ep.14 降臨
あらすじ
頭蓋骨が下ネタ言おうとした
本日2話目です。
女神像の前に3ギルドの面々が集まった。中心に立たされた俺はロープを握ってバヌガレオスをぶらぶらさせている。
ディアナの予想通りヴコールは不参加のようだ。
「これが神とは……。ヒナタ殿、武功欲しさの虚言ではありませんな?」
「別に本当かどうかは分からない。こいつがそう言ってるだけだ」
「そうそう、ヒナタ君が拾ってきたことは確かだしお手柄だよね」
疑うアラリコに楽し気なシモン。『騎士団』の2人は黙ってその様子を見ているが、エロイは頭蓋骨に顔を寄せてまじまじと観察している。そんなに至近距離で見ていて気持ち悪くないのか?
「ヒナタさん、これ持ってみてもいいですか?」
「いいですよ。噛まれないようにしてください」
『噛み付くなど下等な生物のすることである』
エロイが手に持って観察しようとすると、俺の物言いにバヌガレオスが反論してくる。生物じゃないし下等も上等もないだろ。
「本当に喋るとは……」
「頭が固いねぇアラリコ君。こんなスケルトンだって動くのだから喋ったっておかしくないでしょ」
「しかし……人以外がしゃべるというのはどうにもですな」
「エルフのレイラは人じゃないらしいし、君たちのリーダーだってそうだろう? 不思議ではあるけれどね、肺も舌もないのにどこから音が出ているんだろう?」
やはり会話ができるしゃれこうべという存在は受け入れがたいようだ。俺だって極限状態だったら気持ち悪すぎてスルーしただろう。
観察を続けていたエロイが振り返り、頭蓋骨を返してくる。いらない。
「音は頭蓋骨全体が震えて出ているようですね。どうして振動するのかは分かりませんが、興味深いです。
あと、金で作られているのかと思いましたが余りにも軽いのでメッキでしょう。頭頂部にキズがあってそこから白い部分が見えていました」
『不本意な負傷である』
そのキズつけたの俺です。無駄に丁寧に扱っていたエロイに言うと怒られそうなので黙っておく。
すると笑みを浮かべたシモンがバヌガレオスに近づき話しかける。
「呪神バヌガレオス様、私はシモンでございます。いくつかお聞きしたい儀があるのですが」
『質問を許そう、醜悪なる肉よ』
頭だけのくせに偉そうだな。シモンもそんなに丁寧に話さなくていいのに。
「呪神様はあの泥沼のスケルトンを生み出した御方で間違いないでしょうか?」
『我輩が原因であることは間違いなく、意図して生み出したかと聞かれれば否である』
「それではあのスケルトンを生み出す方法を知っているのですか? 我々にもそれは可能でしょうか」
生み出してどうするんだ。敵が増えるだけの結果になりそうでやってほしくないのだが。
『この地で同じことが出来るかは我輩にも分からぬ。この次元に冥界かそれに類する世界が隣接しているのであれば可能である』
「この世界に死後の世界があるかどうかが定かでないと?」
『如何にも。我輩はその霊界を統べる神であるが故、現世に存在すること自体が異常極まる』
自分が送られた場所があの世じゃなかったから良く分かんねぇとか輝くゴミじゃん。
シモンたちが次は何を聞こうかと議論していると、今まで無言だったディアナが一歩前に出て口を開く。
「そもそも、だ。私たちは何を命じられてこの世界に送られた? 神を殺して『契約と代償の神』にこの世界の支配権を捧げることが契約だったはずだ。ならばこの頭蓋骨は叩き割ってしまった方が良いのではないか?」
「僕もそう思います。神を名乗るからには何か強大な力を隠し持っていてもおかしくないのですから」
そうじゃん。やっちまった方がいいんじゃね?
俺は内心でディアナに賛成しているが、三人の顔を見ると複雑そうな表情をしている。
「いやいや、殺すにしても聞けることがあるうちは殺さない方がいいと思わないかい?」
「存在自体が大変興味深いです。謎を解き明かせば何かに使えるかもしれません」
「この髑髏が本当に神なのかはさておきですねぇ。情報は力でございます故、危険を承知で留め置くことをお勧めしようかと、ええ」
三人がそれぞれディアナを説得しようしており、その目には欲望がちらついている。それぞれ方向性は違えど自分に忠実で結構なことである。
『揃いも揃って我輩を利用しようとは不遜である』
「呪神よ、お立場はお分かりか」
『悍ましき肉に囲まれ絶体絶命である』
「……やはり叩き切った方が良いのではないか?」
うーんこの。さっさと処してしまおうよ、あたし疲れちゃった。
全員が態度がデカすぎるバヌガレオスに不安を感じパッカーンも止む無しという顔をしている。
「しかしですねぇ、未知の知識とは時に……」
知識欲が止まらないエロイだけが不満気だが、こんな良く分からん奴は早く命数に変えてしまおう。いや、命数が貰えるかは知らんけど。
「エロイさんも分かっているんでしょう? 僕がやりますから、下がっていてください」
そう言うとセシリオがいつの間にか持っていたナイフを構える。当然俺は狙いやすいように頭蓋骨を持ち上げた。
『我輩を滅するなかれ。傷を付ければ子々孫々までの呪いを与えん』
俺はもう子々孫々まで呪われたってことでしょうか? なら俺がやっちまえば被害が広がらないかもしれない。
決意を胸にナイフを握るセシリオは震えている。神を殺すという行為が如何に恐ろしいかが伝わってくるようだ。俺は無宗教なのでそうでもない。
やっぱり俺がやろう。そう思ってセシリオに声をかけようとした時だった。
『止めよ、我が使徒よ』
聞き覚えのある女の声が聞こえる。その声を聞いた途端に体が動かなくなってしまった。
誰の声だったか思い出せないが、静謐で美しい声色だ。
『此度の戦功、褒めて遣わす。されどその神の処断は我に預けてもらおう』
神殿の出入り口から歩いてきたその女は真っ黒なドレスに身を包み、長い紫色の髪が舞うように動いている。手には板のような物を持っていてその顔は無表情。
目を見張るような美貌。その顔には見覚えがあった。
「め、女神像……?」
『否。石像に存在を降ろしているが、我が『契約と代償の神』である』
俺をこの世界に送りこんだ張本人がそこに立っていた。
主人公たちの親玉が登場!
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