ep.23 予感
あらすじ
骨が攻めてきた
少し走るとそこにはバラバラにスケルトンと戦う『赤槍の獅子』の構成員がいた。急に来ていきなりデカい顔をするのは得意じゃないがやるしかない。
「こっちを見ろ! 俺はヒナタ! この槍を兄貴に託された弟分だ!」
幸いにして俺の声はデカい。戦っている連中の半数以上が俺の方を向いた。
「兄貴に代わってここは俺が仕切る! ここで一番偉いのは誰だ!」
「おぉん!? 新入りコラァ! その槍はお頭のじゃねーかコラァ!」
釣れたのはゴロスじゃん。コイツがここで一番偉いなら話は早い。
ゴロスは大斧でスケルトンを蹴散らしながら俺に向かって怒鳴り返してくる。見た目によらず器用な奴だ。
「そうだ! 俺はライオネル兄貴の義弟になった。俺を兄貴だと思ってここは俺に従ってくれ!」
「テメェがお頭の義弟だとぉ!? ……仕方ねぇ! 命令寄越せコラァ!」
単細胞で助かる。周りは納得していないようだったがゴロスの怒声で流されたようだ。とにかく戦線を立て直すように指示すれば俺の役目は終わりだ。
「一度退いて体勢を立て直す! 俺に着いてこい!」
「漢が退けるかコラァ! 舐めんじゃねーぞコラァ!」
めんどくせぇ! 命令寄越せって言ったじゃん。
とにかくこいつ等は兄貴に弱い。兄貴を引き合いに出して説得しよう。
「バカかお前ら! 兄貴がいねぇのにこんなお祭り勝手に始めてんじゃねぇぞ!」
「あぁん!? お頭は今怪我で……あ?」
「そうだ! 兄貴の怪我は治った! 兄貴の復活に相応しい戦だぞ! 兄貴が来てねぇのに死ぬのかテメェら!」
顔を見合わせる荒くれ者たち。その顔には兄貴の戦う姿をもう一度見たいと書かれているようだ。
そう、この戦場に兄貴やヴゴールがいないことが異常事態。こいつ等を誘導するのは難しくないんだ。
「兄貴がいねぇのに勝手に戦いやがって! ぶん殴られても知らねぇぞ!」
「……お頭はどこだコラァ!」
「西の平原から向かってるところだ! 迎えに行くぞ!」
「分かったぜ若! テメェら退くぞぁ!」
「「おう!」」
ゴロスの号令で次々と戦線を離脱していく。一人一人は強そうなのに連携もクソもない動きだ。しかし、荒事に慣れているのか撤退の動きはスムーズである。
というか若ってなんだ? 若頭ってことか? 『赤槍の獅子』には入らないんだが、それを知られたらまずいことになりそうだ。
スケルトンの足はそんなに速くない。ゴロス達をまとめて撤退に移ることができ、ひとまずは安心だ。
撤退させることが成功したことを伝えるために、セシリオに伝令を頼む。セシリオは苦々しい顔をしたが頷いて『騎士団』の方へ走っていく。俺に伝令として使われることが少し悔しいようだ。
お前、伝令。俺、若頭。少しの間に随分と差がついたな、フハハ。
ぞろぞろと汗臭い男たちを引き連れてシモンの元へ行くと簡易的に陣が整えられており、手際の良さに驚く。
おそらくはシモンとウルガンの仕事だろう。やはりこの村に彼ら『賢者の宿』の能力は欠かせない。
「連れてきたぞ! 兄貴はまだか?」
「素晴らしいね、ヒナタ君。ライオネル君は平原の奥地まで行ってしまったようでね。伝令がなかなか帰ってこないんだよ。それより、指揮権は握れたのかい?」
「兄貴が戻るまでは、たぶん大丈夫」
「それは重畳」
辺りを見回すと、ここは村から200mほど離れた場所だ。こんな近い距離で戦っても大丈夫なのだろうか?
不安に思ったのでシモンに聞いてみると、
「スケルトンは人間か武器にしか興味がないからね。僕らが健在なら村に向かうことはないはずだよ。ディアナ君が陣形を整えて待っているから、ヒナタ君も右翼で彼らを統率してきてくれないかい?」
「いや、俺は陣形とか知らんぞ」
魚鱗と鶴翼なら某戦略ゲームで見たことあるけど並べかたなんて良く分からん。
「彼らにしっかりとした陣形なんてハナから求めてないさ。不格好でも並びさえすれば十分だよ」
彼らに団体行動なんて求める方が間違ってる、とため息を吐くシモンの顔は疲れている。俺は直に接してきたからもっと疲れてるぞ。
見れば『騎士団』の兵、約100名は割と綺麗に並んでいる。羨ましい限りだ。
簡易的でいい。横陣……だったか? なんか守れそうな形に荒くれ者を整列させなければならない。ファランクスだとかは長い槍と盾がないと出来ないのでとりあえず盾持ちを前に出して防御を固めよう。後は石でも投げれば骨は砕けそうだ。
中には少数だが弓を持っている奴がいたので敵襲が来たらまずは弓、投石で数を減らして盾持ちで防ぐ。やれそうなら突撃だ。
我ながら単純かつ幼稚な作戦である。しかし、『赤槍の獅子』の連中が難しい指示を理解するとは思えないし、俺もできない。今やれる最上策のはずだ。
ゴロスらに四苦八苦しながら作戦を説明し、何とか横三列くらいに整えた。人数は40人くらいだったので一列13人ほどの小さな横陣だ。大丈夫かこれ。
何とか体勢を整え、非戦闘員が拾ってきてくれた石を集めていると『騎士団』側から伝令が走ってきた。
「ヒナタ殿、偵察兵から報告が! スケルトンの数は約150体! 例の黒騎士が指揮をしているようで、固まって行軍しているようです!」
「……はぁっ!? この襲撃はあいつのせいだったのかよ!」
ライオネルの兄貴は未だ到着していない。
俺は、嫌な予感が現実になったことを受け入れたくなかった。
戦記物にわかです。
許してください何でもしますから。
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