嘩が始まりそうだ。ゴロスに鉄拳制裁を依頼する。うむ、頭がへこみそうな音が聞こえ争いは収まったようだ。
そうこうしているとスケルトン軍は遠くで一時停止した。こちらは村を守っているので迂闊に攻めることはできない。
まるで誘っているような陣形だ。これも黒騎士の仕業なのだろうか?
「若! もう来やすぜ!」
「突撃しやすか、若!」
「若って呼ぶな! ええい、弓持ちと投擲兵は前へ出ろ! 届きそうならぶち込んでやれ!」
「わかりやした! 若!」
言った傍から呼んでんじゃねーよハゲ! まあ、馬鹿なので仕方がない。
俺はこいつらの弓が届く距離も石が届く距離も分からないのでどんぶり勘定で指示を出す。
こちら側と『騎士団』の陣から散発的に矢と石が飛ぶ。向こうからの反撃がないのは幸いだった。
ゆっくりと隊列を乱さずに行進してくるスケルトンは不気味だ。恐怖も痛みも感じないのはずるいと思う。
「若! そろそろ突撃しやすか!?」
「若って呼ぶなって言ってんだろ! まだだ、まだ待て……」
冷静に機を伺っているフリをする。当然いい感じの距離など分からん。『騎士団』の動きをチラ見しているだけだ。
もう直ぐで50mほどの距離だ。『騎士団』側を見ると更に陣形を固めているようだ。あかん、こちらの荒くれ者たちは今にも走り出してしまいそうだ。
スケルトンの軍勢は『騎士団』に目標を定めたようで進路を右に向ける。
当然、こちらの馬鹿どもは不満気である。
「逃げんのかコラァ!」
「こっち来んかいビビってのかぁ?」
血の気多すぎだろ。ディアナには悪いがこちらが狙われなくて正直ホッとしている。しかし、これ以上こいつらを抑えることは出来そうにないし、『騎士団』が心配でもある。敵の軍勢は少し数が増えているようで兵数は同等だ。
ということは、それだけ向こうに集中されては局所的に数的有利をとられてしまう、んじゃないかなぁ?
『騎士団』の先頭とスケルトン軍がぶつかるり合う。不気味すぎる敵に『騎士団』は腰が引けていて押され気味だ。なんにしても座して見ているのは宜しくない。
「テメェらァ! あの情けねぇ騎士どもを助けに行くぞ! 俺に続けぇ!!」
俺を先頭に『赤槍の獅子』が突撃する。その形は奇しくも先が尖った形になっている。
つまり俺が一番槍。「俺に続けぇ!」が言いた過ぎてつい飛び出してしまった。これは早まったかもしれない。
どんどんと近づいてくるスケルトン軍の横っ腹。赤槍を担いで無心で走る。使い慣れないこの槍はドラゴンの鱗も突き破る魔槍である。差し引きトントンだと嬉しい。
「うぉぉおおおおおおおおおおお!!!!」
走る勢いそのままに槍を突き立てて敵陣へ侵入する。スケルトンは目の前の敵にしか意識がいかないようだ。こんなに堂々とした奇襲はありえねぇな。
想像以上の貫通力で骨を突き破る赤槍。振り回せば意味の分からない威力を発揮して骨をバラバラに吹き飛ばす。何だこの武器。スーパーレアだろ。
敵の武器は割れ、盾は突き抜ける。正直、負ける気がしない。
俺に続いて敵陣に侵入した『赤槍の獅子』の連中も好き勝手に戦っている。周りは敵だらけ、自然と中央に固まって戦う形になっているので突撃して正解だったかもしれない。
この戦いはこの槍に救われたといっても過言ではない。振り回すだけで敵が砕けるのだ。まるで無双ゲーの主人公になったみたいだ。自分、趙子龍名乗ってもいいですか?
遠くでは『騎士団』がスケルトンを押し返し始めたようで、周囲のスケルトンの数も減ってきた。このままだとまたバラバラになって収集が付かなくなる。
「敵本陣に切り込むぞ! テメェら着いてこい!」
「「うおおおお!!!!」」
うむ。良い返事だ。
ふと見ると、敵後方で馬に乗っている黒騎士を見つける。テメェの首を取ればこっちのもんだ。見てろよこの野郎。
「おらァ! 『粒子砲』ォォ!!」
スケルトンが面白いように吹き飛ばされ道ができる。あと2、3発も撃てば奴に届くだろう。近づければ袋叩き。この作戦で行こう。
「すげぇ! 若は魔術師だ!」
「流石はお頭の義弟だ! 若に続けェ!」
だから若って言うんじゃねーよ。
魔力が切れるまで魔法をぶちまけ、槍を振り回して進む。ものの5分で黒騎士の目前へと到達できた。
悠然と構えやがってムカつくなぁこいつ。
「最後の一発だ! もってけ『粒子砲』ッ!」
絞りだした魔法は一直線に黒騎士へと向かっていく。前回は落馬させることが出来たので今度も地面に這い蹲らせてやるよ。そしたら仲間を待ってタコ殴りだ。
勝利を確信して放った魔法は黒騎士の持つ盾に当たると、強風を巻き起こして忽然と消えてしまった。当然、黒騎士は無傷。
その手に持っている荘厳な紋様のそれは……。
「ディ、ディアナの盾……っ!?」
元『騎士団』団長ガウェインの形見、『神盾』だった。
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