ep.13 復活
あらすじ
喋る頭蓋骨を拾った
帰り道を知るために腰にぶら下げた神様を拷問にかける。
金色の髑髏、バヌガレオスは当初『醜悪なる肉に話すことなどない』と抵抗していたが、頭蓋骨を刀で少し削ってやるとナビゲーションを開始した。
ちなみに削ったら中から白い骨が見えた。メッキかよ。
「カティここしってるよ」
「じゃあ、拠点は近いのか?」
「うん」
約三十分で霧の少ない土地に出ることができた。ここまで来れば骸骨も見当たらないし安全だろう。
ここに来る道中でやけにスケルトンが襲い掛かってきたが、バヌガレオスとなにか関係があるのだろうか?
『是。我輩から呪力を奪った記憶が奴等を引き寄せるのである』
「呪いのアイテムかよお前」
そういえば呪いの神だった。喋る以外は何もできないのでつい忘れそうになってしまう。
それから更に二十分ほど荒野を歩き、『契約と代償の村』に辿り着く。
早足で神殿を探し見つけるなり扉を勢いよく開くと、地面に座り込むシモンとディアナを見つけ心底安堵する。
「遅かったじゃないですか、ヒナタさん」
「ちゃんと復活して何よりだセシリオ。酒奢る約束忘れてないだろうな?」
「それ勝手に言っただけじゃ……」
俺は心配するとイライラするタイプなのだ。
シモンは雑な造りの木綿の服を着ており、中世の平民のような恰好をしている。
その隣を見るとディアナが呆然とへたり込んでいた。美しい刺繍の施された軍服のような装いだが、みぞおちから下腹部まで布がなく、辛うじて腰回りから下にズボンをはいている。なんのご褒美でしょうか?
しかし、ディアナまで神殿にいるということはあの黒騎士に殺されたのだろう。
「ディアナ、だいじょうぶ?」
心配するカティがディアナの体をぺたぺたと触って怪我がないか確認するが、傷一つない綺麗な肌である。好き。
俺も心配はしているのだが、露出の増えたディアナに見惚れてしまっていた。
「……勝てなかった。この世界で私よりも強い存在は団長と、ライオネルと、あとはドラゴンだけだと思っていた」
ディアナの言う『団長』とは亡くなった最初の使徒、ガウェインのことだろう。ライオネルは怪我をしている『赤槍の獅子』の頭領だったはずだ。
この村で歴代ナンバー3の実力ならば十分だと思うのだが、彼女は今回の敗北が随分とショックであるらしい。
「油断、なのだろうな。今まで私の脅威になるスケルトンはいなかったんだ。二人の魔法で助けられながらも勝つことができなかった」
「それを言ったら俺は逃げた。ディアナさんを置いて」
「あの場にはカティもいただろう? それにセシリオと共に強力なスケルトンを倒したと聞いた。自分が情けないよ」
行きは活力にあふれていたディアナがまるで抜け殻のようになってしまった。負けたら自己嫌悪するタイプなのか。
そんな団長の様子を見たセシリオが慌ててフォローする。
「自分は最後に油断し、こうして復活してしまいました。二人を逃がすために懸命に戦われた団長は僕の誇りです!」
「必死だっただけさ」
「それでも、俺は命を救われた。いくら生き返るとはいえ命がけで戦えるアンタを俺は尊敬する」
「カティも」
もっとなんか言えよカティ。
「……すまないな三人とも。心配をかけてしまったようだ。なに、一晩寝れば立ち直るさ」
少し元気の戻った彼女が立ち上がり、薄く意地の悪い笑みを浮かる。
「ところでヒナタ。話し方が少し雑になっているぞ? もしかしてそれが素なのか?」
同様のあまり敬語を崩してしまっていたようだ。キツめの美人にへりくだるのは嫌いじゃないんでこのままでいいのだけど。
「そうだな、気を悪くしたか?」
「いいや? 私はそちらの方が好きだな」
なんだか心の距離が縮まった気がする。キュンキュンするね。
「団長とはいえ偉ぶろうとは思っていない。セシリオも、気軽に話してくれていいんだぞ?」
「い、いいえ! そんな、恐れ多いです!」
「カティもざつにはなす」
君はもともと雑ですよね。
笑みを深め、しっかりとした足取りで神殿を歩くディアナはもう心配なさそうだ。彼女は振り返り、決意を秘めた目で口を開く。
「さて、武具の新調をしなければな! 強力なスケルトンのことを皆に知らせなければならないし、対策も練らねば。やることは多いぞ!」
「できるだけ協力するよ。コイツとかがな」
今まで忘れていた頭蓋骨をヒョイと持ち上げて見せる。
「なんだ、その頭骨は? 拾ってきたにしては趣味が悪いぞ」
『不敬なり。悍ましき肉よ』
「なっ……!?」
急に話し出す頭蓋骨にディアナが警戒を露にする。バヌガレオスは両目からロープを通されプラプラとぶら下がっている滑稽な姿だが。
『我輩は呪神バヌガレオス。冥界の王にして神なり』
「か、み……? まさか、ヒナタ、神を討ったのか!?」
「いや違くて」
泥沼で喋る頭蓋骨を拾った話を二人に聞かせる。知っている話とはいえ居眠りしてんの気が付いてるからなカティ。
「なんとも……珍妙な話だな。神がこうも落ちぶれてしまうとは」
「よくもそんな存在を捕まえてこようと思いましたね。ちょっと理解できないです」
「やんのかこらぁ」
ドン引きしています、と言わんばかりのセシリオはこちらを煽っている。もう一回刀突き立ててやろうか。
ディアナは少し考えこんだ後、セシリオに向かって指示を出す。
「シモンとエロイを呼んできてくれ。奴らはこの手の話が好物だろう。それにアラリコもだな。全ギルドの人間が話し合うべきだ」
「了解です……ヴコールはどうしますか?」
「一応声をかけておけ。小難しい話になるから出てこないだろうが」
セシリオが神殿から出ていき、ディアナはため息を吐く。流石に死に戻りをしてすぐに本調子とは行かないようだ。セシリオはタフだな。
そこで、ふと気になっていたことを聞いてみることにした。
「なぁ、ディアナ。なんでずっとお腹出しているんだ? 冷えないのか?」
「ああ、これか。冷えないしお腹を壊したこともないぞ」
そういうと苦笑しながら腹部に両手を当てる。何そのポーズエロイ。じゃなくてエロい。
「よく聞かれるのだが、私の故郷では未婚の若い女はみな腹を剥き出しにするんだ。妊娠していないか、妊娠した痕が無いか一目でわかるようにな。腹を覆っていると妊婦か、何か隠していると邪推されてしまう。ここに来てから変だと言われるが、そういう文化としか言いようがないな」
「そうなのか。俺は君の故郷に生まれたかったよ」
「どういうことだ?」
知らなくていい、理想郷の民よ。そんな俺のために作られたような国に是非とも行ってみたいものだ。その文化を作った人が誰だか知らないがソウルメイトと呼ぼう。
『汚らしい臓腑を覆う肉が何だと言うのか』
「黙れよクソ骨」
骨フェチの変態神には一生分からん!!
というか、なんで俺が興奮していることを察せたのかこの頭蓋骨は。
『我輩が今、どのような位置にいるか考えてみるが良い』
「……あ」
ベルトからぶら下げた髑髏はちょうど股下に位置し、両目の間をロープで吊るしているので視線は自然と上を向いている。
『醜悪なる肉ぼ「言わせねぇからな?」……』
そんな国に筆者も生まれたかった。
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