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ep.11 二体の骨


 

 足元が泥濘で動き辛い。

 目の前には剣を持った骸骨がいて、ぎこちない動作でこちらに切りかかってくる。これが初めての戦闘なら怖くて仕方ないがそうではない。


「これでっ!7体目!」


 枯れ木を圧し折るような乾いた音を出して地面に散らばる骨。剣を振り切った体勢で息を整えるのは木剣を鉄製の片手剣に持ち替えたセシリオだ。

 俺の足元に薄汚れたしゃれこうべが転がって来たので踏み潰す。また動いたら怖いし。


「一体ずつとはいえしっかり戦えているな、二人とも。次は集団戦をしてみるか?」

「はい!修行の成果をお見せします!」

「お前は元気だな、セシリオ」

「ヒナタさんはお疲れですか?」


 俺たちは今、東の湿地帯で骸骨の兵士と殺し合いをしている。相手はゲームよろしく『スケルトン』と呼ばれている他の神の眷属だ。

 ディアナは俺がそれなりに戦えることを知り、久しぶりの運動で息を上げる俺と昼間まで寝ていたカティを引きずって湿地帯外縁部に連れてくるとスケルトンを倒せと言ってきた。


 張り切るセシリオと即席のコンビを作って単独行動する骸骨野郎を滅多切りにする。

 ここまで七体のスケルトンを倒した方法は盾を持ったセシリオがスケルトンを抑え、隙をついて俺が間接部分を狙って木剣を叩き込む基本戦術である。


 そう、木剣である。


「いやおかしくないか? せめて鉄の剣だろ鉄の。なんだ木剣て。訓練用じゃないのかよ」

「すまないが予備の武器はみな誰かが持ち出していてな。ここで新しく調達すればいいだろう?」

「調達って、あのボロ武器を?」


 スケルトンは何も素手で襲い掛かってくる訳じゃなく、錆びでボロボロになった槍、ヒビや欠けて今にも折れそうな剣などを持っていた。

 倒した七体分の武器はロープでまとめてカティが引きずっていて、ただでさえ今にも壊れそうなのに砂まみれだ。

 カティはめんどくさいと言いたげな顔をしてロープの端を握っている。


「これらは流石にダメだろうな。だが強いスケルトンほど良質な武器を持っているし、ある程度の損傷ならエロイが直してくれるぞ」

「強いスケルトンを倒すのに使うのが木剣なんですがそれは」


 むしろ強い敵を倒すために良質な武器が欲しいんですが。


 文句を聞き流してずんずん湿地帯に進んでいくディアナはとても楽しそうだ。スパルタな体育教師みたいな性格である。


 この湿地帯は勾配もなく沼に気を付ければ歩きやすい場所で、水気が多いのに草はそれほど生えておらず木に至っては見える限り2、3本だ。

 それだけの場所なら敵に見つかり放題だが、濃く深い霧に覆われているので最悪の事態には陥っていない。


「かえりたい」

「初めて意見が合ったな。俺もだ」


 短く文句を垂れるカティと一緒に二人の後を追う。彼女も戦闘に一度参加しており、氷の魔法でスケルトンを粉砕していた。ボーリングの球ほどの大きさの氷塊を敵にぶつけても魔力量は余裕だというのだから劣化していない『魔力生成』の強力さを再認識した。


