ep.15 撒いた種
あらすじ
女神降臨
女神が現れた。周りを見渡すとそこに立っていたはずの女神像が台座だけを残して姿を消している。
呆然としていたディアナが慌てて膝をつき、周囲がそれに習う。俺は出遅れてしまい棒立ちだ。
カティが俺の背に隠れてスーツを握りしめている。
『使徒ヒナタよ。褒美は後ほど授ける故、その神を引き渡すのだ』
「女神様が引き取ってくれるのは嬉しいんですけど、褒美って何ですか?」
ロープの端を差し出すと、無造作にバヌガレオスの頭蓋を鷲掴みにして受け取る。
命からがら帰ってきたのだからそれなりの物が欲しい。神話の空飛ぶ靴とか姿が見えなくなる兜とか。
『呪神バヌガレオスの権能の一部をスキルとして与えよう』
『我輩の権能を与えるとは。穢れし肉風情に過ぎたるものである』
『呪神バヌガレオスよ。貴様が力を失っている事は分かっている。我に服従するならば眷属の神としての待遇を約束しよう』
女神がそう言って握っていたバヌガレオスを宙に投げると金色のが頭蓋骨は跡形もなく消えてしまった。
『我が使徒共よ。これより数日以内に我が眷属とした神を数柱遣わす。神々の住処を建てるのだ』
「ははっ!」
ディアナがしっかりと返事をしてしまった。安請け合いは良くないよ。
しかも数柱ってなんだ。バヌガレオスだけじゃなく他の神様まで来るのか?
女神は俺を無機質な瞳で見つめた後、紫の光に包まれて消えた。その光の色はどこか俺の『粒子魔法』に似ている。
「……ふぅ。まさか女神様が出てくるなんてねえ。聞きたいことあったのに声が出なかったよ」
「仕方がありません。私たちのことなんて眼中になかったようですから。むしろ普通に話せていたヒナタさんが異常です」
「言い方ってもんがあるでしょ」
「弟子はへんなこ」
神様相手に緊張しなかったのは俺に向かって話しかけてきたのもあるが、無宗教で生きてきたからじゃないだろうか。ディアナなんか忠誠心が伝わってくるくらいの態度だったし。
「女神様が降臨なされ直に信託を賜ったというのにお前らは何を腑抜けているんだ! お言葉に従い、新しく神殿を建設せねば!!」
というよりも信仰心が爆発している。信心深い世界から来たのだろうか。
「団長、落ち着いてください。神殿に使う石材なんて見つかっていませんし、木材は南の森に行かなければありません」
「そうだねぇ。ウルガン君の仕事も詰まっているし『赤槍の獅子』の協力があっても数日で神殿なんて建てられないよ」
「仕事など後回しに決まっているだろう! 『赤槍の獅子』はアラリコ、貴様が動かせ!」
「そう言われましても……」
完全に空回りしている。頭脳労働組は早くも納期に間に合わないと諦めているようだ。
ここは女神様からお褒めの言葉を頂いたこの俺が仕切ることにしよう。
「今日はもう日が落ちそうだし、細かいことは明日決めてもいいんじゃないか?」
「む、むぅ。しかしだな」
気が逸って納得しかねるようだ。暗くなって森に木を切りに行くのは自殺行為だろ。化け物いるらしいし。
「俺たちだけ慌てても仕方ないだろ。急ぐなら人手がいるんだし、アラリコさんも帰って説明と人集めをお願いしたいんですけれど」
「任せていただきましょう。なんにせよ建設自体は決定しておりますからな」
「シモンとエロイも協力してくれよ。神殿の構造とか二人は詳しそうだし」
「もちろんだよ! 後世に受け継がれるような様式を考えておこうじゃないか」
「単純なノコギリくらいなら作っておきましょう。明日からウルガンさんは忙しくなりますね」
「弟子のくせにえらそう」
弟子のくせにってなんだ。弟子じゃないし。
根回しが得意そうなアラリコと知識の探求に余念がない二人のやる気を引き出すことに成功したようだ。俺ってばリーダーに向いているのだろうか? 日本ではそんな才能欠片も見えなかったんですけど。
「……いいだろう。ヒナタ、今日は『騎士団』に泊まるのだから団員たちへの説明に協力して貰うぞ」
「あの、今日は疲れたので早く寝たいんだけど」
「諦めましょうよヒナタさん。やる気を出した団長は今夜眠れませんよ」
遠足前の子供だろうか?
人生初の命がけの戦闘をこなしてきたのに体を休める暇もないなんて。あの髑髏の呪いかな? やっぱりカチ割っておけば良かった。
「そうだ、エロイ。剣と盾を失くしたから新しく作って欲しい。木材の調達に行くから明日までにな」
「ハハハ……。眠れないのは私も同じようですね……」
「本当は鎧も欲しいのだがな。それはまた今度でいい」
「エロイさん、僕もその、鎧を……」
遠い目をしてしまうエロイ。ウルガンとエロイの職人コンビはデスマーチに入るようです。
「そういえばヒナタ殿は『スキル継承』を騎士団の皆様に使ったようですな。我がギルドの荒くれ者たちが地団駄を踏んで悔しがっておりました。明日はよろしくお願いしますよ」
「ヒナタ君が持ってきた神様だからねぇ。仕事はたくさんあるよ? 良かったじゃないか、大儲けだね!」
「ばしゃうまみたい」
さぁて逃げ道はどっちだ? 伝説のサボり魔と呼ばれたこの俺にキツめのスケジュールは似合わねぇ!
「帰るぞヒナタ。団員への説明が終わったら神殿建設の計画と強力なスケルトンへの対策を話し合わなければ」
「逃がしませんよヒナタさん。僕たち、戦友でしょ?」
どこか遠慮がなくなったセシリオとやる気に満ち溢れたディアナに連行された。
「異世界に来てまで仕事漬けなんて嫌だぁ!!」
俺の叫び声は虚しく夕焼けの空に消えていった。
筆者が働いてんのに作品のキャラが働かないなんて許せなかったので主人公には死ぬほど働いてもらいます。
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