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ep.20 団長の死

三人称視点



「決着をつけようじゃねぇか騎士様よぉ」

「不埒なる獣人め。今日こそ駆除してくれる!」


 北の山脈にほど近い河川。そこで全身鎧の騎士と真っ赤な槍を持った獣人が対峙していた。

 大盾を構え全身を隠すように立つ騎士に対し、獣人は唇を舐めると頭上で槍を振り回して見せる。


「やっちまえぇ!」「団長ー!」「お頭! ぶち殺しちまってくださいよ!」


 河原には観戦しに来た使徒が集まっている。それぞれが自分の尊敬する人物を応援し、今回の決闘に期待を寄せていた。


「喰らえよっ!」

「甘いなぁっ!?」


 攻防は一進一退。赫々(かくかく)と存在感を示す槍は騎士の盾を貫けず、騎士も獣人の猛攻に攻勢に出ることが難しい。身軽な獣人が刺突を放ち、受け止めた騎士が弾き飛ばす。単調な戦いに見えるがその実、お互いの呼吸を読みあい隙を作ろうとしているのだ。

 この決闘は既に20回以上も行われている。その戦績は全て引き分け。己の好悪のためにぶつかり合っていた戦いは、いつの間にか『契約と代償の村』の祭りのようになっていた。


 月に一度のガス抜き。

 両者はそんな場で本当にお互いを殺してしまうことは考えていなかった。しかし、ぶつかり合う気迫は本気以外の何物でもなく。それは互いの武力への信頼だった。

 獣人が隙を見せれば騎士の剣が。剣を避ければ獣人の槍が。息を合わせたかのような応酬になり、周囲はヤジを止めて息を呑む。


 やがて二人は肩で息をして示しを合わせたかのように武器を下す。


「今日のところはこのぐらいで見逃してやるよ」

「ぬかせ。来月にはその息の根を止めてやるとも」


 玉のような汗をかき、周囲の歓声を受けた二人は笑みを浮かべ座り込もうとしていた――――その時。


「りゅ、竜が飛んでるぞ!」

「こっちにくる! 逃げろっ、逃げろぉ!」


 観客に向かって急降下し、砂煙を上げる一頭の竜。巨大にして神々しさすら感じる神話の生き物が形を持った暴威として襲い掛かってきたのだ。


ガウェイン(おい)! まだ動けるだろうな!?」

「誰に物を言っているライオネル(獣人)!」


 駆け出した時、突風が吹いて砂煙を晴らす。そこでは『赤槍の獅子』で飯炊きをしている女性が竜の(あぎと)に押し潰されている。

 その眼には既に光は無く。助けを求めるように突き出されていた腕がダラン、と力を失った。


 瞬間、ライオネルの表情は赫怒に染まり朱色の頭髪が逆立つ。


「ォオオオ!! メルッッ!!」

「待てっ! それは!」


 ガウェインの制止も聞かずに握り締めていた槍を全身を引き絞るようにして投擲する。

 輝きながらドラゴンに向かう槍は()()()()()()した特別製である。伝説の竜とはいえ、女神の祝福から生まれた槍に首筋の竜鱗を貫かれ咆哮する。


『――――――ッガァァァァアア!!!!』


 響き渡るような咆哮だが、そのお陰で顎は開かれ喰われかけていた女性―――メルが落下し、地に堕ちる寸前でライオネルが受け止める。


「メル……ッッ!! クソがぁっ!」


 既に息はない。零れ落ちる臓物を両手で受け止め、燃え上がる怒りの矛先へ顔を向けると――――そこには口腔に轟々と火炎をたくわえるドラゴンの姿。


 初めて目にする竜の炎、ドラゴンブレスに焼き尽くされそうになったその時。


「貸し一つだぞ、獣人」


 目の前が真っ赤に染まる閃光の中、聞こえてくるガウェインの声。周囲は熱風が吹き荒れ、衣服すら焼き付くような温度まで熱せられている。


「が、アァァ! 『獣化』!!」


 余りの熱に耐えられずライオネルは切り札、『獣化』を使用する。全身が膨れ上がり、獣毛が生え瞳は縦に裂けるように変化した。

 このスキルの効果は強力だ。身体能力を底上げし再生能力を付与するものだ。更に己の内から湧き上がる闘争心が恐怖を打ち払ってくれる。

 

 当然、その力には代償が伴う。一分間に命数を5消費するというコストだ。

 代償に見合う力を手に入れ、火炎の息が収まると同時に立ち上がる。

 

「しぶといな、獣人」

「馬鹿にすんな。こんぐれぇ屁でもねえ」


 ガウェインは赤熱化した盾を一振りして煙を払う。その立ち振る舞いには余裕すら感じさせた。

 見れば息を引き取った女性は燃え上がっていて如何に竜の息吹が強力だったかを物語っている。


「命数は余っているか? 槍が無ければ足手まといだ」

「一本くらいだせるさ。騎士様こそ余裕がないんじゃねぇの?」

「フン、ぬかせ」


 周囲は未だ黒煙に包まれている。ライオネルは竜に視認されない内に右手に槍を生成する。


「……『魔槍生成』」


 ライオネルの第二のスキル、『魔槍生成』は文字通り魔法的な力を持つ槍を生成する力である。代償は命数100。破格の代償と言える。


 それだけの命数と引き換えに生成する槍は何物をも貫く。ただ一つの例外を除いて。


「『神盾生成』! ……そろそろだ」

「……わかってらぁ」


 ガウェインの『神盾生成』も強力な力を宿す盾を生成する能力である。消費命数は『魔槍生成』と同じく100。

 更に竜の息吹を耐え切った『不屈』のスキルは命数を消費して体への損傷を抑える効果を持つ。


 黒煙が散る。ドラゴンが怒りをぶつけるように睨みつけている姿が見えた。

 ライオネルとガウェインは何の合図もなく、同時に駆け出す。


 それはただ、背中を預ける相手に恥じないように。



初めての三人称視点でした。

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