 数分ほど歩くと霧でやや見え辛くなっていたセシリオが振り返って叫ぶ。


「ヒナタさん!敵が来ましたよー!」

「声がでけぇんだよバカ!!」

「ヒナタがいちばんおっきい」


 耳を塞いで抗議してくるカティはどうでもいい。敵が集まってきたらどうするんだ。

 慌てて駆けつけると今まで一度も抜かなかった剣を手に持ったディアナが薄く笑みを浮かべて構えていた。


「思ったよりも敵の数が多そうだ。セシリオとヒナタはカティを守ってくれ。私が数を減らしてくる」


 セシリオと同じく右手に剣、左手には荘厳で立派な盾を持ったディアナが霧の向こうから見えてきた影に向かって駆け出す。

 霧が邪魔でよく見えないが、骨を叩き切る音と楽し気な声が聞こえるので少なくとも危険は無いようだ。


「ヒナタさん、後方から来てます」

「……良く分かるな。気が付かなかった」


 「慣れですよ」と笑って後方に飛び出すセシリオ。これは俺がカティのおもり係ということか。


「弟子はカティがまもったげる」

「そんな眠そうな目でよく言うわ」


 正直カティは頼りないので油断なく周囲を警戒していると、戦闘音に混じって馬の足音のようなものが聞こえてきた。


 馬……? ここに?

 疑問を浮かべていると霧の中から骨だけの馬に乗った黒い騎士が飛び出してくる。


「カティ!」


 隣にいたカティを抱えて避け、後頭部のあたりに風切り音を聞きながら地面に転がり泥に塗れる。

 想像よりも軽いカティは迷惑そうな顔をしているが感謝して欲しい。


『コォォ……』


 シャ、シャベッタ? いや、喋っていないが、地の底から響くような唸り声が聞こえる。


 素早く立ち上がって振り返ると、骨の馬に乗ったそいつはこちらをじっと見ているようだ。黒い鎧に包まれ、顔まで隠れる兜を被っているので表情は分からないが黒い怨念のようなものを感じる。手には巨大な突撃槍を持っていて、あんなもので貫かれたら即死確定だろう。


「ヒナタ!逃げろ!!」


 突如、霧の中からディアナが黒騎士に向かって立派な盾を思い切りぶつける。骨の馬は嫌がったのか少し距離を取るように移動するが、黒騎士の視線は未だにこちらを向いている。


「ディアナさん、こいつは何です!?」

「わからん。少なくとも骨の馬も全身鎧のコイツも見たことはないな。それよりも早く逃げてくれ、守り切れん」


 再び突撃するディアナは善戦しているよに見えるが、黒騎士は悠然と構えて攻撃を捌いている。

 ふと袖が引かれ振り向くと不安そうなカティがこちらをみている。ディアナを置いていくことに一抹の罪悪感を抱いていたが、木剣で何ができるわけでもないので逃げることを決意する。


 しかし、やられっぱなしも気に食わないので。


「カティ。一発デカいのをヤツにブチ込んでから逃げるぞ。俺が『粒子砲』を放つのが合図だ」

「りゅうしほうって何?」

「遠くまで届く衝撃波のやつだ」

「……だせえ」

「うるせぇ!やるぞ!」


 即席で名前をつけたのだから多少は仕方ないだろ。

 体内の魔力をゆっくりと右の手のひらに集める。『粒子波』くらいなすぐに放てるが、『粒子砲』になると少しの集中が必要だ。


 5秒ほどで準備ができる。隣をみると全身に冷気を纏ったカティがこちらを見て頷く。


「行くぞカティ。『粒子砲』!」

「『偉大なる氷殻を』、いてつけ」


 俺の右手から紫色の粒子が噴出し、カティの目の前にとてつもない勢いで氷が固まっていく。

 ディアナと対峙していた黒騎士を紫色の螺旋が覆い馬上から弾き落とし、数瞬後から放たれた巨大な氷塊が馬を轢き潰す。半径2メートルもあろうかという氷塊は骨の馬をバラバラにし、下敷きになった部分は粉になっていることだろう。

 

 やったか?と思ったが未だ黒騎士は無事であろうことは確信している。フラグもクソもない、これくらいで倒せる敵ででないことは俺にだってわかる。


「――――ッ!! ダメだ、もう逃げろ!」


 近くで様子を見ていたディアナが叫ぶと同時に氷塊にヒビが入り、粉々になった氷の破片が飛び散ってきた。

 そこには突き出した槍から赤黒いオーラのようなものを纏わせた無傷の黒騎士が立っていて、説明されずとも怒りモードであることが伺える。


「流石に手に負えないだろあんなの。逃げるぞカティ!」

「これ弟子が持って」

「捨ててけそんなボロ武器!!」


 渡された武器の束と持っていた木剣をぶん投げ、後方のセシリオに向かって逃走を開始。カティは見た目通り足が遅かったので手を引いて急がせる。後ろで死なれたら目覚めが悪い。


