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ep.22 資質

あらすじ

兄弟ができた



 目が覚めるとライオネルのテントで雑魚寝をしていた。昨夜は二人で浴びるように酒を飲み、いつの間にかつぶれてしまった。

 テントには誰もおらず、外で聞けばライオネルは目覚めるなり西の平原へ狩りに行ってしまったらしい。そんなに怪我が治ったことが嬉しかったのだろうか。


 テントから出た俺は陣笠を被り、槍と刀を背負って『賢者の宿』を訪ねる。


「シモン、いるかぁ?」

「ヒナタ君かい? 今開けるよ」


 玄関から出てきたシモンはいつもと同じ学者スタイルだ。


「話があってな。入ってもいいか?」

「もちろんさ。ミティとカティはまだ寝ているけど、起こしてくるかい?」

「いや、いいよ」


 中に入り席に着くとリンゴと水を出してくれる。昨日はまともに飯を食べていないのでありがたい。


「此処の事は分かってきたかな?」

「ああ。十分な時間を貰ったし、経験もさせてもらった」

「それは良かった。それで、話って?」


 シモンがじっとこちらを見ている中で、この三日間考え続けた事を頭の中でまとめる。


「俺は『賢者の宿』に入りたいと思ってる。認めてくれるか?」

「歓迎するさ。……でも、理由を聞いてもいいかな?」

「俺はスキルの関係上、『赤槍の獅子』にも『騎士団』にも肩入れできない。俺のスキルがあれば、命数はかかるが『契約と代償の村』の戦力を底上げできるからな」


 シモンは頷くが、続く俺の言葉を待っている。


「それに、ライオネルの兄貴が立ち上がったことで対立は解消されるはずだ。この村はまとまっていくと思う。そこで、中心となるのは『賢者の宿』だ」

「なぜだい? 僕らは優秀な知識やスキルを持っているけれど、戦力は無いに等しい」

「ライフラインだからだな。『賢者の宿』がなければこの村は立ち行かない。この村のリーダーになれるのはシモン、アンタしかいないんだろ?」


 加えて財産面でも『賢者の宿』はかなり溜め込んでいるはずだ。命数を稼ぐが死ぬ危険はほぼない環境。贅沢をしているわけでもないので総資産はいったい幾らになるのか。


 ライオネルは戦闘集団の取りまとめは出来るが村の運営は出来そうにない。ディアナもそうだ。更に、二代目団長としての経験はまだ浅いだろう。

 結論として、村長になりえるのは最初の使徒にして大金持ち(?)、知識が豊富なシモンしかいない。


「まいったね、そこまで分かっていたのか。今朝もライオネル君が訪ねてきて「お前がやれ」って言ってきたんだよ。あの調子じゃディアナ君のところにも行っているだろうね」

「兄貴らしいな」

「村の長を決める話は昔からあったんだけどね。周りが勝手に盛り上がって決まらなかったんだ。ライオネル君が本腰を入れようとしているなら時間の問題だよ」


 シモンはそう言って席から立ち上がり、遠い目をしている。


「指揮系統がバラバラだと神殿の建設にも影響が出るからね。本当はこんな役目やりたくないんだけどねぇ。ヒナタ君も手伝ってくれるだろう?」

「俺にできる事ならな」


 笑みを見せるシモン。彼に足りないカリスマはあの二人が補ってくれるだろう。俺の仕事はそうは多くないはずだ。

 その時、玄関を勢いよく開けてエロイが飛び込んできた。


「大変です! 東の亡者が大量に攻め込んできています! ディアナさんが騎士団の皆さんを連れて抑えていますが、突破されるのは時間の問題です。シモンさんにも来て欲しいと!」

「わかった、すぐに行くよ!」

「俺も行くぞ」

「助かるよ。僕もエロイ君もまともに戦えないからね」


 急かすエロイの後をついて走っていくが、村の中には人気が無い。非戦闘員はどこかへ隠れているのだろうか。

 村の東に行くと、遠く離れたところで戦闘が起きているのが見える。散らばっているが100体を超えるようなスケルトンが迫ってきていた。


「ディアナさん! 連れてきました!」


 戦塵に汚れたディアナは仲間から水を受け取り飲み干した後、口を開く。


「……よく来てくれたな。奴らは減るどころか増えるばかりだ。ライオネルがどこにいるかも分らんし『赤槍の獅子』の連中は先ほど駆けつけたはいいが勝手に動く。シモン、どうにかできるか?」


 随分と疲れた顔をしている。一体どれだけ戦ったのだろうか。シモンや赤槍の獅子への伝令が遅かったのはそれだけ混乱していたのだろう。

 不安な顔で問いかけるディアナだが、シモンは難しい顔で考え込むだけだ。


「うーん、どうにかって言われてもねぇ。敵の数は? 『赤槍の獅子』はどっちだい? とりあえず騎士団だけでも陣形を整えた方がいいね。戦線は下げても構わない」

「数は残り100といったところだな。奴等は右翼の方へ広がっている。ヴゴールすらいないからまとまらん」

「面倒なことになったね。……初仕事だよヒナタ君。ディアナ君たちはこれから下がるから右翼をまとめて来てくれないかな?」

「え、はぁ? 俺が? なんでだよ」


 俺はおかしな声を上げてしまう。『賢者の宿』に入ることを決めたばかりなのにどうして『赤槍の獅子』をまとめられるのか。


「背負っている槍、ライオネル君のじゃないか。彼らはその槍を見れば分かってくれるさ。僕を支えてくれるんだろう?」

「……分かったよ。期待すんなよ!」

「期待しているさ」

「すまない、頼むぞヒナタ」


 悪戯っ子のような表情のシモンと困ったような顔のディアナ。ディアナはかなり精神的に弱っているようだ。やはり、先代の形見を失くしてしまった事を悔やんでいるのだろう。

 そんなディアナに頼まれては無下には出来ない。シモンはどうでもいいけどな。


 背中の槍を取り出し、握りしめて右翼へ行こうとするとセシリオがこちらへ駆けてきた。


「ヒナタさん! 一人じゃ心配ですからね。僕もついて行ってあげますよ」

「助かる。今度は死ぬなよ?」

「ヒナタさんこそ足引っ張らないでくださいね!」


 憎まれ口を叩きながらも並走して戦場を目指す。

 俺は言葉に表せない嫌な予感を感じていた。



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