 霧が少し晴れ、見える範囲が広がると地面に片膝をついているセシリオを見つけた。


「セシリオ!どうしたんだ!?」

「ヒナタさん!ダメです、こっちに来たら……」


 言い終わらない内にセシリオに刃を叩きつける影が一つ。そいつは時代劇で見た形の、陣笠のようなものを被り日本刀にそっくりな形をした剣を持つスケルトンだ。

 セシリオは何とか盾で凶刃を避け、転がるようにしてこちらに近づく。よろよろと立ち上がったセシリオは何とか盾と剣を構え、こちらに背を向けて陣笠スケルトンと対峙した。


「ヒナタさん、団長を呼んできてください。こいつは僕の手には負えません!」


 そう叫ぶセシリオは所々に切り傷ができているが出血は少ないようだ。スキルが無ければ失血死してもおかしくないように思えるが。


「ディアナはもっとやばそうな奴と戦ってる。こっちには来られないだろうな」

「本当ですか!?こんなこと、一度もなかったのに……」

「泣き言を言っても仕方ないだろ。何とかするぞ!」

『カァッ!』


 油断を探していたのか、ディアナのことを聞いたシモンが動揺した隙に陣笠スケルトンが間合いを詰めてくる。

 とっさに発動させた『粒子波』で弾き飛ばすと陣笠が取れて転がって来た。頭の中で陣笠スケルトンと呼んでいたのにこれじゃただのスケルトンじゃないか。そう思いながら陣笠を拾ってみる。

 薄い鉄に革を張った案外良い造りで気に入ったわ。


「二人は魔法で支援してください。ヒナタさん、木剣はどうしたんですか?」

「んなもん捨ててきたわ」

「あれ二本しかないんですよ?木材はどこも足りていないんですから」


 そんな貴重なものだったのか。悪いと思うけど俺の命には代えられない。

 横には俺の手を握りしめたままのカティが目をつぶっている。こんなところで居眠りかよ、と思ったが魔法の準備をしているのだろう。


「はやいやつだす」

「敵が来ますよ!」


 目を開けたカティが手を前方に向けるのと同時にスケルトンが駆け出す。


「『幽玄なる氷刃を』、きりさけ」


 瞬時に形作られ飛んでいく氷の刃は『高速思考』が無ければ見えなかっただろう。そんな高速の魔法にスケルトンは反応を見せ、避けきれずに左腕が跳ね飛ぶ。


 駆け出した勢いそのままで接近してきたスケルトンがセシリオの脳天を狙って片腕で大上段に構えるが、頭上で紫色の盾に阻まれて振り下ろせない。少しだけ刀身がめり込んでいるようだがこの分では割られることはないだろう。


「『粒子壁』だぜ。勢いがなければ切れんだろ」


 最後のとっておきの魔法、『粒子壁』である。3メートル以内でないとまともに発動できない魔法だ。

 密度が足りず木の盾よりマシ程度の強度だが、振り下ろす前に展開してやれば大して威力もないので十分防ぐことができる。

 ……片腕じゃなかったらなんて想像したくもないが。


「これならっ!」


 横薙ぎに切りつけた片手剣はスケルトンの背骨――――胸椎と腰椎の間――――を叩き切って振り抜かれる。

 

 勝利を確信し、声を上げそうになったその時。

 

 崩れ落ちるスケルトンが刀を振るい、セシリオの肋骨に刃を差し込んでいた。

騎士と武士。

どちらが強いか議論になるけど両方敵という悪夢。


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